第4話 ロスト・レクイエム

辺りは騒然としていた。

 警官達は、顔を白いドロッとした未知なる物質を浴びてもがいていた。

 自衛官が、上空の物体を撃とうと銃を構えるが、未知なる物体が高速で飛来し、隊員達の顔面に炸裂した。

 白い液体が周りに飛び散り、顔についたそれを取り除こうと、必死に手で払っていた。

 装甲車の上部に取り付けられた、重機関銃を構えようとして、車両の上部は未知の物体の応酬を受け、辺り一帯、白い液体で染まった。

 いたるところで呻き声や、絶叫、悲鳴などが聞こえた。

この未曾有の惨劇に人々は恐怖した。

 その光景を見ていた、三人組の一人がため息をついた。

「ここはまるで、地獄絵図のようだな」

「本当ね。中身が生クリームだから、見た目は少しグロいけれど、ケチャップだったら、目を覆いたくなるかもね」

「ぁーぁ。もったいないなー。もう少し低速で飛んできてくれるなら、キャッチできるのになー」

 三人とも女性で、警官でも自衛官でもなかったが、見るからに普通の格好ではなかった。

服装は一応、普通なのだが……

 一人は女性にしては長身で、Tシャツ、短パン、サンダルと、ごく普通の格好なのだが、腰ベルトに拳銃が二丁、脇に二丁、それに、帯状のポーチを肩から斜めにかけ、それにマガジンを幾つも差し込んでいた。

 もう一人は、デニムのボトムに、上はパーカー、靴はスニーカーと、服装こそは一般的だが、両手に抱えているのは、よく軍隊などが使っている、アサルトライフルだった。

 ライフルに目がいってしまうが、それを持っている女性は、身長は150センチあるかないかぐらいの小柄の体格で、見るからに童顔の顔立ちは中学生に見えた。

 もう一人は、膝上の10cm程のフリルのついた紺のフレアーのスカートに、やはりフリルのついた紺のブラウスに、これまたフリフリの白いエプロンを着ていた。頭には大きな白いリボンが印象的だ。

 まるでメイド喫茶の店員だったが、その姿には似合わない大きな弓を持っていた。

孤の字のフレームに弦を張ったものとは違い、アルミフレームベースに、高反発繊維のアームが伸び、それにワイヤーが三重で張ってあるのだが、アームの先端には歯車のようなカムがあり、そこに弦が連動していた。

