第29話 777回の転生したって、許せないものは許せません(自分を含め)

 俺は宿屋の女性の言葉を鵜呑みにしてしまった。確かに捕まる要素はないのかもしれない。だがあいつらだって男であることには変わりはない。

 油断してしまった。勇者としてあるまじきことだ! くそ!


「イム! すぐに東の洞窟に向かう......」


 俺が自分の失敗を取り戻すため必死な表情で先のことを考えていると、ベッドの下からクスクスと笑い声が聞こえる。


「セブンのやつ、焦っているな」

「さすが遊者の考えることでごわす。最高でごわす」


 ......あっいた。

 俺は今までは、今までは許容範囲だと思っていた。だが、今回はお前らの身の安全と自分自身の不甲斐なさが入り混じってさすがに怒りの落とし所が見当たらない。

 18歳にもなって、8歳の子どもがやるようなことをしやがって。

(そういえばカルバンは何歳なんだ?)

 焦って損をした。

 多大なる損をした。俺はエアーの魔法でベッドを吹き飛ばすと、隠れていた遊者(ライト)とカルバンが姿を出した。


「何が起きたんだ! これじゃぁ見つかってしまうじゃないか!」

「もう少し楽しみたかったでごわす」


 と、残念そうに化粧姿の俺の顔を見ると、頬を赤くして、どぎまぎし始めた。


「あっあれ〜君がどうしているのかな? 俺の部下のセブンの声が聞こえて出てきたんだけどな」


 出てきたんじゃないだろ。出したんだ。それにお前(ライト)の部下になった覚えがない。


「君が来てくれるなら隠れなかったにでごわす」


 意味がわからない。人を顔で判断するな。いや、性別で態度を変えるな。


「よっしゃ! セブンが君みたいな美しい人に迷惑をかける前に朝飯でも食いますか!」

「そうでごわすね。セブンは困ったやつでごわす。懲らしめてやるでごわす」


 迷惑をかけているのはお前らの方なんだけどな。

 俺の声から緊急だと判断したイムはすぐに駆けつけてくれた。


「セブン! どうしたの?」

「......なんでもなくなった」


 俺は怒りを抑えるので必死だった。あわよくば望んでいた展開になって嬉しく思ってしまった俺も少し恥ずかしいし。

 遊者(ライト)とカルバンは不思議な顔をして俺を見ている。


「イム」


 イムは呼び捨てにされたことで分かりやすく苛立って見せると、遊者(ライト)は言い方を変える。


「イム様、この人に今、セブンとおっしゃいましたか?」

「ええ、セブンだもん」


 遊者(ライト)とカルバンは大笑いする。


「こんな綺麗な方が、セブンのわけがないだろ。笑わせないでください」

「セブンはもっとブサイクでごわす」


 おいおい、俺がいないところで結構な言いようだな。それとカルバンに言われたくはない。カルバンよお前は自分の顔をどのくらい評価しているんだ? さすがに俺と肩を並べているとは思っていないよな?


「ねえ、村を出たらピピ(やっちゃって)いい?」

「許す」


 今回ばかりは庇いきれなかった。一度、お灸を据えなければいけない時期が来てしまったのであろう。

(最初の村でお灸を据えるとか、なんなんだ。ある意味天才か最強か? いやただのバカだ)

 とにかく、こいつらが俺をセブンだと理解するに時間がかかりそうだったので、女性として振る舞うことにした。

 俺は、少し高い声で


「お食事を冷めないうちに食べてください」


 と言うと遊者(ライト)とカルバンは一目散に朝ごはんが置かれている部屋に向かった。

 呆れかえっている俺にイムは優しい目で俺を見ながら、抱きしめてきた。

 イムよ、俺は女性に目覚めてはいないからな。

 遊者(ライト)たちが飯を食べている間、旅の準備をしなければと俺は化粧を落とし、身支度を整えた。

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