第6話、お土産を渡す錬金術師。

門を通る際、また怒られてしまった。

フードを外したくなくて、毎回うっかりその事を忘れる。

前回もそうだけど、思わず頭が少し下がって様子を伺う体勢になってしまう。

うう、怒られるの怖い。だけど私が悪いし仕方ない。うん、仕方ない、よね・・・。


「その魔獣は、アンタが仕留めたのか? そいつは群れで襲って来る奴のはずだが・・・大変だったろう」


もうフード被って良いかなと思いながら門兵さんを見ていると、突然そんな事を聞かれた。

大変、なのかな。魔獣を狩るのは実家では日常だったし、特に苦と感じた事は無い。

というかあの程度なら、何百体襲って来ても殲滅出来る自信が有る。

もしかしたら数が増えて困ってるとかなのかな。


・・・こ、この人は、や、優しい人みたいだし、大変そうなら、助けてあげようかな。

て、提案するのは、怖いけど、ちょっと、聞いてみよう、かな?


「・・・大変なら、魔獣、殲滅しようか」


自分にとっては精いっぱいのお喋りで、門兵さんに訊ねてみた。

顔色を窺う様に下から見つめ、首を少し傾げながらおずおずと。

久々の自分からの提案に不安で少し眉が下がっていたと思う。

すると門兵さんは何故か眉を顰め、私から目線を少しずらした。


「い、いや、変な事を聞いて済まなかった。行ってくれ。通行料も要らないから」


そしてよそよそしい感じでそんな事を言われてしまった。

私はまた何かを間違えたんだろうか。間違えたんだろうな。私だもん。

もうやだ。慣れない事をやろうとするんじゃなかった。もうお家帰る。


明らかな拒絶の反応に泣きそうになりながらフードを被り直し、一旦宿に向かう。

今の時間にライナのお店に行くと夕食を食べる客でいっぱいと聞いている。

なので迷惑かもしれないけど、閉店後に少し顔を出しに行こう。


今は少しふて寝をしたい。頑張って話しかけたんだけどなぁ・・・。

やっぱり私は人と話す事なんて出来ないんだと、そう結論を出して宿で少し寝た。

仮眠を取るつもりで寝たので起きた時はちゃんと外は暗く、星の位置から予定通りの時間に起きれた事を窓から確認する。


「お肉以外は置いて行こう」


鞄からお肉以外の物を取り出して、入らなかったから持って歩いていた頭も鞄に入れる。

窓の外から人の流れを確認し、なるべく人気の無さそうな所を選んでライナの店へ。

聞いていた通りもう準備中の看板が置いてあるけど、中からは人の気配はある。

ただライナ以外が居たら少し怖いので、恐る恐る扉を開いた。


「ラ、ライナー?」

「ん? ああ、お帰りセレス。材料は多少は見つかった?」

「う、うん、明日には、調合出来るよ」

「そ、なら良かった。こっちも買い出しのついでにちゃんと頼まれた物揃えて置いたわよ」

「あ、ありがとう、ライナァ!」


本当にありがたい。今日久々に頑張って門兵さんに話して心が折れたから余計に。

うう、思い出したらまた泣きそうになって来た。何がいけなかったのかなぁ・・・。


「背負ってる鞄に材料が入ってるの?」

「う、ううん、違うよ、これはライナへのお土産が入ってる」

「へえ、何かしら」

「い、今出すね」


ライナ、喜んでくれるかな。喜んでくれると良いな。

そう思いながら上から入れた頭を取り出すと、ライナはビクッとして一歩下がった。


「え、ちょっ、何、それ」

「お、狼の魔獣の頭。この種類はお肉美味しいよ。普通の獣の方だといまいちだけど、魔獣だと何故か凄く美味しいの。あ、内臓は使うから持って来てないの。ごめんね?」

「い、いや、そういう問題じゃ、無いんだけど・・・そういえばセレスって戦えるんだっけ」

「う? い、一応その辺の魔獣程度には負けない様に、お、お母さんに鍛えて貰ったから」


何だろう、ライナの反応が少し鈍い。嬉しくなかったのかな。迷惑だったのかな。

どうして私はこうなんだろう。良かれと思ってやっても上手く行かない。

気が付くと人が離れて行き、気持ちの悪い物を見る目で見られる。

やっぱり、人付き合いは苦手で怖い。大好きな親友相手ですらそう思ってしまう。


・・・違う。親友だから、大好きだから、余計にそう思うんだ。

彼女にだけは嫌われたくないのに。もう彼女しか、今のは私には居ないのに。


「まーた見当違いの事考えてる顔してるわね。セレスが何考えてるのか知らないけど、別に今更セレスの事を嫌いになったりしないわよ。呆れはするけどね」

「ふえっ?」


悲しくて俯いていると、ライナは私のフードを取って頭を撫でていた。

それがとても優しくて、暖かくて、胸のうちに会った苦しい物が消えて行く。

ライナのて、きもちいい。


「ありがとう。お肉、感謝して受け取っておくわね」

「う、うん。うん!」


ああ、やっぱりライナは優しいな。子供の頃からこうやって気が付いてくれる。

本当に大好きで大事な親友。再会して大人になっていても、全然変わってない。