 見るからに、いかつそうな弓だった。

 それを持つ女性は身長は160センチ程と平均的だったが、髪は金髪でショート、瞳は深いブルーと、三人の中では特に目立つ存在だった。

「シャロ、バイトの途中だったのか? 今日のはいつもと違って可愛いな」

 Tシャツの拳銃女子が言った。

「京花こそ、暇そうでいい御身分ね。高根の花さんは、習い事でもやっていればいいのよ」

 金髪少女は右手で髪をかきあげて言った。

「……ぁの。あれ、どうするんですか? 銃を構えたとたんに、シュークリームが顔にバーンですよ」

 ボソっと、中学生ライフル女子が言った。

「知紗はシュークリームが嫌いだったかしら?」

 これは金髪のシャロ。

「ぁ、ぃぇ。シュークリームは好きですよ。ただ、あのスピードで来られたら、取るに取れないじゃないですか」

 何だか愚痴のように、知紗は言う。食べたくても、食べられない悔しさが出ているのだろうか。

「そうだな、マカロンだったら良かったのにな。多少崩れても、食えそうだからな」

 これは、Tシャツ拳銃女子の京花。

「そう言う問題ではなくてよ。お菓子をあんな風に、人にぶつけるなんて、ありえない。許せないっ!」

「なんだ、シャロ。食べたかったのか? シュークリーム。それとも、ロールケーキの方か? ロールケーキなら、まだ食えるかもしれないぞ? 行くか?」

「いかないわよっ。あんな硝煙まみれのロールケーキなんて、食べられないわっ!」

「そう怒るな、じゃあ、今度一緒に食べに行こうぜ。もちろん知紗も一緒にな」

「京花さんのおごりなら…… 行きます!」

「おう、もちろんさ。だから、早くこいつを処分して帰ろう」

「京花。囮はあなたかしら? 試しに、その豆鉄砲で撃ってみなさいよ。もしかしたら、うまくシュークリームをキャッチできるかもしれないわよ」

「豆鉄砲言うなっ。一応、45口径だぞ。そーいや、知紗は今日、G3か?」

京花は中学生女子、知紗の持っているアサルトライフルに目がいった。

「はい。今日はカテゴリー5クラスだし、外で撃てるから、7.62mmにしました。京香さんのはmk23ですね。大きくないですか? それ」

「ぁあ。私にはちょうどいいぞ。しっくり握られるな。そういうお前こそ、でかくないか? それ」

「最近の銃器は、ちゃんと調整が効くようにできているんですよ」

「女子中学生が撃てるようには、できていないと思うぞ……」

「知紗ちゃんは、京香と違って研究熱心なのよねー。カスタマイズがハンパないもん。ほら、京香、さっさと豆鉄砲撃って、シュークリームをゲットしなさいよ」

「シャロ、お前、まだ食べることを諦めていないな……」

「そんなこと言っていないでしょ。京花が囮になっている間に、知紗があの、スイートマジックさんを撃ち落とすわよ。ね、知紗ちゃん」

「そんなこと言われても、無理ですよ。あんなの、そんな簡単じゃないですよ。シャロさんの弓の方が破壊力、あるんじゃないですか?」

 千紗は、シャロの左手に握られている、いかつい弓に目がいった。

 コンパウンドボウと言うらしい。取り付けられたカムとの連動によって、効率良く弦を弾くことができるらしい。

「私は遠慮しておくわ。射るまでのモーションが長いから、嫌よ。無理」

「なんだそりゃ。ただ単に、シュークリームの餌食に、なりたくないだけじゃないのか」

「違うわよ、京花。あなたのシュークリームまみれになった無様な姿を見て、笑いたいだけよ」

「……もっとひどいな。それはそうと、ハリタン。あいつは覚醒者なんだろう? だったら、あいつにも監視役がついているんじゃないのか?」

 拳銃女子、京花の足元に、小さなハリネズミが現れた。拳2つ分ぐらいの大きさだろうか。

(もちろんいるわ。でも、監視役といっても、特に対象を束縛することはできないのよ。まだ、裁かれたわけじゃないから)

「じゃあ、私達がアレを裁くってわけだ。でも、しかしだ、うちらで勝てんのか? あんな冗談みたいな化け物に」

「大丈夫よ。一発当てれば、それでおしまい。京花だって知っているでしょ? それとも、もう一回、撃たれてみたい?」

「……ぃゃ ……結構。シャロが言うと冗談に聞こえないな……」

「それでは、やりましょうか。はい。京花は囮になって、地べたで見苦しく這い回って。知紗は隙を見て狙撃。私はしばらくは高みの見物。よし、作戦開始」

 早々なシャロの説明に、京花は反論した。

「おい、シャロ、ちょっと待て。それのどこが作戦なんだよ。それに全然勝てる気がしないぞ」

「同感です…… 私のライフルじゃきっと、かわされますよ……」

 知紗がぼそりといった。

「それでいいのよ、知紗ちゃん。狙いはね、アレの千里眼がどこまで見えているかを知りたいの」

「知ってどうするんだ?」

「せっかくの千里眼。もっといいものを見させてあげるの。モクリン、ここから100倍ズームで全チャンネルに中継して」

 シャロの足元に黒い塊が現れた。それを見て、京花と知紗は目をそらした。

(君たちは相変わらず失礼だね。100倍ズームって、35㎜換算で2500㎜ぐらいでいいのか?)

