第26話 777回の転生の中で学んだ宿屋の技術
宿屋に入ると店番をしているはずの店主がおらず、行き届いていない掃除に異常さを感じた。
「......やはり何か起きている」
遊者(ライト)も辺りを見回し、一言。
「店番をしている人がいない。晩飯の時間か」
夕方は客が一番チェックインする時間だぞ。それなのに晩飯を取る宿屋がどこにいる。
宿屋といっても宿に泊まるだけではない。風呂にご飯、あと冒険者御一行ともなると、服を洗う機会がないため、宿屋側が洗うというのが支流である。
(これはあまり知らされていないが)
大体の客は夜に泊まりに来て、朝早くには出てしまうので、基本的には夜は寝れないのだ。
(大体2時間おきに起きて、乾き具合を確認しながら仮眠を取る。そして冒険者が起きるだろう時間よりも1時間ほど早く起きて店番をしておく。
冒険の終盤に行けば行くほど宿屋の料金が高くなる理由が防具が関係していて、強い装備などは特殊なコーティングをされている。
特殊な液や道具を使わないとこびり付いている傷や汚れなどが取れないので、その作業代が含まれている。
なので優秀な宿屋であるほど、宿屋協会から魔王近くの村や町に宿屋として置いても良いと言われるのだ。
(まあ俺は裏世界の宿屋の宿主まで上り詰めたのだが)
......すまん! 語ってしまった‼︎
今の問題は宿主が店番に出ていないこと。
しばらくするとドアを開け大量の食材を抱え女性が入ってきた。
「冒険者の方ですね。宿にお泊りになられますか? 申し訳ありません、今すぐに」
急いでカウンターに行く女の顔には目の下にクマがあり、やつれ、疲れ切っているようだ。それが分かってか下を向きながら接客をしている。
遊者(ライト)はカウンターをトントンと叩きながら、女性を見る。
「困るよ、ちゃんと仕事してもらわないと」
「そうでごわす。おいどんたちは疲れているでごわす」
......いい加減にしろよ。疲れているのはこの女性だ。宿の仕事はどんなに大変だとしても、ここまで疲労は明らかにおかしい。
俺が女性を見ていると、イムは俺のほっぺをつねってきた。
「今、よからぬことを考えてましたよね?」
......イムよ。お前の視界には俺しか入っていないのか? 嬉しいことだが、少しだけ視野を広げてほしい。
女性は鍵をカウンターに出した。
「一階のお部屋をお使いください。代金は気持ちで構いません。大した接客が出来ないのですが申し訳ありません」
「気持ちってことはタダでもいいんだよな?」
「タダは悪いでごわす。おいどんが3ゼニー払うでごわす」
お前らちゃんと定価で払え、そういう輩がいるから、宿主になりたいというやつが少ないんだ。後で説教だな。
さすがに元宿主の立場から見てもなんとかしたいと思ってしまう。
......勇者としてどうしたのか聞きたいと思う。
「あんた何があった?」
女性は俺の顔を見るや否や
「ちょっと来てください!」
と俺を一つの部屋に連れて行った。
その部屋には大量の畳まれていない大量のシーツやタオルがある部屋。
部屋のドアを閉めるとそこに女性と俺とイムの姿。
イムは絶対に二人っきりになんてさせるか。と変な勘違いをしているようだが、まあこの状況なら誰でも勘違いするだろうから、そこにいることは良しとしよう。
(逆にいてもらった方が、色々と聞きやすくもなる)
「おい、宿主、はっきり言う、この状態では宿屋協会から免許の剥奪もあり得るぞ」
「わかっております。あの、話は後でお願いできますか? お願いします。目を閉じてください」
「目を?」
「はい。すぐに終わりますので」
俺は言われた通り目を瞑った。
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