270・鬼神対精霊 前編
俺様は『金剛覇刀』を構え、まっすぐリアニットに斬りかかったのだが、それを防いだのは小さな妖精――いや、精霊スライムのライニーだった。
「『ふらわーふれあ』!」
心地よい花の香りを周囲に撒き散らす炎の花に包まれかけた俺様は、そのまま斬りかかる一歩手前で地面を蹴ってそれを避けた。
嫌なタイミングで割り込んできやがる……。
そしてリアニットも、それを見逃すようななまっちょろい魔王ではない。
今すぐに対処しないと、強力な魔法に晒されることになる。
「『ガイアデブリ』!」
「『
空中に巨大な岩石を喚び出し、落下させるリアニットに対して、同じく巨大な壁を地面からせり上げ、周囲にいる武士たちを守るように体勢を整える俺様。
今は負傷した奴らを少しずつ撤退させている最中だ。
その分の時間稼ぎをする必要もある。俺様はこいつらの敬愛する魔王様だからな。
――ガゴオオォォォォンッッッ……!!
凄まじい音と衝撃が周囲に拡散し、俺様の『土土・防魔壁』とリアニットの『ガイアデブリ』は互いに相殺してしまい、
幸い、これによる死亡者はいない……が、それで更に負傷してしまって余計に撤退に時間がかかりそうだ。
全く……これじゃ何のために防いだんだか……。
いや、相手はエルフ以上に魔法の扱いを熟知している精霊。
妖精族の全てを率いる長。そんな奴相手に引き分けただけでもまだマシってわけか。
「『
間髪入れずに俺様は『金剛覇刀』に魔力を込め、魔法の力を底上げ、倍加。
振り回しながら飛び出すのは無数の火の刃。
それらが複雑に重なり合い、一つの大きな塊のように突撃していく。
「ほう、これが鬼族の魔法か。ふむ、実に興味深い魔法だ。
ならば見せてやろう。余の……妖精の王としての魔法を……! ライニー!」
「『がいあぶろー』!」
王としての魔法を見せると言ってる割にはライニーが使うのかよ……と思いもしたが、彼女の放った『ガイアブロー』は俺様の『火風・
「『ネイチャーフォース』……!」
上手く『ガイアブロー』を盾として使って、その間に自身はなにやら強化の魔法を唱えるって寸法か。
なるほど、上手くやってやがる。役割分担しやがって……だがな、その程度でこの俺様をやれると思うなよ……!
「『
再度『金剛覇刀』を通して発動させたのは、大地を走る五つの巨大な火柱。
それらが別々の軌道を描いてリアニットの方に向かって進む。
ライニーは狙って当たるような大きさじゃない。
あの小柄さに見合った素早さをしているのだから、無理して当てに行ったって避けられるのがオチだ。
今ならちょうど俺様のところの武士も攻撃範囲にはいない。
「甘い。『ナトゥレーザ・ランサ』!」
リアニットの魔法……風・土・木・水・雷・火の六本の槍が『火土・地走』とぶつかる軌道を取って、突き破る。
迫ってくる六本の槍に対し、俺様は『金剛覇刀』を振り回しながら飛んでくる槍を一つ一つ潰していく。
「『ねいちゃーふぉーす』!」
その間にライニーの方は自身を強化して、更に攻勢に出ようってか。
だがな……それでもお前らは俺様には勝てねぇよ。
「『
ライニーが攻撃してくる前に、俺様は更に魔法でリアニットを狙う。
最高の切れ味を誇る水流の一撃が迫る……のだが、余裕を崩さない奴はむしろ微笑んでいるようにも思えた。
「『ストームスマッシュ』!」
「『がいあすとーむ』!」
俺様の『
相殺されるどころかこっちが押し負けてしまい、再び『金剛覇刀』で斬り伏せる。
やはり、魔法戦ではリアニットの方が強い……。
しかも奴ほどじゃないが、ライニーも相当やる方だ。戦力的にはかなり不利だと言わざるを得ないだろう。
「あくまで余の土俵で戦うつもりか。それもありだが、おぬしの得意な近接戦で来ないのか?」
「抜かしてくれるな。近づけば魔法で離されるのがオチだろうが」
薄く笑いながら俺様のことを挑発してくるリアニットに対し、あくまで軽口で返してやる。
確かに、今はただひたすらあいつの得意な距離で戦い続けているが……それを助長しているのはライニーの存在もあるだろう。
この精霊スライム……俺様が近づこうとする度に道を塞ぐような動きを取ってきやがる。
リアニットもそれを知った上であんな態度を取ってきているのだろう。
……が、これでいい。
ライニーのおかげでリアニットは俺様が絶対に近寄れないと思い込み始めているはずだ。
それは必ず隙を生む。そしてそのときこそ、俺様があいつに接近していく絶好の好機ってわけだ。
その時までは……ひたすら、お前の距離に付き合ってやるよ!
