261・銀の狐は聖なる黒と共に
ユーラディスとの戦争の準備を進めている中、私はレイクラド以外の心当たりを訪れる事にした。
それはリーティアスのディトリア郊外……最近では銀狐族の生き残りが住み始め、活気に溢れ始めた場所にいた。
「ティファリス様、こんにちはですにゃ!」
「「「こんにちはですにゃー!」」」
銀狐族を守るように警備しているのはリーティアス軍の猫人族兵士たちで、みんな笑顔でキリキリと働いてくれている。
「ええ、こんにちは。フラフはいる?」
「案内しますですにゃ! こちらですにゃ!」
他の兵士とは違って、少し縦長の帽子を被った隊長のような猫人族が一歩前に出て、私に敬礼をしたのち道案内をしてくれることになった。
……というか、私の国ではそんなことしてないんだけど、一体いつの間にそんな敬礼なんて覚えたんだろうか?
少なくともきちんとこちら側に組み込まれている猫人族はしているようには見えない。
このディトリア郊外の銀狐族を守ってる者たちのみだ。
もう一つ言えば、こんな縦長帽子を被るのもここの者たちのみの特徴で、誰が隊長かわかりやすくするためだとか。
こちらの言うことにはきちんと従ってくれてるし、リーティアスの規律を乱すわけでもないから放置しているんだけど、そういうのが徐々に増えていて、ちょっとした猫人族の駐留地になりかけている。
「こちらですにゃ!」
そのまま彼の案内に従っていくと、やがて少々大きな屋敷に到達した。
これはパーラスタとの戦争が終了した時に保護した銀狐族の一部が、フラフの為に用意した屋敷で、私の館より小規模にしてたのは、この国の魔王である私に気を遣って……のことらしい。
「ティ、ティファリス様! これは……!」
番をしていた銀狐族の男がビシッと敬礼をして直立で挨拶をしてくるんだけど……猫人族にあれを教えたのは貴方たちか。
……まあいい。今はそんなことを問い詰めてる場合じゃない。
「フラフに会いに来たの。話は通してあるはずよ?」
「はっ……それではこちらでどうぞ」
「ぼくはこれで失礼しますですにゃ!」
私と銀狐族の男に敬礼をすると、規則正しい足取りで、彼はそのまま自分の持ち場へと戻っていった。
一応彼の姿を見送った私は、そのまま銀狐族の男に連れられて屋敷の中に。
案内されるままに屋敷の中を進むと、一つの部屋に辿り着いた。
「こちらでございます」
「ありがとう」
銀狐族の男は一度敬礼をして、そのまま去っていってしまった。
なんだかため息が出そうにもなったけど、とりあえず私は扉をノックしてから入ることにしようか。
「入るわよ」
「……うぞ」
フラフの声がくぐもって聞こえてきたが、多分『どうぞ』って言ったんだろうと判断して、そのまま中に入ると……そこにはフォヴィとフラフが話していた。
「あ、てぃふぁーさま」
最初に声を上げたのは未だに私の名前をまともに言ってくれないフォヴィだった最初は『てぃふぁりーす』だったのが『てぃーふぁ』になり、最終的に『てぃふぁー』で落ち着いてしまったのだ。
「ティファリスさま、お久しぶり」
「ええ、フラフ……姫と呼んだほうがいいかしら?」
「ふつうに、フラフ、でいい。
なんだか、他人行儀っぽい、から」
ふるふると首を横に振る仕草が妙に可愛らしく感じる。
それにしても……以前は鎧姿をしていた彼女が、今ではドレス姿なんだから驚きだ。
フラフは嫌がっているようだけれど、フォヴィがどうしても、というからその頭にはティアラが着けられていて……下手をしたら私よりもお姫様しているかもしれない……とここまで思って気付く。
私、魔王なんだからお姫様ぽくなくってよかったんだ……と。
「それで、今日はどんな用事?」
「ええ……。ヒューリ王がこちらに対して宣戦布告してきたことについては、知ってるわね?」
問いかけると、きょとんとした表情で首を縦に振って頷いたフラフは、すぐにある程度察してくれた。
