第17話 777回の転生よりも一回の別れの方が悲惨に思えるものですね。

「それは違う!」


 違うよな。 それは違うよな。


「バケーションじゃない。新婚旅行だ」


 ......違わない! 冗談だろ? 洗礼の儀をそのようなことに使われてしまったのか? あの大きなお城をいますぐにでも吹っ飛ばしてもいいのですよ?

 レイラは胸に手を当てて、悲しい表情をして遊者(ライト)に訴えかけようとしている。


「でも、あなたは守ってくれなかった。二度も」


 レイラは大粒の涙を流し、ドラマのワンシーンを見ているかのような白熱した演技を見せる。

 なんだこれは。どうして俺は夫婦の離婚話に巻き込まれているんだ? 確認するが、冒険に行くんだよな? 魔王を倒しに行くんだよな?

 カルバン、何か言ってやれよ。


 と、俺の訴えが伝わったのかカルバンは遊者(ライト)とレイラの真ん中に入り仲介をしようとする。


「待つでごわす。おいどんは二人の味方でごわす。ここは......」

「黙ってて!」


【ズガガガン! レイラの会心の一撃 50のダメージを受けた】

【カルバンは倒れ、棺桶の中に入った】


 カルバーン! さっき生き返ったばかりだぞ。 しかも街の中で倒すなよ! 

 仲間だぞ。それにだ、その強さがあればスライムなんかにやられなかったと思うのだが。


「......力の使いどころが違う」


 レイラの訴えに感化されたのか遊者(ライト)もオーバーなリアクションをし、身振り手振りが大きくなり、夫婦(ライトとレイラ)は見事に二人の世界を作りあげた。


 ......取り残された俺。かなり地獄なんですけど。


「それはアリナイハンに中ボスがいると思ってなかったから」


 (ただのスライムな)


「結果は一緒よ」

「どうしてわかってもらえないんだ!」

「わかっている。わかっている。けど私の心がわかってくれないの」


 喜怒哀楽を上手く使い、表情にも説得力がある。俺が舞台の演出家ならこの時点でスカウトをして主役とヒロインして旅団を結成し、各地を回るだろうな。


 ......じゃない! 俺は冒険をしたいのだ。なんだ? この惑わされるような演技力は! 頼むから仲直りして冒険をさせてくれよ。


 二人の素晴らしい夫婦喧嘩に街人は引き寄せられてきた。これはまずいことになった。盛大に送り出しをしたはずなのにまさかまだこの街にいるだなんて思われたら【勇者】としての株が下がってしまう。


 俺はとりあえず、アイテムボックスにレイラの装備を片付け、ライトとレイラを囲む街人を捌(は)けさせないと絶対に面倒くさいことになると俺の直感が察知したため。

 俺は【レイン】という魔法を使った。

 すると空から雨が降ってくる。


「おい、いきなり雨が降ってきたぞ」

「やだわ。洗濯物を取り込まなきゃ」


 雨に濡れることを嫌った街人たちが次々と家へと帰って行った。

 よし、これで別れ話をしているのが王子だとばれなくて済んだぞ。

 このまま二人の喧嘩にも水を差してくれればいいのだが.......。


 俺は淡い期待をし、ライトとレイラを見ると【雨】という素晴らしい演出に別れのムードをより引き立たせてしまったようだ。


「ライト、私の気持ちはこの雨と一緒。あんなに晴れていたのに、今はあなたといることに疑問を持ってしまった」


 ......雨を絡ませるのはやめてほしい。俺がやってしまった感がモロにで過ぎててなんか嫌だ。


「レイラ、雨は絶対に上がる! だから別れるなんて言わないでくれ!」

「ライト、世の中に絶対はないの」

「レイラ」

「ライト」


 俺はね、思うんだ。二人は息のあった夫婦だと。

 レイラは濡れた髪を掻き上げ、ライトに背を向ける。


「ごめん、一度降ってしまった雨は二度と空には戻らないの。さようなら」


 レイラは別れたくないけど、別れるしかないの。ごめんなさいというようななんとも複雑な表現が必要とされる顔をしながら去って行った。

 ライトはひざまずき、両手をグーにして地面を殴っている。


「くそ! くそ! 俺が俺が! レイラを守れるだけの強さがあれば、こんなことに」


 うーむ。ここからどうしたら良いものか? とりあえず【レイン】の魔法は解けるから、ちょっと演出家としてフィナーレをつけてやらないと。

 ......俺は勇者であり演出家など二度とやりたくないがな。


 俺は【レインボー】という魔法を唱えた。

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