「『
「またそれか。芸がない男だ! 『ソーンスピア』!」
「『がいあらんす』!」
俺様の魔法をリアニットが防ぎ、ライニーが土の槍で更に攻撃を仕掛けてくる。
それを『金剛覇刀』を盾にするように構え、防ぎ切る。
一進一退の攻防を繰り広げ、互いに魔法を撃ち合っている俺様は、後ろの武士たちがようやく撤退を終えたことを確認した。
周囲の敵兵は俺様たちの攻防に巻き込まれることを嫌い、周囲には俺様とリアニット……それとライニーの三人だけが残る。
いくら不老の身体を持っていったとしても、不死じゃあない。
核を壊せば死ぬし、最悪全てを焼き尽くせば灰になる。
だからそれをなし得る程の魔法の使い手であるリアニットの周囲にはあまりいたくないのだろう。
誰だって巻き込まれるのは嫌だろうからな。
だが、これでようやく周囲のことを気にせずにやれるってもんだ。
全体の指揮は契約スライムであるカザキリの次に信頼している部下であるオウキに任せてある。
何の心配もなく……暴れてやる事が出来るってわけだ。
「はっ、精霊族ってのは二人一組じゃないとまともな攻撃も出来ないのか?
こんなんじゃ百回唱えても終わらないぞ?」
「言ってくれるな若造が。調子に乗るとその身を滅ぼすぞ?」
「この程度で滅びるようなちんけな種族じゃねえんだよ。お前ん所と違ってな!」
挑発するように笑いながら、愛刀を振り上げながら構え、突進していく。
「だったら今日で鬼族は終わりだな。だが誇るといい。それは新たな生への約束の日となる。
ヒューリ王の元、確かな生命として、生まれ変わることになるだろう」
「『すとーむすまっしゅ』!」
俺様が近づいて攻撃してくるのを読んでいたかのようにライニーが立ちはだかり、さっきの風の衝撃波をいくつも放つ魔法を唱えてくる。
それを止まることなく斬り続け先に進むが、その度に新しい魔法が繰り出される。
「愚直なまでの突進か……それならば、『ソーンスピア』!」
「『がいあでぶり』!」
地面からは茨の槍が、そして空中からは巨大な岩石が降ってくる。
……流石にこの量の攻撃を突撃しながらさばくのは俺様でも不可能だろう。
だがな……やりようぐらい、あるんだよ!
その場で立ち止まり、『金剛覇刀』に力を込め、魔力を注ぐ。
「『
紅蓮に包まれた大きな火の鳥が『ソーンスピア』と『ガイアデブリ』の全てを飲み込み包んでいき……それらを喰らい、衰えることなく甲高い声を上げながら鳳凰は羽ばたく。
「『エクレール・アッシュ!』」
「『がいあぶろー』!」
それに怯えることなく次に繰り出されたのは俺様の『
流石にこの二つの魔法を打ち砕けるほど、甘くはなく……相殺しきれなかった分の攻撃が俺様へと降り注ぐ。
それを『金剛覇刀』を盾にすることで防ぎながら……俺様も含め、周囲の全てが雷に包まれていくのを感じていた――。
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