「知らないわよっ。私にそんなこと聞かないで。あのスイート・マジックさんをドアップでテレビ放送できればいいのよ」

「……お前の考えていることが、何となくわかる気がして寒気がする……」

「はいはい。わかったら、作戦開始。ほら、京花、撃って撃って」

 シャロに言われ、京花は渋々腰の銃を抜いた。右手と左手に一丁づつだ。


 構えたら、向こうの標的にされて、シュークリームを食らってしまう。

 まずは現状の観察だ。

 上空からシュークリームを連射して、警官や自衛官をなぎ倒している。

 地上各所から射撃しているが、当たる気配はなさそうだ。

 私が撃ってもたぶん、当たらないだろう。

 飛んでいる標的を当てるのは自信はあるが、今回の標的は半分化け物だ。反射速度は尋常ではない。

 自分のかわりに、知紗が当ててくれるだろう。知紗の射撃能力は並みではない。

 私の役目は、気を引き付けること。それと威嚇だ。

 京花は、両手で銃を構えて、上空の白い悪魔を撃った。

 この距離ではまず当たらない。ハンドガンでは初速も遅いし、弾のばらつきもある。

それでも、しっかり狙って、撃った。

 パンパンパンパンパンパンパンパン。

 その直後シュークリームが飛来してきた。こちらが撃つ前に、向こうはすでに放っている。

 そりゃあ、こっちの弾が当たるわけないよな。完全に攻撃を読まれているのだから。

 京花は凄まじい速さで飛んできたシュークリームを、目視で捉えた。

 そして、顔に当たる寸前、横にスライドしてかわした。

 かわした。つもりだった。

 シュークリームも、京花と同じように横にスライドした。

「!!!っ」

 ぱーーんっ! 

 シュークリームの柔らかさとは無関係に、乾いた音がして顔面で四散した。

「ぶあぅ!」

 京香は、とっさに左手で顔を拭う。

「痛ったーっ!」

 少し離れたところでシャロが腹を抱えて笑っていた。

「くっそーっ!」

 京花は、天高く空中ででシュークリームを撃ちまくっている紗百合に向けて引き金を引いた。

 が、発砲する前にシュークリームの二発目が顔面に命中した。

 ぱーーんっ! 

「ぐがぁーーっ!」

 顔を振るって、顔にこびりついたシュークリームを振り払った。

 目が開けられるようになって、上空の紗百合に銃を向けた。

 ぱーーんっ!

「だぁーーっ!」

 三発目が京香の顔に直撃した。

 京花は、顔面についたシュークリームを落とさず、感で銃を撃った。

 パンパンパンパンパンパンパンパンカチャ。

 ダダダダダダダダダダァーンッ!

 近くにいた知紗がライフルを斉射した。知紗も感で上空の悪魔を射撃したのだ。

 そしてすぐに建物の陰に隠れた。

 当然のようにシュ―クリームが高速で飛来し、建物の陰に隠れた知紗めがけて飛んできた。

 そこに、シャロが立ちはだかり、腰にぶら下げていた筒状の物を手に取り、縦に払った。

 一瞬、その場所だけ空気が変わった。

 シュークリームはシャロの手前で粉々に粉砕され、青白い光を放って消えていった。


 上空で回避運動をしながら反撃していた紗百合は、自分がテレビで放送されているのを心の目で観た。

 近くにヘリは飛んでいなかったが、どこからか撮影されているようだ。

 第三者から見た紗百合は、まるで妖精のように見えたかもしれない。

 トンボのような羽で、あちこち機敏に飛び回り、魔法のように、お菓子を出しまくっていれば、誰だってそう思ったのかもしれない。

 テレビで多くの人が、その異常な行動をする紗百合に釘付けだった。

 女神降臨と敬う者もいれば、悪魔到来とさげすむ者もいた。

 紗百合は不思議な弾丸を見た。青白く光って燐光を残しながら飛んでくる弾丸を。

 最初は8発。撃ったのは女性だとわかったが、シュークリームの攻撃は差別しなかった。

 8発の弾丸は紗百合のすぐ近くを飛んでいった。正確に言えば先程までいた場所に飛んできた。

 回避運動をしているから、時間差で銃弾が飛んでくる。

 拳銃でライフルのような正確さで撃ってくるのは、なかなかのものである。

 この距離で、初速の遅い拳銃では動きの早い対象を捉えるのは難しいだろう。

 撃った女性は、顔面にシュークリームを浴び、なおも怯まず撃ってくるのを、遠い目で確認した。

 その後に、今度も8発の弾丸が飛んできた。やはり青白い光を放ち、青い燐光を残して飛んでくる。

 目で追ってもかわせたが、ふと悪寒が走り、とっさにフライパンを出した。

 飛んできた青い銃弾を抜き去るように、初速の早い弾が紗百合を襲った。やはり青白い弾だった。

 10発っ!

