224・鬼神、猛々しき王との一戦

「『火風・鎌鼬かまいたち』!!」


 刃を合わせてるからって俺様がただ大人しくそのままにしておくわけがねぇだろう。

 右手により一層力を込めながら、左手はヤーシュに向けて突き出し、火を纏った風の刃をを繰り出す。


 あいつはそれを片腕で防ぎ、より一層猛々しく大剣を振るってきた。

 それはまるで、上から降り注ぎながら激しさを増していく豪雨のようだ。


「はっは……はああああああ!!」


 咆哮しながらがんがん攻めてきやがって……そんなんじゃぁ……


「そんなんじゃあ……物足りねぇって言ってんだろうがああ!!」


 グッと『金剛覇刀』を持つ手に力を入れ、ヤーシュが振り下ろしたその瞬間を狙い、腰を低くしながら刀を斜めに逸らして刃を横に向け、受け身の構えを取る。


 そのまま大剣から繰り出される一撃を受け止め、手に伝わる衝撃が収まらないうちに刃を滑らせながらヤーシュの方に突撃をかけ、そのままもう一度右手で……今度はやつの頭に直接魔法を叩き込んでやろうと腕を伸ばす。


 それを考えていたのはヤーシュも同じようで、互いにがっしりと右手を右手を握りしめ、不敵な笑いを受ける。


「よう、セツキよ。

 お前、ここで魔法をぶっ放したらどうなると思うよ?」

「やってみろよ。俺も……やってやるからよぉ!」

「「『火風・鎌鼬かまいたち』!!」」


 ――ガオォンッッ!!


 互いの右手から発せられた魔法が、爆発し、お互いの右手を焼く。

 痛みが走り、頭の中に凄まじい高揚感を感じる。


 そう、痛みがより一層、目の前の相手を消し飛ばしたい、殺したいという気持ちが強まってくる。


「かっはははは!! 楽しいな! お前もそうだろうがぁ!」

「くは、はははは!! 当たり前じゃねぇか!」


 恐らく、こいつと俺様は考え方が似通って……いや、こと戦闘に関する事についての考えは俺様と同じと言ってもいいだろう。

 だからこそ……なおのこと滾る。


 ティファリスと戦った時とはまた違った滾りが俺の全身を支配する。

 一度互いに距離を取り、軽く焼けた自らの右手を見る。


 ――うん、まだいける。

 互いに魔法をぶつけたおかげか、相殺しあった結果がこの軽い火傷といったところだろう。


「『火土・地走り』!」


 ヤーシュが繰り出した地を走る火は、一直線に俺様に向かうが、それを紙一重に避けながら俺はヤーシュに肉薄し、大きく構え、振り下ろす。


「その程度で……俺様に届く訳ねぇだろ!」


 ヤーシュは俺様が『火土・地走り』を避けたときのようにまっすぐ振り下ろされた一撃を紙一重で避けられ、地面から火花を散らしながら右下から左上斜めへと振り上げてくる。


 俺様はその軌道上に『金剛覇刀』を放り投げ、そのまま刀身に右手をグッと握りしめ、拳打を叩きつける。

 ちょうど『金剛覇刀』を介して俺の拳とヤーシュの大剣が向かい合うようにぶつかり合う。


「くっくっくっ……武器を放り投げて防御に使うのかよ。

 狂ってるな、お前」


 心底楽しそうに笑うヤーシュの事を無視して、俺は残った左拳をまっすぐ振り抜いてやる。

 自分が思うのもなんだが、とてもじゃないが拳から繰り出されるような音には思えないほどの轟音が響いて、やつの顔面――その額を確かに捉え……いや、俺の拳の動きに合わせて頭突きを浴びせてきやがった……!


 完全に振り抜かれなかった俺の拳は威力を著しく下げられ、大したダメージが与えられなかった。


「……ちっ、お前こそ、あんな音がする拳を頭突きで威力を軽減されるなんてな。

 やっぱりお前は鬼……いいや、鬼神だよ」


 もう一度拳を振りかざしてやろうかと思ったが、流石にその隙を与えてくれる訳がなく、自身の大剣を引いて少しだけ身を退ける。


 支え合っていたものの片方を失った『金剛覇刀』は転がってしまった。

 もうあの大刀は拾いにいける隙は与えてくれないだろう。


「で、どうするんだよ? 良かったら、その刀拾わせてやろうか?」


 俺様の考えてることを読んだとでも言うかのようにちらっと転がった『金剛覇刀』を見やる。

 そんなこと出来るわけがねぇだろうが。


「ヤーシュ……てめぇもわかってんだろうが……」


 腹の底から出るどうしようもなくあふれる血の高まりを吠えるように怒鳴り散らしてやる。


「俺は――俺様を誰だと思っていやがる!!

