247・超克の為に挑みし精霊
暴風――。
そう呼ぶのに相応しい
今までの様子と打って変わった荒々しい戦い方だ。
先程の『クイック』を使った攻撃とは大違いだ。
「くっ……」
(ねらいがー……)
森で相対するというのはしくじったのかも知れない――。
そう思わざるを得ないほどの身のこなし。
とてもあのような重量感のある鎧を身にまとっている者の動きではない。
「『がいあらんす』!」
「『アブソーブシルド』」
ライニーが繰り出した『ガイアランス』はヒューリ王の
あれは……魔法を吸収する魔法か……!
しかし――!
「『ラジシルド』とは違い、真横ががら空きだぞ! 『フレアボム』!」
余の魔法はヒューリ王の真横で炸裂し、熱風が爆発とともに吹き荒れる。
直撃を受けた彼がそれだけで死ぬような器ではないということだ。
「ライニー!」
「『ふれぐらんすすもーく』!」
眠気を誘う心地よい香りとともに煙幕のように巻かれ、余とライニーの姿を隠す。
これは煙を吸う毎にゆっくりと眠りへと誘う魔法。
それと同時にこちらの姿を隠し、防御の役割を果たすものでもある。
「……ちっ、また面倒なものを」
「卑怯だと言うなよ? これは戦い。余らは戦争をしておるのだからな」
喋りながら右に移動し、そのまま後ろに下がるように方向転換し、自身の所在を悟られぬように移動する。
全く、実に厄介なことだな。
今までのがお遊びなのだと改めて実感させられるほどの動きのキレの良さ。
辛うじてやりあえているのはライニーと上手く連携を取ることが出来ているからだろう。
「はぁ……はぁ……」
(へいかー……)
余の事を心配そうに気にしているライニーだが……今は心配するな。
魔力を使いすぎ、体力も相当消費している。余もかなり苦しい立場にあるな。
しかも奴は事ここに至って魔力を吸収する魔法を発動してくるというおまけ付きだ。
最早……こちらも四の五の言っている場合ではないということだ。
(ライニー、あの者は……?)
(……りーてぃあすにおくりだしたよ)
(はっはは……わざわざそこに、向かわせるか)
全く、これでは余の覚悟というものがあったものではない。
しかし……悪くない。
(ゆくぞライニー。余とそなたの底力、あの魔王に見せてやろうではないか)
(うん!)
互いに【回線】という絆で意思を交わし、二人で全身の魔力を漲らせ、力をここに喚び生み出す。
契約スライムとはいえ、ライニーも精霊族。
余とライニーが力を合わせれば……負ける道理はない!
「『フィンブル・ネーヴェ』!」
「『えくれーる・あっしゅ』!」
余から解き放たれるのは破滅の冬。極寒の地をここに具現し、全てを激しく凍らせる。
ヒューリ王がいる『フレグランススモーク』の効果範囲内に限定したため、余計な魔力を消費させられたが、それに見合った威力は……今から顕現する――!
まず、範囲内で激しい風が吹き荒れ、皮膚を突き刺す程の凍てつく風が狂いなく音が聞こえる中、雪は小さな剣となり、嵐のように全てを覆い尽くす。
――そして、響くのは雪で象られた狼の遠吠え。
狂狼の声はこだまし、その範囲にいるヒューリ王を蹂躙するためにあの男の元へ……。
これぞ『フィンブル・ネーヴェ』……死の冬の中、滅びの雪舞う――余が扱える最大の魔法。
身体に覚えるのは強烈な虚脱感。この魔法は相当魔力を使う。
ましてや今の余はかなり消耗しており、最早風前の灯火と言っても良いだろう。
そして、そこにあまりにも大きな巨大な雷の斧が、まっすぐ振り下ろされる。
鳴り響く轟雷。ばちばちと弾け、死を振り撒く恐ろしい音。
ライニー自身も扱える魔法の中で最大の火力を誇るものを放ってくれたのだろう。
隣に寄り添うように小さな灯火は、明かりを失い、彼女の可憐な姿を顕にする。
疲労の色濃く、後に参戦したと言っても彼女もそんなに活動することは出来ないだろう。
冬と雷。雪と斧。白と黄が激しく入り乱れ、鳴り渡る戦場を、それが止むまでの間、息を整えながら見守ることにした。
――
(へーかー、らいに、もうつかれたよぅ……)
「わかってる。もう少し待て」
ゆっくりと警戒をしながら余は魔法が発動し終わったその大地を踏みしめる。
周囲には冷たく凍りついた大地が残っており、斧が振り下ろされた場所は少し焼け焦げたような匂いもする。
――なんたる無様なことか。
この余ともあろうものが、ふらふらとした足取りで歩くことになろうとは、な。
そして歩きながらも辿り着いたその中心。魔法が放たれ、ボウルのような大きな窪みとなっている。
ライニーも同様にふらふらと余の周りを飛びながら、寄り添ってくれているが、疲れたのであれば余の方で休めばよかろうに……。
それをせぬのは余も疲れている事を察してくれているのだろう。
大丈夫だ。ヒューリ王の死を確認すれば……この戦争を終えれば、休む間も――。
「へーか! あぶない!」
魔力の使いすぎで若干霞む意識を必死に呼び戻しながら、余は――前に躍り出たライニーの姿が見え……それが
「ライニィィィィィィィィ!!」
「へ……か、た、たの……し、か……」
二度の斬撃。それだけで余の側で尽くしてくれたライニーは、血に染まり、首と胴、更に胴の半分を……!
「ヒュゥゥゥゥゥリィィィィィィ! 『ガイアラ――』」
「遅い」
余は首を突き刺され、血を吐きながら
彼が着ていた青い鎧は完全にその姿を失ってしまい、代わりに見せたのは恐ろしくも艷やかな漆黒とも呼ぶべき闇よりも深い長髪。
そして光り輝く白銀の瞳はどこまでも冷徹な色を帯びていて、空恐ろしい。
相反する色を宿しながらヒューリ王は余を見上げながら……首から引き抜いたそれを、そのまま左胸を突き刺し、横薙ぎに斬り倒され……そのまま血飛沫を撒き散らしながら地に倒れ伏す。
薄れゆく意識の中、ふと見えたのは嬉しそうに笑っているライニーの顔。
血に塗れた彼女の小さな顔は、不思議と安らぎに満ちていて……それが余の心にも風を吹かせてくれる。
――ああ、そうだな。また相まみえたら、そのときは……。
共に花咲き風薫る道を……再び歩もう――。
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