第30話 777回の転生で『とびきりイエス‼︎』を選択してみました。
俺は準備が終わりカウンターで遊者(ライト)たちを待っていた。
宿屋のスキルも鈍ってはいなかったし、魔王を倒した後は職に困らなそうだな。
そういえば宿屋の女性、起きてこなかったな。
ここ一ヶ月くらい一人で切り盛りしてたんだ疲労が溜まっていたのだろう。起こすのも悪いからカウンターに金を置き。しばらく経つと遊者(ライト)とカルバンの声が聞こえてきた。
「なあ、俺の歯ブラシ知らない?」
「しーらないでごわす。しゃかしゃか」
「ってカルバン! 今使っているの俺の歯ブラシ!」
「そうでごわしたか」
「くらえ! 枕の一撃!」
「ぐはぁぁでごわす。でも戦士は強いでごわす」
「何を〜では枕スラッシュ!」
「ぐわあああ、やられたでごわす」
「フフフ。これで世界は平和になったぜ! ガッハッハ」
平和なのは遊者(ライト)の頭の中だ。
なんて和やかな会話なんだろう。これから人質を助け、魔物を退治しに行くとは思えない緊張感である。
俺が頭を抱えていると、背後からイムの声が聞こえた。
「セブン」
イムの声はいつもより穏やかでおしとやかだった。
おっさすがイム。準備が早いな。お前だけだよ俺の味方でいてくれるのは。
俺は振り返りイムを見ると、装備の上から、シーツで作ったウエディングドレスを着て、頭にはウエディングヴェール、さらにブーケを持って(装備して)ゆっくり歩いてきた。
一瞬戸惑ったが、遊者(ライト)のお陰で反応速度が早くなったようだ。
分析するに......ウエディングヴェールはおそらく宿屋の女性が貸したものだろう。だが、ドレスは昨日の夜に全て畳んだはずのシーツということは間違いがないが、これほどまでの上品なドレスを仕上げてくるとは! イムよ、なかなかやるではないか。少し防具屋の記憶が蘇ってきたぞ! ......じゃなくて‼︎
勇者としての立ち振る舞いをしなければ!
「どうしたんだ? そのドレスは」
イムは聞いて欲しかったのであろう。嬉しそうに話し始めた。
「えへへ。実は宿屋の女性と夜、女子会をしたんだ」
「女子会ね」
寝かしてやれよ。
「で、セブンとの馴れ初めを話して」
(スライムがこちらを見ているか?)
「婚約したんだけど、冒険に出ているからいつ結婚式を挙げれるか分からないって言ったら作ってくれたの」
「えっ? 誰が?」
「誰って宿屋の女性に決まってるじゃん」
部屋のドアからひょこっと顔を出し、親指を立てこちらを見ている宿の女性。多分、先ほどまでドレスの仕立てにかかったのであろう。会った時よりも疲労度が増している。
(寝かしてやれよ‼︎ ってか、寝ろよ!)
俺は疲れ切っている女性を休ませようと、宿屋のことを全て請け負ったというのに、疲労を増す仕事を請け負うとは。宿屋としては最高の仕事をしたな。
だが俺の気遣いは水の泡だ。
イムはもじもじしながらこちらを見ている。
「あの、ちゃんと言って欲しいの」
「何をだ?」
「結婚しよって」
......なんだろう。俺は何も救っていないのに、自分だけ幸せになってもいいのだろうか。なんて思えてきたぞ。
「私と結婚しよ♡」
【イムからちゃんと結婚を申し込まれました】
えっ‼︎ 俺がプロポーズするんじゃないのかよ! しかもここ宿屋!
ムードも何もないよね? 部屋にいたはずの宿屋の女性がカウンターの上に立ち、牧師役を買って出た!
寝とけ‼︎
【結婚受諾しますか?】
【Yes】
【とびきりのイエス‼︎】
どちらもイエス! もう婚約指輪をしているので、イエスには変わりないのだが。というかとびきりのイエス‼︎ とは何だ?
俺は興味本心で
【とびきりイエス】を選んだ。すると、イムは俺の顔にスリスリしてきた。
......なるほど! よくわからん‼︎
こうして遊者(ライト)たちが出てくるまでの3時間、イムに右頬、左頬、そしておでこに顔をスリスリされ続けるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます