第21話、性能実験をする錬金術師。

「ふっんぅ~~~~はぁ・・・良く寝たぁ」


ぼやーっとした頭を動かしつつ、テーブルに目を向ける。

そこには今日も作って貰ったライナのお弁当があり、もう見るだけでギュルっとお腹が鳴った。

お腹が減ると急激に目が覚めてきて、早く食べようとお弁当を空ける。


「昨日は楽しかったなぁ」


お弁当を空けると、昨日ライナと話した事を思い出す。

知らない人とのお話はちょっと怖かったけど、その代わり門番さんと仲良くなれた。

お世話になったお礼も、何時かちゃんとしないとなぁ。


その事をライナに話したら、自分の事みたいに喜んでくれた。

自ら人付き合いの輪を広げようとしているのは良い事だ、って頭も撫でてくれたし。

だからなのか昨日の食事も心なし豪華だった気がするし、お弁当もとてもおいしそう。


「もぐもぐ・・・おいひぃ・・・のは何時もの事か・・・」


ライナの料理は何時だって美味しい。なのでお弁当も何時も通りぺろりと平らげてしまう。

はぁ、美味しかった。さて、今日はどうしよう。

昨日は頑張ったし、今日ぐらいは一日引き籠っても許されるよね。良いよね?


「どっちみち報酬を取りに出ないといけないし・・・」


貰いに行く日まではのんびり引き籠ろう。そう決めてベッドに転がって丸まる。

そもそも何日も重い物を運んで帰って来たのに、その後休んでないんだ。

あ、そう思うと何だか急に疲れた気分になって来た。


「うへへぇ・・・二度寝・・・お昼寝・・・ひもち良い・・・」


幸せな気分でそのまま寝て、夜はライナのお店に行って食事を貰う。

帰り際にお弁当を貰ってまた寝てと、物凄く幸せな一日だった。

そして翌朝またお弁当を食べながら、ふと忘れていた事を思い出す。


「あ、ひょうだ、もぐもぐ、移動用の道具作らなきゃ、もぐもぐ」


忘れてた。このままだとまた忘れそうなので、思い出した今日の内に作ってしまおう。

でも取り敢えずお弁当は全部平らげてからだけど。美味しい。もぐもぐ。


「えっと、鞄に全部入れてたはず」


食べ終わったら鞄をひっくり返して、中に入れていた素材を出す。

そして先日登った山で採集した鉱石と、前に狩った狼の魔獣の毛皮を床に置く。


「うん、良い感じに乾いてるかな」


毛皮は肉を綺麗にそぎ落とした後、同じく山で採った植物を擦り付けて日に晒しておいた。

肉類を腐りにくくする効果を持つ植物で、お肉を持って帰る時に使ったのもこれだ。

毛皮類には擦り込んで水につけておくと腐りにくくなるし、日に当てて乾かしても縮まない。


「油も付けて、毛をふわふわにー」


ただ乾かしただけだとちょっとごわごわなので、同じく山で採れた小さな実を刷り込む。

硬くて渋くて余り美味しくない実だけど、潰すと油になる植物だ。

専用の道具が有るとしっかり油が取れるけど、こうやって擦り付けるだけでも案外効果が有る。


「ん、良い香り。こんな良い匂いがするのに美味しくないんだよなぁ・・・ずっばぁ!」


久々に一つ口に入れてみたら、余りに渋くてすっぱくて頭が痛くなった。

やっぱりこれはそのまま食べる物じゃない。ああ、耳の後ろあたりがぎゅーってなる。


「あ゛あ゛~~・・・こ、鉱石、を・・・ああまだ頭痛い」


頭痛を引きずりながら鉱石を一つ手に取り、毛皮の裏に擦り付けて行く。

鉱石はポロポロと容易く崩れていき、崩れた鉱石は毛皮に残る魔力に溶け込む様に消えて行く。

そうして手にある鉱石が無くなるまで擦り付け、終わった所で毛皮に魔力を通す。


「ん、後3つ・・・4つかな。それで完成しそう」


魔力を通すとふわっと浮き上がった毛皮を見て、あとどれぐらい必要かを見定める。

そうして予測通りの数を使い切って、毛皮の上に寝転がった。

まだちょっとだけチクチクする気がするけど、数日使えば馴染むだろう。


「ゆっくり、と」


室内なので余り急に浮くと危ないし、ゆっくりと魔力を通す。

毛皮は私の力加減通りにゆっくりと浮き上がり、空飛ぶ毛皮の絨毯が出来上がった。

魔獣の毛皮だからそこそこ頑丈だし、さっきの作業で柔らかくもなって一石二鳥だ。


「これで移動は楽になった」


魔力を少し使うけど、これに使う量は微々たる物だ。

元々そういう性質の鉱石を使っているのだから、そこまで消費も多くない。

ただそれだけに採れた量は余り多くは無い。使える数が見つかっただけ僥倖だ。


「後は靴にもつけておこう」


今使っている靴は普通の靴なので、同じ様に鉱石を擦り付ける。

こっちは別に魔獣の皮とかではないので、私自身の魔力を混ぜ込んで。

ただこの場合、魔獣の毛皮使った時みたいに浮き続ける事は出来ないんだけど。


「でーきた」


空飛ぶ絨毯と足が軽くなる靴の出来上がりー。

手に入った鉱石全部使ったけど、それに見合う物が出来上がった。

後は戦闘用の道具も作っておこう。


「爆弾の材料は手に入らなかったんだよなぁ・・・」


残念ながら爆薬になる物は何も見つからなかった。

山を掘り進めば手に入るかもしれないけど、流石にそんな事をしている時間は無かったし。


今度は別の所を探しに行こう。

移動も楽になった訳だし、山を掘らなくても手に入る材料もあるのだから。

取り敢えず今は魔法石の予備を作っておこうかな。


魔法石に使える鉱石、というか水晶もあの山で採って来た。

別にこの水晶じゃなくても作れるけど、どうにも相性という物が有る。

お母さんは河原の丸い石の方が使い易いと言っていたけど、私は水晶の方が魔力の通りが良い。


更には水晶の種類でも魔力の通りが違うので、なるべく使いやすい水晶を確保しておきたい。

とはいえ今は選んでいる余裕は無いので、有るもので代用していくしかないのだけど。

採って来た水晶をハンマーで割り、手ごろな大きさに分けていく。


「これぐらいかなー」


片手で握り込める大きさになった所で両手で握り込み、水晶に自分の魔力を馴染ませる。

自分と水晶の境が解らない感覚になった所で、ゆっくりと魔法の形を中に圧縮していく。

あせらず、ゆっくり、時間をかけて、発動直前の魔法の状態を水晶の中に構築して。


本来の自分が放てる最大の威力を、更に超えるだけの力を水晶の中に籠め続ける。

そうして手の中に膨大な魔力が込められた魔法石が出来た所で、それが解放される鍵を付けた。

私の魔力だけに反応して力を開放し、他者の魔力には反応しない様に。


「ふぅ・・・いっこ出来た。よーし、今日は一日魔法石作るぞー」


まだ日は高い。絨毯や靴の性能を試しておきたいけど、人目に晒されたくはない。

夜中になれば人も減るし、暗闇で良く見えないだろう。やるなら夜中が良い

そう決めて、夜まで魔法石を作り続ける事にした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


真夜中に兵士に緊急招集がかかった。

門番以外の警邏の人間全員が、休みの人間も含めて呼び出されて集められた。

内容は町中に魔獣が現れた可能性が有る、というものだ。

街中であれば平和な街というのが唯一の売りの街で、その話は余りにも大きな事件過ぎた。


「絶対に単独で動かず、目標を見つけたらすぐに仲間を呼べ! 行け!」


指揮官の言葉で数人のグループに分かれて皆が街に散り、俺も同じ様に街を走る。

俺が兵士になるまでこんな事件は聞いた事が無い。手に持つ槍が手汗で滑る。


「空飛ぶ魔獣か。そのままどっかに行ったとかだと良いんだが・・・」

「見かけた人間の言葉じゃ、街のどこかで降りてそのままだった、って話だからな。通報に来た時間の間にどっか行ってる可能性もあるが、どうかな」


街の者からの通報では、黒い人間大の何かが跳ねているのが見えたそうだ。

最初は良く解らなかったが、それが近づいて来て近くを凄い速さで跳ねて行ったらしい。

夜中で暗いし動きは速いしで良く見えなかったらしいが、家屋の屋根をはるかに超える高さで跳ねて行ったと。


その通報が一つだけならばともかく、この夜中に相次いで通報が来た。

なのでこれはおかしいと上に報告が入っている間に、今度は街の空をぐるぐると飛ぶ何かが居ると情報が入る。

同じ生き物か、別の生き物かは解らない。だがどちらも人間と同じぐらいの大きさらしい。


勿論飛んでいて距離感が解り難い以上、見間違いの可能性は有るだろう。

それに夜中だ。普通なら気のせいだろうで笑って済ませる様な物だ。

だけどいくら何でも街のあちこちから同じ声が聞こえれば、流石に誰もが異常事態だと解る。


「ほんと俺、何かに呪われてんのかな・・・!」


この街、俺が兵士になるまでは平和な街だったんだけどなぁ。

いや勿論ごろつき共の喧嘩とか、偶に犯罪者とか現れるけどさ。

こんなに街中で警邏の兵士総動員するような騒ぎ、無かったんだけどなぁ・・・。

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