265・激戦の北地域
「邪魔です!」
それがしはこちらに襲いかかってくるものを一刀両断にしながらどんどん先へと進んでいく。
青白い肌の死人たちは……妙な話ですが、生きているときよりも活力に溢れているような気がします。
そして……他の国の兵士たちより強い。
中にはエルフ族も混じっていますが、パーラスタで戦った時よりも相当練度の高い連携を繰り出してくるものもいました。
いや……それだけではないです。
彼ら、恐ろしいほど再生力が高い。
腕を切り落としても足を切り落としても、決して怯まず退かない。
かと言って頭を切り落としても回復魔法が飛んできたら綺麗に元通りに再生する……死んでいるものにこういうのもなんですが、恐ろしく不死性が高い兵士たちです。
それ以上に恐ろしいのは動きを止めるために手足を切り離しても、回復されたらなんの意味もないということ。
彼らを確実に仕留めるのは、跡形もなく消し去るしかなく、それがしやベリルさんであればまだ可能なことでも兵士たちでは全く現実味のない話。
いくら魔法の研究が盛んなリーティアスでもそれは例外ではなく、どうしても焼けた姿が残り、それを回復されて復活する……という悪循環に陥ってしまっています。
「ちっ……想像以上に厄介な兵士たちですね……!」
こうなってしまっては、ウルフェンに全てを任せたのは軽率な判断だったのではないかと思いましたが、今更何を思ったとしても後の祭り。
いくら斬っても立ち上がってくる……正に死を超越しているのではないかと感じる程、蘇ってくる兵士たちに囲まれてしまっては……。
「死ねぇぇぇ!」
獣人族の男が剣を構えながら雄叫びを上げてこちらに突進。
更に背後から魔法を唱えているエルフの兵士とそれがしの左側から弓を携えた妖精が虎視眈々とこちらを狙ってきており、集中を逸らす役目も果たしています。
仮に獣人の方を攻撃したとしても、残った彼らはなんの躊躇もなく攻撃を仕掛けてくるでしょう。
自分たちの特性を完全に把握しているからこそ出来る戦法……といったところですかね。
エルフの後ろで悪魔族の女がなにやらこちらの様子を伺っているのがその証拠です。
あれは恐らくそれがしが他の兵士たちになにかした瞬間、回復魔法を唱える為に注意を張り巡らせているのでしょう。
……全く、これほど恐ろしいものはありません。
一番厄介なのは、光属性の魔法を唱えられる兵士が周囲に必ず一人はいる……ということです。
常に誰かを回復出来る者がついている……それがこの死人の兵士たちにとって、どれほど強みになるか……。
「……くっ」
考えても仕方ありません。
今すぐにでも彼らはそれがしに向かって攻めてきているのですから。
まっすぐ振り下ろしたその獣人の剣をそれがしはなんなく受け流し……その瞬間に矢が飛んできて、魔法が襲ってくる。
それをいなしている間にも更に別の者が剣を振りかざし――これではキリがない……!
