第8話 先頭は勇者のものです。喜

「あの風はなんだったんだ?」


 遊者(ライト)は多少驚いたような顔をしている。


「すごい風だったでごわす」

「本当よね」


 当たり前だ。ただ外に出るだけでどれだけの時間がかかっているというのだ? 普通の勇者という言い方は語弊があるかもしれないが、勇者であれば、仲間を揃える前に一度、腕試しでモンスターを倒しに行き、その中で自分の戦い方(スタイル)に合う仲間を探しに行くものだと思う。

 ......それがだ。酒場に行き、お告げを聞き......そういう勇者はもちろんいるだろう。

 俺が言いたいのは......


【時間がかかり過ぎている】ということだ!


 仮にこれがゲームの世界だとするなら、街を回っている時に1日決められたゲームの時間が経ちプレイヤーの母親から


『あんたいつまでゲームをやっているの? ゲームは1日1時間だって言ってるでしょ!』


 と言われるレベルだ。それでも大体の母親はまだ寛容であり、1時間半くらい経ってから声をかけてくれる。

 もし、俺がプレイヤーだとするなら、まだ冒険の醍醐味を何も経験しておらず、母親に怒られて、ゲームの面白さが分からずにオブジェとなる可能性がある。


 ......俺はそんなことはしない。何たって【勇者】なのだから。

 俺の決意とは別に遊者達は少し戸惑っているようだ。


「遊者様、どうしたんですか?」

「いや、その、あれだ、これから次の村に向かうまでにモンスターが出てくるだろ?」

「そうですね(当たり前だ)」

「順番をどうしようかと思って」

「順番ですか?」

「配列順でごわす」

「基本的に遊者が一番前で戦士、守りが弱いものを後方にといった感じですよね?」

「そうなんだが、俺は一番後ろがいい」


 ......遊者よ。本当に遊者なのか?


「おいどんは二番目がいいでごわす」

「えっ一番前は嫌なんだけど」


 何という非積極的なんだ。


「待てって。そうなると誰も一番先頭にならないじゃないか!」


 先頭というは栄誉あるポディションを譲り合うなんてどうかしている。


「消去法で、セブン、一番前を任せてもいいか?」


 え?


「今、なんて言いました?」

「いや、だから一番前はセブン、お前に託す」

「うおおおおおおおおおおお!」


 俺は心の底から叫んでしまった。我を忘れてガッツポーズしてしまった。嬉しくて仕方ない。諦めてしまってたんだ、一番前というポディションを。一番前は一般的に勇者のポディションであり、勇者が死んだ時か、一番体力が残っている時か、その他、様々な条件が整って初めて経験出来る場所。


 そ・れ・がだ! 最初の一歩目から一番前を歩いて、モンスターを戦い冒険をしてもいいとは。洗礼を受けれなかった時はどうしようかと思ったが、そんなことを忘れるくらい嬉しかった。11年間いや、777回の転生の間ずっと待ち望んでいたことなのだから。

 遊者(ライト)達はあまりの俺の激しい喜びに驚いているようだった。


「そんなに一番前っていいか?」

「それはもう、最高です。遊者様ありがとうございます」

「セブンは変わってるな」


 変わっているのは遊者(ライト)の方だ。でもどうでもいい。俺は一番前で冒険出来る嬉しさは全ての苦労を帳消しにしてくれた。今までのことはすべて水に流そう。むしろいい奴だ、最高の奴だ! 単純だと言われてもそれでいい。分かる人にだけ分かってほしい。喉から手が出るほど欲しかったものが手に入った瞬間の喜び。だが、お前の父(おうさま)は絶対には許さんがな。

 俺は満面の笑みを遊者(ライト)達に向けた。


「では、早速行こうじゃないか!!」


 ......反応がない。ただの屍にでもなったかのように無反応だ。

 いや、テンションが上がりすぎて聞き取れなかったのか、俺の滑舌が悪くて聞こえなかったのかもしれない。それとも俺のテンションについていけなかったのかもしれない。なので俺はテンションを落とし、言葉をゆっくりと噛みしめてもう一度言うことにした。


「では、早速次の村に行こうじゃないか!」


 .....風の音が聞こえる。俺は一人で喋っているのだろうか? いや目の前に3人いる? この状況はどうすればいいんだ?


「.....いや、一回城下町に戻ろう」


 ......はあ?


 出端を挫くのは得意なんですか? なんなんですか? そんなに俺を怒らせたいんですか? 教会送りにされたいんですか?

 遊者(ライト)、先ほど水に流したことを水に流したいと思う。

 まぁでも何かしらの考えがあってだと思うから一応理由も聞いてやるか。


「どうして一度城下町に?」

「だって街の外って危ないじゃん」

「岩壁(ロックフェイス)!」


 俺が魔法を唱えると城下町の門の前に岩の壁が立ちはだかった。

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