やっぱり彼女にだけは、何が有っても、嫌われたくない。


「でも、怪我とかは無いのよね? 私は狩りとか出来ないから解らないけど、それでも怪我して帰ってくる人が居るのは知ってるし、大丈夫なのか少し心配なんだけど」

「へ、へーきだよ。この魔獣そんなに強くないから」

「そうなんだ・・・」


またライナが難しい顔をしている。何でだろう。

お肉を見つめているし調理法でも考えてるのかな。


「そういえばセレスは、もう夕食は食べたの?」

「う、ううん、まだ食べてない。ちょっと疲れて、仮眠してたから」

「そうなんだ。じゃあ軽く作ってあげるから、部屋の方で待ってて。道具類も部屋のテーブルに置いてあるから、ついでに確認してその鞄にでも入れておいたら良いわ」

「う、うん、ありがとう、ライナ!」


ライナの優しさが嬉しくて、とてもご機嫌にライナの部屋の向かう。

テーブルには頼んだ道具が揃っていて、今日一日でこれだけ揃えてくれたその行動が嬉しい。

買い出しのついでって言ってたけど、きっと頑張ってくれたんだろうな。


ライナの事で胸がいっぱいになり、思わず笑みを漏らしながら鞄に仕舞っていく。

割れ物が多いので気を付けて持って帰らないと。

入れ方にも気を付けて・・・。


「・・・これで大丈夫かな?」


鞄を少し揺らすと、カチャカチャと音はするけど割れそうな気配は無い。

これだけあれば薬は勿論、普段使いの道具も作れるだろう。

ちょっとだけ道具が足りないけど、それも魔法で少し補助すればいい。


そういえば、爆弾の材料探ししないと。この近くに在るかな。

今残ってる爆弾って焼夷剤が入った物だから、森だと使えないから少し困るかも。

爆風で全部吹き飛ばすタイプは炎も吹き飛ばすから使い勝手がいいんだよね。

偶に調整失敗して燃え移って焦るけど。


「ふぅ・・・良いや、今はのんびりしてよう」


鞄を部屋の隅に置いて、今は考えるのは止めておく。

どうせ山が近くに有るんだ。時間をかけて歩けばその内に良さ気な物が見つかるだろう。

そう思って椅子にもたれていると、何も入っていない胃を攻撃する様な良い匂いが漂って来た。


「うきゅ・・・うう、お腹、空いて来た・・・この匂いは、拷問・・・」


ぐぎゅるるると音をさせているが、ライナがやって来るまで耐えるしかない。

そういえば全然食事を取って無かった。は、早く、ライナ・・・!



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



セレスは私の部屋に向かわせて、早速貰った肉を使って調理をする。

魔獣の肉らしいけど、確かにこの肉は美味しい物だったと思う。

横に置かれた生首を見て、以前食べた事を思い出しながら肉を切る。

この生首どうしよう。ほほ肉とかも美味しいかな。


「お腹を空かせてるだろうし、パパっと作っちゃおうかしらね」


早めに作れる料理をパパっと作り、その間にちょっとつまみ食い。


「んっ、何これ、すっごい美味しい。このお肉ってこんなに美味しかったっけ?」


脂身が口の中で蕩ける様だ。赤身部分も柔らかいし癖も少ない。

幾ら魔獣の肉だからって、こんなに美味しい肉は珍しい。


少なくともこの魔獣の肉を初めて食べた時は、こんなに美味しくなかった。

セレスの処理が上手かったのか、偶々この個体が美味しいのか、どっちだろう。


「・・・セ、セレスに、お肉、卸して貰おうかな」


そんな事を一瞬考えたが、私が言うと森の獣を殲滅する勢いで向かう予感がした。

止めておこう。何が起こるか解らない。

セレスは弱い魔獣と言っていたけど、この魔獣はそんなに弱くない事ぐらい知っている。


街に肉が出回る時も、縄張り争いで負けたらしい集団が山から下りてきて、兵士達が必死で倒したずたずたになった物が回って来るだけだ。

だから毛皮も肉も状態は悪いし、不味くはないけどそこまで美味しいという程じゃない。


「山の方で何か事件が有ったかもって兵士さん達が言ってたけど、多分セレスの仕業だと思うのよねぇ・・・黙ってた方が良いよねぇ。はぁ・・・」


私の親友は基本的には引っ込み思案で自分に自信がないコミュ障だ。

それは良ーく知っていると同時に、もう一つの顔も知っている。


「あの子、怒ると怖いし、害敵には容赦無いのよね・・・」


正直に言うと、だから仲良くしていたという部分も無い訳じゃない。

この子は怒らせては駄目だと、そういう恐怖。


「ラ、ライナァ・・・お腹がへこんでしぬぅ・・・!」


聞こえて来る情けない声からはそんな事想像も出来ないけど。

思わずふふっと笑みをこぼしながら、出来上がった料理をもって部屋に向かう。

全く、本当に全然変わらないんだから。

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