第30話、精霊との戦闘をする錬金術師。
しかし大きい。多分この精霊、さっきまで居た大量の精霊の集合体なんだろう。
あれだけ居たのに一体も居ない事を考えれば、おそらくその予測は間違ってないと思う。
となると問題はあれらの精霊が元々がこの姿なのかどうか、という点だろうか。
元がこの姿という事なら何の問題も無い。
だが先程の精霊が全て別の存在で集合したのなら・・・。
「ちょっと、厳しいかも」
精霊は基本、一体だけでも人間を遥かに超える存在だ。
勿論そんな精霊を倒せるだけの才能を持った人間も確かに存在する。
絶対に倒す事の出来ない存在という訳じゃない。
それでも、それは相手が一体なら、という話な所はある。
大前提として、精霊は基本的に強いのだから。
その強い精霊が別個体同士で手を組めばどうなるか。
もしそんな事になれば、ただでさえ強い精霊が手の付けられない存在になる。
「流石に違うと思いたいけど・・・取り敢えず様子見、かな」
プチッと踏み潰そうと出して来る足を躱し、そのまま山の中を走る。
甘く見ていたのか、恐怖で動けないと思ったのか、動きは緩慢だった。
精霊は躱された事に少し動揺している様子だったけど、すぐに歪な顔を私に向ける。
山林を走っているのにきっちり見てる。どうやら隠れ逃げての攻撃は無理そうだ。
「そもそもここは向こうのテリトリーだし、戦闘になれば見逃さないか」
走りながら観察を続けると、腕が一瞬ぶれたのを確認する。
不味いと思い靴に魔力を通して思い切り跳躍。
次の瞬間私の居た所に揺らめく腕が生えており、土と木が跳ね上げられて吹き飛んでいた。
「威力は中々、魔法の類は攻撃には使わないのかな?」
あれだけ強力な魔法が使えるのだから、何かしらの魔法を使ってもおかしくないと思う。
いや、もしかしたらこの攻撃は魔法なのかもしれない。
攻撃を放った本体を見ると、両腕が普通にだらんと下げられている。
なのに私の居た所に腕が生えていて、その先は繋がっていなかった。
精霊はその体自体に魔力が詰まっているから、あれが魔法なのかどうなのか判別がつかない。
「腕を放ったのか、発生させたのか、ちょっと速過ぎたし、躱すのに焦ったから見てなかった」
結界石の残りは十分有る。だから全力で防御すれば何とかはなるだろう。
とはいえ相手の手札がどれだけ何が有るのかがまだ解らない。
下手に消耗するような真似は避けた方が良い。
「ま、見逃してくれないよね」
また精霊の腕がぶれる。跳躍で逃げたから私の体は空中で身動きが取れない。
軌道を読んで狙い撃ちをして、それで終わりにするつもりだろう。
「ふっ!」
何時もよりちょっと多めに、丸めて鞄に縛ったたままの絨毯に魔力を込める。
そのまま無理矢理下に飛んで、腕を躱しながら攻撃した後の状態を観察。
「ぐっ・・・!」
結界に掠った。掠っただけで一つ吹き飛んで、頭痛が襲って来る。
その瞬間絨毯がおかしな軌道で飛び出したので、即座に新しい結界石を取り出して展開。
何とか制御を取り戻してそのまま空を飛びながら距離を取る。
「既に消耗してたとはいえ掠っただけで結界を一つ破壊か。まともに当たれば不味い威力かな。多分ただ物理的な威力が有るだけとは思わない方が良いかも。それにあの腕、別に腕を飛ばしている訳じゃないのかな?」
腕が一瞬ぶれた後にあの腕が放たれているけど、その直後にぶれた腕は元に戻っている。
たとえ飛ばしているのだとしても、あの一瞬で治るのでは隙にもならない。
あれを隙と見るには存在としての規模が違い過ぎる。
「あ、消えてる」
一撃目の腕を確認すると、既にその姿は無くなっていた。
二撃目の腕はまだ残っていたが、三撃目を放って来た瞬間に消えた。
どうやら残しっぱなしではない様だ。出来ないのかしないのかは解らないけど。
ただそれの確認をしていたせいで三撃目は躱しきれなかった。
身体にはギリギリ当たらなかったけど、結界は全部吹き飛ばされてしまう。
「がっ・・・!」
尋常じゃない頭痛に襲われ、絨毯が周囲の濃い魔力の影響で訳の解らない軌道で飛び出す。
頭痛と絨毯に振り回されながらも結界を張り直し、何とか早めに立てなおした。
「四つ重ねの結界を一撃か」
今の体に当たってたら死んでたね。一応躱す自信があったからやったんだけど。
流石にもう二、三発見てからやるべきだったか。
しかし精霊的には今ので決められなかったのが不満だったんだろう。
何だか唸る様な声が聞こえ、明らかに敵対心の見える威圧を放ち始めた。
「羽虫が周囲で飛び回ってうっとおしい。って感じかな。でも、こっちも死ぬ気は無いの」
取り敢えず今度は攻撃に移ろうと、魔法石を一つ放ってみる。
