235・怒涛の竜人
――フワローク視点――
マヒュムと晩酌を交わしてから二日――なんとか一進一退の攻防を繰り返しながら、戦い続けていたのだけれどまだなんとか……ギリギリの所で持ちこたえることができてるように思える。
もしかしたらこのままなんとかなるんじゃないか……そう思った矢先の出来事。
「フワローク様! 大変です! たいふぅぇんどぅぇす!」
「大変なのはわかったから……何事よ?」
あたしも防衛軍に加わりに行こうとしたその矢先のこと。
筋肉が素晴らしいドワ―フの兵士が一人、私の前に慌てて駆けつけてきた。
相当不味いことがあったに違いない。
「それが……実は……その……」
「ああもうじれったい! あたしは崩れる前に防衛に回らないと悪いんだからちゃっちゃとする!」
マヒュムと飲んで以降、戦場に出ずに身体を休めていたんだから、そろそろ動かないとまずい。
それなのに……目の前のドワーフはなにをそんなに言いたいことがあるのだろうか?
「それが……レ、レイクラド王とライドムが前線に出てきました……!」
「な……!」
なんでもっと早く言ってくれないの! と怒鳴りそうになったんだけど、今彼を怒鳴っても何も進展しない。
というか……とうとう出てきたな……レイクラド王とライドム……。
竜化することが出来る者の中で最も強い王様と、それに従うスライム。
今までなんとか持ちこたえてこれたのはその二人が一度も前線に出てこなかったというのが一番の理由だった。
それが今この時にだなんて……。
いよいよもってあたしも決断しないといけない。
これ以上向こうの戦力が増加してしまったら多分押し負けてしまう。
こうなったら……。
「あれを使うわ」
「アレ? アレってドレですか?」
この男は……この状況であたしがアレって言ったら一つしかないでしょうに!
「アレよアレ! 対竜用に拵えていた魔法具よ!」
「あー……あれですか……でもあれはまだ未完成……」
「そんなもん、あたしが一番知ってるよ! だけど今使わないでいつ使うっていうのよ!」
未完成でも欠陥品でも無いよりマシっていう今の状況が彼にはわかっているんだろうか?
こっちはあたしとワーラム。それと……マヒュムとイーシュの四人で戦ったとしても、レイクラド王とライドムの相手には荷が重いんだとね……。
あたしたちがセツキ王とその契約スライムのカザキリくらいの実力があれば、まだなんとか出来た……というか互角ぐらいにはなれたかも知れないけど……そんな事考えてもどうしようもないもんね。
今はあたしにできることをする。もうなりふり構ってる場合じゃない。
ティファリス女王の救援がここに来るまで、死に物狂いで守ってみせる。
――
――マヒュム視点・国境砦――
「やれやれ……これは、きついですね」
レイクラド王たちが前線に出てくるという一報を受けた私は、いよいよ覚悟を決めるときなのかも知れないですね。
向こうは魔法も近接、遠距離も自由自在。こちらは魔法以外での遠距離攻撃は意味がないですし、魔法もそんなにバンバン撃っていては……あっという間に枯渇してしまいます。
なにより厄介なのは――
「マヒュム王! 防壁がそろそろ保ちません!」
――そう、砦の防壁は何の意味も為さないのです。
普通の兵士なら問題なく機能するのでしょうが……相手は竜人。
陸での攻撃はもちろんのこと、空からの攻撃も思うまま。
竜の
……それでも籠城戦をしなければならないのは――そうしなければ陸上戦力とまともにぶつかることになってしまい、余計に消耗しまいます。
「……仕方ありませんね」
ラスガンデッドとエンドラッツェの国境にある砦……ここを落とされてしまえば、どちらの国も落とされるのは時間の問題でしょう。
ならば――ここで死ぬのも後で死ぬのもそう変わらない未来でしょう。
「でますよ」
「で、ですがマヒュム王はつい先程まで魔法を……」
「今ここででなければどうしようもないでしょう」
死ぬかも知れない……そんな重苦しい事実が私の肩にのしかかってきますが、それでもまだ希望は残っています。
――リーティアスからの救援。
ワイバーン空輸経由ですが、既に届いているはずです。
本当でしたら完全にここに攻め込んでくる前――小国を次々と攻め潰している間に助けに来ていただけたら良かったのですが、あちらもパーラスタと戦っていた最中でしたし、それは無理な話でしたかね。
「イーシュはまだ前線ですか?」
「は、はい……」
「よろしい。ならば彼には一つだけ伝えてください」
ごくり、と喉を鳴らす音が聞こえてきましたが、私の方もこんな事を言うのは本当に苦しいのです。
ですが……ここで私自身が言わなければ、彼はどうせ勝手にやっていたでしょうからね。
「国の為に死んでください――とだけ」
「マ、マヒュム王……!? それは……!」
「頼みましたよ」
兵士にはそれだけを告げて、私自身も出ることにしました。
死を覚悟することすら生ぬるい、命舞い散る戦場へ――
――
砦の入り口は魔力を宿した頑丈な扉に守られていて、なんとかその姿を維持していましたが、それを掻い潜るかのようにワイバーン・飛竜に乗り込んだ竜人の攻撃。
ここまで来ると笑えてきますね。
「『サンダーストーム』!」
私は早速魔法で雷の竜巻を繰り出し、ワイバーンに乗った竜人の一人を撃ち落としました。
「手早く囲んで処理をしなさい! 魔法部隊は決して攻撃の手を緩めないように」
「マヒュム王様! 魔法を撃ち続けていた兵士たちは……」
「陸上戦力に回しなさい。少しでも魔力を回復した者と交代するように」
「はい!」
魔力は無限じゃありません。
魔法で傷を癒やすことは出来ても体力が回復することがないのと同じように、魔力は時間経過でしか回復しません。
良質な食事、良質な休息で回復は早くなりますが、瞬間的に回復する方法なんてものは存在しません。
だからこそ……魔力をほとんど使い切ってしまった兵士の方からまだ温存している者、回復している者と交代しながら戦い続けているのですが……それにも限界というものがあります。
それでも戦い続けなければならないのは楽ではありませんね。
「皆さん! レイクラド王とそのスライムのライドムは無理をしてまで相手をしてはいけません!
私……が戦います!」
本当はイーシュにも戦ってもらいたかったのですが、彼がいなければ戦線を維持するために必要な存在です。
指揮官として彼にはあそこに留まってもらわなければなりません。
「マヒュム王!」
「『アクアストーム』!」
水の竜巻が他のワイバーンに乗った兵士を捉え、くるくると回りながら落下していくのが見えました。
全く……あらゆる竜種の総本山であるドラフェルトだけはあります。
こちらが苦心して空輸にまわしているワイバーンをこうも多く戦力として投入してきているのですから……。
次にどう動くか、何を対処するかをそれを考えている最中――そこにあの王が姿を現しました。
「レイクラド王……」
凛々しくも雄々しいその姿は既に背中には竜の翼を現出しており……その姿・覇気が私を威圧してきて――まずい!
「『アクアストーム』!」
今回の『アクアストーム』は前方に出現させるためだけに使ったに過ぎませんが、これで彼からは私の姿が見えなくなったでしょう。
「『アバタール』!」
そのままその場に分身を創り出し、急いでその場を離脱すると……すぐさま飛んできたのは、『アクアストーム』を物ともしない程の凄まじい
――危ない危ない。あんなものを食らってしまったら、一瞬で灰も残らず消し飛んでしまいましたよ。
私はそのまままっすぐ駆け抜け、レイクラド王の元に……攻撃範囲内にたどり着くために――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます