第18話、助けを求める錬金術師。

報酬を貰えたのでそそくさと酒場を出る。

結局最後まで視線が切れる事は無く、外に出てやっと人の目が無くなった。


「こ、こわ、かったぁ・・・」


酒場を出て路地に逃げ込み、ずるずると崩れ落ちる。

心臓がバクバク鳴っていて頭に響くほど煩い。


「頑張った。私頑張った・・・!」


逃げ出さず、パニックにもならず、マスターにちゃんと対応出来た。

これは私にとっては大成功なんじゃないだろうか。

それによく考えたら私、この街に来てから結構人と関わっている気がする。


ライナは別としても、門番さんともちゃんと話せてるし、お仕事も二回目だ。

最初こそ絶望を感じたけど、これは良い調子なんじゃないだろうか。

私やれるんじゃないだろうか。いや、やれる。


「ちょ、ちょっとだけ、自信もって、良い、よね?」


今迄全然人と対話出来なかったのに、ちゃんと対応出来る人が二人増えた。

普通の人達と比べれば些細な事だろうけど、私にとっては快挙だ。

そう思うと何だかとっても嬉しくなって来た。


「えへへぇ・・・よし、今日は帰って、この気分のままライナのお店に行こう」


少し笑みを漏らしながら立ち上がり、宿に向かって歩を進める。

お仕事は終わったし、今回の報酬でまた暫く引き籠れそう。

あ、でも、お薬の報酬は貰うのを忘れない様にしないと。

また行くのを忘れてライナに叱られちゃ元も子もない。


「それに、お肉も狩って来なきゃいけないし。うん、気を付けよう」


同じ失敗はしない様にと気合を入れつつ宿まで辿り着く。

そのまま自室に籠って仮眠を取ろうと思っていたら、部屋の前に知らない男性が立っていた。

見た事ない人だ。宿のお客さんだろうか。いやでも何で私の部屋の前に?


「ふぇ・・・部屋に戻れない・・・」


知らない人が私の部屋の前から動かない。何あの人怖い。

ええ、帰りたかったらあの変な人と話さなきゃいけないのかな。

やだよ。怖いよ。ああ、扉ノックしてる。


え、っていう事は私に用が有るの?

何で? 誰? 私あんな人知らないよ?

怖い。やだ凄く怖い。知らない人怖い。


「ふぐぇ・・・!」


泣きながらその場を回れ右して、宿を逃げる様に出て行く。

気が付かれない様に足音を立てず、そのまま一旦近くの路地に逃げ込んだ。


「なにあれ・・・なにあれ・・・!」


訳が解らない。私に知らない人が訪ねて来る事の意味が解らない。

せめて室内に入ってからなら引き籠れたのに、扉の前に居たらどうしようもない。

うう、どうしよう。このまま暫くここで蹲ってたら帰るかなぁ。


「・・・そもそも何の目的なんだろう」


私に関わってくる項目なんて、四つしかないはずだ。

先ずは当然だけどライナ。そして次にマスター。そして門番さん。最後に女将さん。

私はそれ以外の人と関わった覚えがない。訪ねて来られる様な覚えは何もない。


「知らない人怖いぃ・・・!」


私を訪ねに来たという事は、間違いなく私に何か用が有るという事だ。

その事実が怖い。何を言われるのか解らなくて怖い。とにかく怖い。


「そ、そうだ、暫く隠れて、閉店後ライナに助けを求めに行こう・・・!」


我ながら名案だと思い、そのまま陰に潜む様に蹲る。

が、すぐにそれは駄目だと頭を横に振った。


「ライナが危険な目に遭う事は、私が許せない」


駄目だ。その案は却下だ。男性の目的が解らない以上は出来ない。

ただ話を聞きに来ただけなら良いけど、それ以外の目的だった場合が怖い。

私にとっては、その「ただ話す」という事が怖いのだけど。


「あぅ、どうしよう・・・」


結局解決案が出ずに唸りながら丸まる。

このままじゃ部屋に帰る事も出来ない。


「あ、そうだ、門の兵士さん・・・!」


街で困ったらあの人にお願いしようと思ってたんだ。

そうだそうだ。そうと決めたら早く行こう。

あの優しい門番さんならきっと助けてくれるはず!