確かに、彼らの動きにそれがしは対処することが出来ます。
ですが……。
「が、ああああぁぁぁぁ!」
「ちっくしょう! なんなんだよ、こいつらぁぁぁ!」
「全てはヒューリ王の為にぃぃぃぃ!!」
それがしが手間取っている間にもちらほらと倒れ、崩れていくこちら側の兵士たち……。
彼らはよほどヒューリ王に蘇らせてもらった恩があるのでしょう。
それがしであったらこのように死生を歪められてまでこの世に留まり続けるなど、御免被りたいですがね。
しかし……事態は刻一刻と悪くなる一方。
まともな対抗策が思いつかない上、頭を切り落としても死なない。
こちら側の兵士の気力が徐々に萎えていってるのが、手に取るようにわかります。
「こ、この……いい加減、くたばれよぉぉぉぉぉぉ!!!」
周囲に気を配っていると、一人の魔人族の兵士が、青白い肌をした獣人族の敵兵の左胸を貫く。
「が……なっ……」
「……なに?」
それがしは攻撃を掻い潜りながらも、しっかりとその光景を目撃しました。
先程左胸を貫かれた敵兵は、明らかに他の敵兵とは様子が違って……貫かれたと同時に倒れ伏し、そのまま動かなくなりました。
これは……いや、そうとしか考えられません。
それがしは自身の考えを確かめるべく、こちらに再度攻撃を仕掛けてきた魔人族の兵士に向かい、刺突の構えを取る。
「死ね! 我らが王に牙を剥く愚か者め!!」
「死ぬのは……そちらの方です!」
向かってきた兵士の剣戟を『
「が……っ! ぐ、あ……」
その途端、今まで手足を斬り飛ばしても頭を落としても生きていた死の兵士が……確かに苦しみながら地面に倒れ伏し、そのまま動かなくなってしまったのです。
「……なるほど。左胸に核があるのですか」
最初に感じたのは硬い手応え。それを躊躇なく貫いた結果、あれほど不死性を誇っていたユーラディスの兵士が動かなくなってしまった……ということです。
「全員! 敵兵の左胸を狙え!! 奴らは核を潰せば無力化出来る!!」
「核……なるほど……!」
それがしの気合の乗った声が周囲に伝播し、こちらの兵士たちがそれを実践し、効果を確かめていきました。
「たお……せる……! 倒せるぞ!」
「お前ら!! 全員あいつらの左胸を狙え!!」
一度それで倒した兵士の大声が更に敵兵への対処法を伝えていき……次第にこちら側の兵士たちも勢いを取り戻していきました。
「くっ……怯むな!! 例え動けなくなろうとも、ヒューリ王なら必ず再び我らに生命を与えてくださる! 全身全霊をもって我らが王に勝利を!!!」
『うおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!』
……やはり、不死性の攻略法を知ったからといって、容易く気力が萎えることはありませんか。
しかし、こちらの方は先程まで圧倒的不利に追いやられていたのです。
殺せず足止めも出来ず……延々と向かってくる不死の兵士。
それを相手にするこちらは精神的苦痛が尋常ではありませんでした。
だからこそなおさら、左胸の核を壊せば敵も動かなくなる。
完全な不死ではないとわかったことによる希望は勝利を予見させてくれるほどの未来への光明に見えたことでしょう。
「奴らは不死ではない! 核を潰せ! マヒュム王やフワローク女王の……全軍にこの情報を通達せよ!!
ティファリス様も我らに期待を寄せてこの北に派兵したのだ! 今こそ、この情報を知ったからこそ!! 我らが勇猛ぶり、しかと奴らに見せつけてやれ!!!」
いつの間にかそれがしの後ろについていたウルフェンが、人狼族が出せるだけの声で張り叫びながら周囲の兵士たちを鼓舞していました。
……なるほど、彼を指揮官に据えた理由、少しはわかった気がします。
大きな声で相手を威嚇するように叫ぶ、というのはそれだけで情報を伝達しやすいものです。
比較的近くにいたそれがしからすれば耳を塞いでしまいたくなるほどうるさいですが、遠くの味方に知り得たことを伝えるにはうってつけ。
そして今、絶望に包まれかけていた戦場にもたらされた風は、狼の咆哮で一気に拡散され……徐々にこの戦局に変化を生じさせていく。
「一人が動きを封じ、一人が確実に仕留めろ! 二人一組……出来れば三人一組になって事に当たれ! 決して先走るな!」
ウルフェンの激を飛ばすような指示を背中に受けながら、周囲に襲いかかってくる敵兵の左胸を確実に突き刺して進んでいく。
今のこの状況は間違いなく追い風。
これを機に一気呵成に攻め、劣勢を覆さなければなりません。
故に――敵の将の首を、仕留める。
普通の兵士では倒せぬものを制することができれば、それはさらに追い風となることでしょう。
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