 一瞬の出来事なのに、やたら長いスローモーションのように景色は流れた。

 最初の8発は回避できたが、後の2発は直撃コースだった。回避運動をしていたにもかからわず、弾丸は紗百合を追うように飛んできたのだ。

 フライパンで払いのけるが、フライパンに当たった瞬間に砕け散って、取っ手だけ残して消滅した。

 びっくりした紗百合だが、その暇もなく、残りもう一発が右腕に当たり、弾は腕を貫通し肩に当たった。

「きゃーーっ!」

 腕と肩に激痛が走り、紗百合は飛行しながら、うずくまってしまった。


「さすが知紗ちゃん。いい腕しているわ。今度、私と決闘ごっこしてみない? サバゲーでもいいわよ」

「……遠慮しときます。ところでシャロさん。何ですかそれ。何だか映画とかに出てくる、ライトセーバーみたいですね。光っていないけど……」

「これね、こないだカテゴリー5を倒したときに、累計5体討伐したって、特別ボーナスとやらで夢世界からもらったの。説明書には、超振動ブレード、取扱注意って書いてあったわ」

「超振動ブレード? 高振動粒子ブレードじゃなくて? 私のイメージとはずいぶんと違いますね。フレームの刃先に、細かい粒子を磁場で固定して、触れたものを何でも真っ二つにするっていう、あれとは違うんですね」

「私もよく知らないのよ。でも、これ便利よ。耳の中の掃除とか、髪を乾かしたりとか、魚を三枚に下ろすとか、いろんなことに使えるわよ」

「……シャロさん。そのうち頭が真っ二つになっちゃいますよ」

「平気平気。刃物と何とかは使いようっていうでしょ」

 シャロは右手でそれを振りかぶると、上空の紗百合にめがけて振り下ろした。

 青白い靄のようなものが、紗百合めがけて飛んで行った。 

「ぉ? 知紗、やったのか? やったじゃないか」

 京花はようやく顔についたシュークリームを落として、周りを見ることができた。

 そして、目の当たりにしたのは、金髪女性のシャロが、いかつい弓で矢をつがえているところだった。

「知紗ちゃん、援護お願いね」

 シャロが弓を引き終わると、そこの場所だけ時間が止まったかのように、全てが停止して見えた。

 いかつい弓が、ほのかに光だし、それに合わせて矢も光りだした。

 矢じりの先端が、水晶に光を通したときのように、虹色の光彩を放った。


「リブルっ、何なのあの人たち。普通じゃないわ」

(あいつらは、君を狩りにきた者達だよ。いわゆる専門家だ)

「そんな連中がいるなら教えてよ」

(言ったはずだよ。知ったところで、君はどうしようもないし、多勢に無勢だ)

「勝てないと、わかっていたのね。ひどいわ」

(君はこの世界で罪を犯したんだ。だから、裁かれる。当然の摂理だとは思わないのかい?)

「罪って、そんな。私は自分を守っただけよ。悪いのはあいつらじゃない」

(君が犯した罪はね。目撃されたってことだよ。君はこの世界の定理を犯し、それを不特定多数の人に目撃された。観測された。記録された。それが、君の犯した罪なんだ。要するに、誰にも見られなかったら、それは罪にならない。単純な話さ。殺人をしても、誰にも見られてなければ、捕まらないだろう? それと同じさ)

「その例えは、おかしいと思うけど、それが罪なら私はどうなるの?」

(専門家に狩られる。後は罪を償うための、奉仕活動をしてもらう)

「どちらにしても、時間までに逃げ切れば、私の勝ちなのよね」

(まだ諦めていないのかい。その傷ではもう無理だよ)

「……そうなのよね、死ぬほど痛いわ。さっきみたいに、傷が癒えない。あの弾は特殊な何かなのね」

(よくわかっているね。あの弾は、この世界に存在しないモノを、排除させるための、ものだからね。君のようなモノには効くわけだ)