「よ、よし、行こう」


そうと決めたら即座に立ち上がり、街の門に向かう。

早足で門まで辿り着くと、いつもの様に門番さんが・・・。


「―――――居ない」


何時もの門番さんが居ない。知らない顔の人しか立っていない。

足元が崩れる様な感覚と共に絶望が押し寄せて来た。

期待していたから余計に落胆は大きく、泣きそうになりながら近くの路地に蹲る。


「うう・・・じゃあ本当にどうしよう・・・」


門番さんがどこに居るのか解れば良いけど、全く解らないから探し様が無い。

何時も門で会うからてっきりそれがお仕事だと思ってた。

どうしよう。どうすれば良い。ああもう訳が解らなくなって来た。


「どうしたんだ、こんな所で蹲って、だいじょ・・・あ」


パニックになりかけていると背後から声を掛けられ、その声は聞き覚えのある声だった。

少し明るめの優しい声。つい最近かけられたばかりの、男性の明るい穏やかな声。

思わず笑顔で振り向くと、そこには何時もの門番さんが、少し驚いた表情で立っている。

やった。助かった! わーい!


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「ふふん~♪」


ああ、気分が良い。夜中の警邏も何の苦にもならない。

思わず鼻歌なんて歌ってしまうぐらいに心が軽い。


「こう上手く行くとは思わなかった」


フードの女の訪問に行かなくて良くなった事が、心の底から嬉しい。

偶々何度も関わったからって、あの怖い女相手に自ら関りに行くのは本気で嫌だ。

という事をこういう時担当の文官や上司に伝えたら、仕方ないと納得して貰えた。


「減給とかも無いし、本当に良かった」


上司に逆らったので処罰の類の可能性も有った訳だけど、お咎めなしで終わっている。

自分としてはむしろ処罰が有った方が良かった、と思わないでもないけど。

心が弛んでる、とか言われて厳しい再訓練とかの方が、あの女に会わなくて済む。


「ま、でも、警邏なら会う事も無いだろう」


態々人に話しかける人間じゃない事は流石に解っている。

もし違うなら顔を見せたがらなかったり、門を素通りしようとはしないだろう。

遠目で見かける事は有ったが、見かける時はいつもあの噂の食堂の近くだ。

あそこと宿にさえ近づかなければ、早々顔を合わせる事もない。


「こう気分が良いと、人に優しく出来そうだ」


困ってる人が居ればすぐに助けたい。そう思えるぐらい今の俺は機嫌が良い。

まあ兵士だし、警邏だし、それが当然の仕事ではあるんだが。


「ん、路地に、誰か蹲ってる・・・?」


背中しか見えないから良く解らないが、胸を押さえて肩が上下している様に見える。

体型的には多分女だ。何かの病気で倒れでもしたのか?

病気の場合何が出来るとも思えないが、見つけた以上見過ごす事は出来ないか。


もし薬が必要なら、あの酒場のマスターにでも頼めば手に入るかもしれない。

とはいえそれは、蹲っている人物に金が有ればだが。


「どうしたんだ、こんな所で蹲って、だいじょ・・・あ」


近づいて声をかけると、女らしきフードの人物が、こちらを振り向いた。

顔は見えないが、だけど明らかに見覚えの有るフード姿の女が。

そのせいで一瞬後悔したけど、いやいや待て待てとすぐに考えを改める。


目の前の女は確かに見覚えの有るフード姿だ。

持っている鞄も物凄く見た覚えがある気がする。

だけど、目の前の女からは、何時もの迫力を感じない。

だからもしかしたら別人じゃないのかと、そう思った。思いたかった。


「見つけたぁ・・・!」


おどろおどろしい声が耳に入って来た。本人だった。

女が立ち上がると同時に何時もの迫力というか、威圧感がこの身に襲ってくる。

・・・俺は何かに呪われているんだろうか。



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https://twitter.com/kskq89466/status/1111028506488561664

セレスのイラストになります。

通常バージョンと対人バージョンの二種類描いてます。

イメージ崩したくない、という人は見ない方向でお願いします。

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