312・聖黒の結婚式
リュリュカとケットシーに教会の入り口を開いてくれた。
そのまま私たちは手を繋いだ状態で、二人一緒にそれをくぐる。
すると……教会の門のところに祭壇が設置されていて、私たちの通り道の左右に貴賓席が設けられていて……各国の魔王や契約スライムたちが座っている。
そこには南西地域以外の……リンデルのガンフェット王やフラフ、元フェリアルンデのリフェア王妃とその子どもであるファニン王子が座っている。
それと、セツキ・レイクラド・フワローク・マヒュムのご存知上位魔王のみんなも私の招待に応じてくれたようで、貴賓席に座って私たちを見ていた。
アシュルは少々緊張が蘇ってきたのか、表情が頑なっている……けど、私が強く握りしめると、アシュルは少し安心して、いつもの表情を浮かべてくれていた。
「行きましょう」
「はい、ティファさま」
私は胸を張り、出来るだけ澄ました様子で堂々と一歩ずつ確かめるように歩いていく。
祭壇が近づいていく毎に、色んな思い出が頭の中をよぎっていく。
初めて『覚醒』してリカルデに出会った日。
アシュルの名前を付け、契約スライムとした日。
オーガルとの戦いで圧倒した戦力差を見せつけ、アロマンズに嵌められ、金狐と戦った時。
上位魔王であるセツキに会うためにセツオウカに行って、マヒュムの代わりに上位魔王になった。
その後もイルデルやフェイル王とも戦い、最後にヒューリ王と戦った……そして今、私はここにいる。
様々な事に思いを馳せ、私たちはいつの間にか祭壇のところまで辿り着いていた。
目の前には今回特別に手配された竜人族の神父が目の前にいた。
この世界にも一応神はいる。
というか、ここで信じられているのは世界を創造した神のみであり、後から湧いてきそうな神は全く出てこない。
だからこそ、こういう時は創造神に祝福して欲しい……という願いを込めて神父が代表して結婚式を執り行うのだとか。
竜人族の神父は一度軽く咳払いをして、私とアシュルを交互に見つめてくる。
彼は同性の魔王と契約スライムの結婚を何度も行った、いわばベテランらしく、だからこそ今回彼にお願いした……ということだ。
「それではこれより、この素晴らしき祝いの式を執り行いたいと思います。
汝、ティファリスよ。誓いの言葉を」
「……我らが先祖と神に誓うは新たな繁栄。
いかなる困難も隣に寄り添う者と共に進み、痛みも喜びも分かち合い、未来へ進むことを誓います。
我らの魂、死が二人を別つとしても」
ケルトシルでフェーシャたちが言っていた事とほとんど同じだ。
これは南西地域が……というよりも、大体が先祖に繁栄を誓うことと、締めの言葉は統一されている。
だからこそ、
大体……というのは、セツオウカだけはこの枠に当てはまらないからだ。
あそこは独自の文化が非常に多いため、結婚式一つ他の地域や国と違う。
逆に言えば、そこ以外は誓いの言葉以降の行動が変わるくらいか。
「次はアシュル、誓いの言葉を」
神父に促されてアシュルも私と同じように言葉を紡いでいって……二人の誓いが終わったと同時に後ろに控えていたケットシーが回り込むように祭壇の右側からやって来て、指輪を持ってくる。
「それでは、指輪を交換してください」
私はケットシーが持ってきた指輪の一つ手に取り、握っていた手を離す。
ここで聖黒族の仕来りである互いの小指に糸を結んでいる状態が多少邪魔ではあるけれど……ある程度長めにしておいて正解だ。
私は両手でアシュルの左手を取り、そっと薬指に指輪をはめる。
今度はいつの間にか回り込んでいたケットシーからアシュルは指輪を受け取り、私がしたように左の薬指に指輪をはめてくれた。
なんというか……ただ、それだけの行為がとても素晴らしいことであるかのように思えてくる。
「最後に、誓いのキスを」
やっぱり最後のこれが出てくるか……流石にみんなの前でキスをするなんて少し恥ずかしいが、ここまで来たら仕方ない。
女は度胸とよく言うだろう。
「……ティファさま!」
「!!?」
私がアシュルの方に向き直って心の準備を整えようとすると……何を思ったのか、アシュルの方が私に勢いよく口づけしてきて、流石に状況が飲み込めずに焦ってしまう。
まさか、アシュルの方からしてくるとは思ってなかった。
あまりの出来事にびっくりしたけど……ようやく事態が飲み込めてきた。
「二人の愛は絆で結ばれ、ここに確かなものとなった! 皆様、祝福の拍手を!」
神父が両手を天に広げ、仰ぎ見るようで……周囲から一斉に拍手が巻き起こる。
若干気恥ずかしい感があるけど、貴賓席に座っていた魔王や契約スライムたちが、立ち上がって手を叩いていた。
「おめでとう!」
「めでてぇなぁ! よし、祝い酒でもやるか!」
「我らが主よ、それはまた後ほどに……」
結婚式自体が終了し、二人を結んでいた黒い糸をゆっくりと解いて……最後の総仕上げとして、リュリュカが持ってきた盃と酒を手にする。
本当は手順が違うのだが、セツオウカ式を組み込むにはどうしても式自体が全て終わってからじゃなければ出来なかったのだ。
私の手元に酒が行ったと同時に周囲の魔王たちにも酒の入った盃が配られる。
ここのところは事前に伝えてあってか、スムーズに事が運んでいく。
「最後に、盃を交わして、この式は終わらせましょう!」
それだけ告げて、アシュルに向けて盃を渡し、ゆっくりと酒を注ぎ込んでいく。
アシュルはなみなみと注がれたそれを一気に飲み干し……今度は私がアシュルから盃を受け取り、続いて注がれた酒を……一気に飲み干す。
そのまま盃を天に掲げると、貴賓席にいたセツキが歓声をあげ、それに呼応した魔王たちが一斉に盃に入った酒を飲み干して同じように天に掲げ……これで本当に私たちの結婚式は一切の滞りなく終了した。
最後にセツオウカ式を取り入れて、若干スッキリしたような気持ちがある。
さて……結婚式自体が終わったが、まだまだ今日はやらなければならないことがある。
私とアシュルはそのまま少々派手な装飾をされたラントルオが引いている鳥車に乗り込む。
これ自体は真ん中から上が切り取られるように無くなっていて、私とアシュルの姿が外から見られるようになっている。
これからは国民たちにお披露目のパレードというわけだ。
「お二人共、準備はいいっすか?」
「ええ、行ってちょうだい」
前面の座席に乗っているフェンルウが私たちが乗り込んだことを確認した後、同じように座席に座っていたウルフェンがラントルオに指示を出してゆっくりと歩かせていく。
鳥車の前には、装飾が施された槍を掲げた兵士たちが二人一列にとなって進んでいく。
そして……私たちはディトリアの大通りを進んでいき、この町全体をゆっくりと……国民のみんなに少しでも私たちの姿を見てもらえるように回る。
その間、ずっと私たちは左右で拍手や声援を送ってくれている国民たちに笑顔を振りまいていく。
……終始笑顔で手を振り続けなければならないのはかなり辛かったけど、流石にみんなの前で辛そうな顔や、無表情だったりするわけにはいかないだろう。
そして……最後。
私たちは館の前に辿り着き、そのままアシュルだけが降り、ウルフェンとフェンルウも前の座席から降りていく。
残ったのは私一人……というのにも理由がある。
最後に残った演説をしなければ、締めとはならない……ということだ。
『
それが無事終わってこそ、今日という一日がつつがなく終わったことになるだろう。
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