 突如、突風が紗百合を襲った。

春の一番に吹くあの風にも似ていたが、明らかに普通の風ではなかった。

風には色があり、薄い青っぽい色だった。

 まるで色のついた霧が、風に飛ばされてきたかのように、紗百合を包んだ。

 先程、金髪の女性が、何やら振りかぶっていたのは確認したが、そのあとは何も見えなかった。

 どうやら、あの金髪女性が起こした風のようだ。

 紗百合は、身に異変が起きていることに気が付いた。正確には身体ではなく、その上の衣類だ。

 まるで、水に溶けるかように衣類が消えていったのだ。

 白い女神スタイルのロングドレスは色を失うように透明化して、やがて消えていった。

「ななな何なのっ、これっ!」

 腕と肩の痛みをこらえつつ、足をよじって股間を隠し、動く左手で胸を隠した。

 その情景は、やはりテレビで放送されていた。テレビの視聴者はさらに目を凝らして、テレビに映る紗百合をまじまじと見た。

 紗百合は、地上で弓を引く金髪の女性を睨んだ。

 この放送もあの金髪女性の仕業か……

 ここから見ても普通ではなかった。あの場所だけが別世界のように、別の光を放っていた。

 このままでは、私はあの矢で消されてしまう。

 そんな予感がした。

 何とかしなくては。

 紗百合は、巨大なういろうをイメージして、実体化させた。それを弓を引いている金髪の女性めがけて投げ付けようとした。

 そのとき、先程の銃弾が飛んできた。

 青白い燐光を発する、強くて速い正確な銃弾が。

 ライフルを構えた中学生女子が撃った弾だ。

 全長10メートル近いういろうで、その銃弾を防いだが、1発当たるごとに5分の1ほどが吹き飛んだ。

 10発当たる頃には、ういろうはほとんどなくなり、紗百合は再び巨大なういろうを出した。

 地上で弓を構えていた金髪女性が矢を放った。

 弓だから初速はそれなりの速さなのだが、矢は凄まじい加速をして紗百合を目指して飛んできた。

 それはまるで地対空ミサイルのように、打ち出された後に一気にジェット噴射で飛んでいくさまであった。

 紗百合は、ういろうを盾にしたが瞬時に吹き飛んだ。

矢の勢いは止まらず、矢は紗百合の胸に深々と刺さった。

「ぐあっ!」 

 それ以上の声も出なかった。

 痛みの上限を超えると、何も感じなるとは、こういうことなのか。

 それとも、死んでいくのに、痛みを感じてもしょうがないから、脳が痛みを消しているのかもしれない。死ぬのだから……

 紗百合は、自分の体が青白く光っていくのを感じた。

 さっき撃たれた腕はすでに真っ白の光となって消えていった。

 光は徐々に紗百合の体をを包みこみ、全身が真っ白になると光の粒になって強く輝いた。

 日も傾き、少し薄暗くなっていたこの時間、紗百合だった光は一番星のように一際輝き、そして消えていった。

(紗百合……)

 リブルはその光景を、ぼう然と見ていた。


 シャロは鼻で深い息を吐いた。

「おやすみ。スイート・マジックさん。悪い夢だったわね」

 いかつい弓を肩にかけ、戦友の二人を見て、笑いをこらえた。

「ぁー、このクリームおいしいですよ。シャロさんもなめませんか?」

「知紗に舐められるのはいいけど、シャロに舐められるのは、気分が悪いな」

 シュークリームの白い生クリームまみれになった、京花の顔を千紗が舐めていた。

 はたから見たら、長身の京花と、小柄な千紗は、仲の良い姉妹のように見える。

「誰がお前の顔など舐めるか。私にそんな気はないっ!」

 とは言ったが、少しうらやましいな、とも思った。

「じゃあ、顔が嫌なら、この胸元についたやつなら舐めるのか? Tシャツの中までクリームまみれだ」

京花は胸元を覗いて、ブラをしていないことを今更ながら知った。

「結構っ!」

さっきまでの緊張感はどこへいったのやら。

まあ、だからこそ、私達は今日までやってこれたんだとシャロは思った。

そして、新たなメンバーも入ることになり、少しだけ明るい未来が見えてきたと思いたかった。

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