「あたしに、戦ってほしい……ってこと?」
「有り体に言えばね。あの国と戦う以上、少しでも多くの戦力が欲しいの。
銀狐族である貴女のも……ね」
「てぃふぁーさま、でも……」
不安そうにフォヴィは私のことを見ている。
彼女はずっとパーラスタに囚われていたせいか、どうもこちらを信用しきれていない節がある。
フォヴィの中では、もしフラフがこれを拒否したらどんな無理難題を要求してくるのかと怯えているのだろう。
その目に少なからず恐怖の色が宿っているところからそれは私以外にも……フラフにもわかるほどのことだ。
「大丈夫、ティファリスさまは、そんな魔王様じゃないから」
怯えているフォヴィの背中をゆっくり撫でさすりながら私の方に目を向けてくる。
正直、これが昔のままのフラフだったら私も誘いはしなかっただろう。
だけど、彼女は記憶と取り戻したと同時に戦いに関することも一緒に思い出したようだった。
一度フラフが剣を扱っている姿を見たフレイアールが、リーティアスの兵士以上に扱うのを見たとはっきりと言っていたのを覚えている。
銀狐族は魔力も多く、使える魔法もそれなりにある。
エルフ族の連中は自分たちには劣るとほざいていたけど、彼らには彼らなりの戦い方というものがある。
パーラスタはただそれを力でねじ伏せただけに過ぎない。
「ティファリスさま、あたし、出る」
「ふ、フラフひめさま!?」
「そう……断ってもいいのよ? 下手をしたら貴女も死ぬかも知れない。
もちろん、私も出来る限りのことはするけど……今回の戦い、私も出陣する予定だから、絶対とは言い切れないわ。
断ったって別にどうこうするつもりもないし、今まで通り、貴女たちに援助は惜しまないつもりよ」
私なりにフォヴィがこれ以上怯えないような言い回しをしながら、フラフには最悪、出てこなくてもいいと伝えたのだけれど……フラフはゆっくりと首を横に振ってそれを断った。
「あたし、いっぱいティファリスさまに助けてもらった。
返しきれないほど、恩があるのに……昔のあたしは、それを返せなかった。
でも、今は違う。きっとティファリスさまのお役に、立てる」
その目は澄み渡る青空のようにまっすぐな意思を宿していた。
最初から断るつもりも微塵もなかったと……彼女の目は確かに語ってくれていて、それがとても嬉しかった。
それだけの信頼をされているのだというなによりの証拠だったからだ。
「……それじゃあ、出来るだけ早くでいいから都合が着く時に私の館に来てちょうだい。
そこで貴女と貴女の連れてる銀狐族と……ここに留めている猫人族を一つの軍として編成するから」
「わかった。……ティファリスさま、あたし、必ずお役に立ってみせるから」
「そう言い切るのはいいけれど、出来るだけ生き残ること。
貴女には国を再建するという役目が残っているのだから」
フラフにはヒューリ王との戦争が終わった後、彼女の国を再建するという役目が残っている。
それは銀狐族の彼女とフォヴィにしか出来ないことだ。
私の方もそれを支援して、独り立ちした彼女の国とは同盟を結び、今後に繋げていこうと思っている。
だからこそ今、フラフの力になれることを……そう思った時、私はあるものの存在を思い出した。
あれならば彼女の力になってくれるだろうし、今はまだ違うが、国と国同士の友好の印として贈ったという名目も立つだろう。
そうと決まったら早速行動あるのみだ。
私は早速ディトリアの館の中に戻り、彼女にそれを贈る為の書類作成や手続きを行うことにした。
公式の文書があったほうがより信頼に厚みを増すし、確かな証にすることが出来るからね。
そのためには少々忙しいことになるかもしれないけど、それも致し方ないことだろう。
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