風の魔法石を撃ち放つと、精霊は躱す事も防ぐ事もせずにまともに食らった。
「・・・なるほど、それなら防がないか」
放たれた暴風は精霊の体の一部を削り取ったが、魔法が突き抜けた瞬間即座に治った。
ダメージが通っているのか通っていないのか不明だけど、すぐに治るから防ぐ必要も無いと。
ただ不快だったらしく、少し本気にさせてしまった様だ。今度は両腕がぶれた。
「くうっ!」
全力で回避に努めるが、躱しきれないと思って握っていた結界石を全て展開。
片腕は躱せたが、もう片方はどうやら私が躱した後を狙って来たらしい。
完全に捉えられて殆どの結界が吹き飛ばされた。
全て吹き飛ばされた訳では無いので体は無事だが、大きく後方に吹き飛ばされる。
残った結界も地面に激突した際、衝撃を緩和して幾つか消えてしまった。
即座に起き上がって結界石を握り直し、状況の確認をする。
「少し危なかった・・・けど、今の威力、一撃目より弱かった様な。ギリギリ耐えられるぐらいだと思ってたのに、六つも残ってる」
確実に狙う事を重視して威力を落とした様に見える。
最初の一撃と同じ威力なら、多分結界はこんなに残らなかったんじゃないだろうか。
それに両腕同時にぶれた様に見えたのに、時間差でやって来た。
あれは予備動作ではあるけど、あれをした瞬間に放つという訳でもないのか。
「あれしか攻撃手段が無いのか、あれで十分だからあの攻撃しかしないのか・・・出来ればその辺りも確かめたいけど、そろそろ厳しいかな」
結界石の消費が激し過ぎる。せめて常時展開分の結界石が必要なければ良かったんだけど。
「そろそろ、強めに反撃させて貰おうかな」
魔法石を片手で『握れるだけ握って』魔力を通し、精霊の腕がぶれる瞬間に放り投げる。
次の瞬間複数の魔法石は纏まって一つの巨大な水晶になり、そこから放たれた膨大な魔力を含む氷の刃が腕を飲み込み、そのまま精霊の腹を刺して突き抜けた。
精霊は何が起こったのか解らなかったのか、自身を刺し貫いた氷を茫然と見つめている。
だがその氷が少しずつ体を侵食し始めた事で、慌てて抜け出そうと地面を踏みしめた。
氷の刃を握って何とか抜こうとしているが、抜ける気配は無い。
「・・・何だ、お母さんの精霊の方が強いや」
あいつならこの程度防いで、またニマニマして私を見下しているはず。
攻撃の威力は中々だけど、どうやらそれ以外はそこまで大した事はなさそうだ。
今もどんどん凍る体に焦り、バタバタと暴れて逃げようとしている。
巨体が暴れるせいで凄い地響きがなっているけど、それでも氷の刃から抜け出せない。
「じゃ、次で終わりにしようか」
今度は別の魔法石を握り込み、魔力を通す。
そこから発生する魔力に気が付いた精霊は、歪な顔を私に向けて後ずさろうとした。
だけどそれはただ地面をえぐるだけで、相変わらず氷の刃に阻まれて動けない。
「吹き飛べ」
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店の外がやけに騒がしく、悲鳴なども響いて来る。
直後に店の周りを掃除していた店員が、青い顔で店内に戻って来た。
どうかしたのかと駆け寄ろうとした瞬間、地震と轟音が響いて思わず蹲った。
「きゃぁ!」
お客さん達も驚いて机の下に隠れる人や、振動で倒れる人も居た。
料理もその振動で落ちてしまい、割れた皿が散乱してしまう。
ただ振動はすぐに収まったので、取り敢えず青い顔で蹲る店員の傍に寄った。
「ど、どうしたの、何かあった?」
「ば、ばけ、化け物が・・・山に、化け物が・・・・!」
「ば、化け物?」
訊ねると歯をがたがたと鳴らしながら震え、化け物が居ると言い出す。
良く解らずに首を傾げると、また振動が走った。
外では相変わらず悲鳴の様な声が聞こえて来る。
「一体、なにが・・・!」
とにかく確認をしようと店の外に出ようとしたが、振動が何度も走って上手く動けない。
それでも何とか外に出てると、外に居る人達は殆どが同じ方向を向いていた。
「あっちに、何―――――――なに、あれ」
何か、巨大な何かが、山で暴れているのが見えた。
あれが動くせいで地震が起きていたのだと、嫌でも理解出来る大きさだ。
恐怖で思わずぺたんと座り込むと、次の瞬間、氷の様な物が巨大な何かを貫いた。
「え、なに、なにが」
何もかもが理解出来ないでその光景を眺める。
巨大な化け物は氷から抜け出そうとしているのか、かなり暴れてその度に地面が揺れる。
だけど氷からは抜け出す事が出来ずに、そして―――――――閃光が走った。
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