第32話 777回の転生をした今世。妻が魔王と聖母の心を宿しているとは
......なんとも微妙な空気になってしまった。
イムは笑顔で入り口に立つ男性の前に行き
「おめでとう」
と一言言い放った。その一言は完全に脅しの言葉だった。
モンスターに【威圧】という能力がある。今、安らかに眠っている遊者(ライト)とカルバンも強烈な威圧を受け続けたことにより察知出来るようになったものだ。
(そもそも持っておけよと思うが)
村人というのは戦う術を持たないので、その分、鈍感であり、立ち向かうという選択肢を持たないが、上級モンスターが襲ってきたと思わせる恐怖を与えればいいのだ。
イムの威圧を受けた入り口の村人はブーケを落とした。
イム、中々やるではないか。現実を折り曲げやがった。
そしてイムは宿屋の女性にブーケを渡す。
「掴みかけたものは何をしてでも掴まなきゃ、幸せは掴めないよ」
イムが宿屋の女性に向けた言葉は聖母のように優しく温かなものであった。
(魔王級の威圧と聖母の温かさを心に宿しているとは。えっ? すごくないか?)
温かさを受け取った宿屋の女性は涙を流し、イムに抱きついた。それにつられ、周りの村人の女性たちももらい泣きをしている。
(これが聖母の力なのか)
なぜ、村人や宿屋の女性がイムに恐れなかったのか。それは威圧を入り口に立つ村人だけに向けていたからである。
当初はその威圧を全体に広げていたせいで森がざわついていたが、遊者(ライト)のおかげで一点に向けるコツを掴んだと思われる。
グッジョブだ遊者(ライト)よ。
とりあえず棺桶に入っている遊者(ライト)に向けて親指を立てておく。
......でも、入り口の村人以外の人がブーケを掴んでいたらどうなっていたのかと思うと少しだけ寒気がした。
結果オーライなのでそれ以上想像を膨らますことはしなくてもいいと思うが。
さて、こちらの問題に話を移そう。
【どうして遊者(ライト)とカルバンが棺桶に入っているか】
だ。それもイムが関わっていることは間違いない。
むしろイムによってだ。
少し時間を前に戻そう。
俺はイムをエスコートしていると、その周りでちょくちょくハエのように群がっていた。
「なんだよ! すげえドレスだな」
「おいどんが作ったでごわす」
「いつの間に! 俺、お前のいびきで何度も起きてたんだけど」
「ふふふでごわす」
まだ緊張感のない会話をしやがって。と村を出て瞬間。
遊者(ライト)とカルバンの声が静かになった。
村の外に出ればさすがに緊張感は持ってくれるんだな。と少々感心してはみたものの、遊者(ライト)と見ると......。
す、で、に。棺桶に入っていた。
そう。イムは俺に気付かれることなく二人を棺桶の中に送り出してあげたのである。
どんなことをしたのかはわからないが.
(風が吹いたくらいで倒れてしまうので、容易いことに間違いないのだが)
そして一つ分かったことがある。
【イムは絶世の美女でありながら最強の擬人化スライム】
だということが。
......魔王がどこまで強いかは知らないが、もしかしたらイムはそれを遥かに超えるのではないかと思う。
......夫婦喧嘩は絶対にダメだな。それこそ世界が破滅することになる。
とまあ、俺が遊者(ライト)とカルバンの棺桶送りを許可したからなのだが。
これが落ち着いたら、旅の再会だな。
とひと段落したところで俺が遊者(ライト)とカルバンを蘇えそうとした時、イムが俺に近づいてきた。
「セブン、私のわがままに付き合ってくれてありがとう」
「いや、形式は大事だと思うから」
「もう‼︎ もっと好きになっちゃう」
「それは嬉しいな。イム、ニコルの村の女性たちにもイムのように幸せになって欲しいから一度、遊者(ライト)を蘇すぞ」
「えっ。蘇さなくていいよ」
(そういうわけにいかないだろ)
「私が蘇すから」
とイムは蘇生の上級魔法【リバイバー】の魔法を唱え、遊者(ライト)とカルバンは同時に蘇った。
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