 鬼神のてめぇならわかってるだろうが……俺様こそ最強! 歴代の中でも最も強き鬼神族の魔王・セツキなんだよ!! 誰がお前の施しなんか受けるかよ!」


 口から出たのは傲慢を輪にかけた程の暴言。

 だけどこれが鬼神族だ。


 自分こそ誰より強い。例え何度負けても関係ねぇ。

 最後に立っていた奴こそ真の強者。

 そして……さの最後に立つものこそ他ならぬ自分自身なのだ。


 そういう負けず嫌いと言ってもいいほどの強さを、鬼神族は誰もが持っている。

 もちろん例外もいるけどな。


 だが……少なくとも目の前の敵はそうじゃない。

 俺様もあいつも……自分こそがこの場で一番強いと思っている。


「良い答えだ……なら、もっと力を見せてみろよ!!

 俺様が……このヤーシュ様が一歩も二歩も上回ってやるからよぉぉぉぉぉ!!!」

「「『土火・烈火招来』!!」」


 互いに身体能力を上げる魔法を唱え、より一層高みに登る。

 日が走りそうな程の勢いでヤーシュが腰の中程辺りに大剣を構え、突撃をかけてくる。


 それを手刀で叩き落とそうかと考えたが、刃は縦の方を向いている。

 ならば――俺は引っ掛けるように左横から剣先を殴り飛ばし、剣筋を逸らしてやる。


「はっ、たった一撃で俺様の剣を逸らすかよ!」


 その反動を利用するかのように一回転しながら首を刎ねるかのように横薙ぎの斬撃。

 今度はそれを一度腰を低く落とし、捻りながら下から上に突き上げるように拳打を繰り出してやる。


 そこから先はまさに拳と剣の嵐。

 ヤーシュから放たれる荒々しくも恐ろしい斬撃を、大剣の剣身に自らの拳を叩きつけてそれを逸らし、そのまま攻勢に転じ、ヤーシュと拳を突き合わせる。


 その後、少々飛び散る血が尚更自身の感情を高揚させ、それがより高みへと昇っていく。


「『風水・真空流断』!!」


 横に倒して剣先こちらに向けている状態の大剣を思いっきり蹴り飛ばし、右手を突き出して水の細い線のような刃を飛ばす。

 鉄すらも斬り裂く鋭い水線がヤーシュに迫る……が、それは頬を掠めるだけに留まり、お返しとばかりに剣を横ばいにしたままの状態で俺様の頭に思いっきり叩きつけてくる。


「ぐっ……があぁぐぅぅぅぅ……!」


 鋼鉄が後頭部にぶち当たったかのようなあまりの痛みに吠えそうになる自身の感情を抑え、よろけながら距離を取ろうとする俺様を逃さないように一回転して襲いかかってくる横薙ぎの斬撃が俺様の胸辺りに横一直線の傷が入る。


「くっ……」

「うおらぁぁぁ!」


 あの一撃が響いたのか、少しずつ押され始めてきた。

 無数に傷が走る中、それでも拳を繰り出し続ける俺様に対し、拳打を浴びながらも平然として斬撃を繰り出すヤーシュ。


 互いに呼吸を忘れるほどの連続攻撃の中、思いっきり息を吸うために一度しっかりと距離を取る。


「「はーっ……はーっ……」」


 呼吸を整える中、このままだと埒が明かないと考える。

 いや……俺の方が不利だ。


 格闘攻撃を繰り出す為に余分な体力を使っている。

 実力が伯仲していて、間合いはこちらのほうがより詰めなくてはならない。


 徒手空拳で挑むには少し荷が重い相手だろう。

 魔法も剣もほぼ互角。


 ――なら。


「ヤーシュ」

「あん?」

「認めるよ。お前の実力を……」


 胸中に湧き上がるのは収まらない感情の奔流。


 敵を倒せ殺せぶちのめせ滅ぼせ、渇きを癒やす為に――どうしようもない飢えを満たす為に、完膚なきまでに屈服させろ。

 狂戦士のように頭の中に流れる抑えられない衝動を……解き放つことに決めた。


「『鬼神・修羅明王』!!」


 ティファリスにすら見せたことのないこの切り札……それをこの場面で使う。

 ヤーシュが俺様と同等の能力を持ってるっていうのなら……俺様はそれの三歩も四歩も先を行く!


 ――だから……ああ、これ以上我慢できない。

 殺そう。今すぐ、この男を……このを! 俺様の手で!!


 今、自身を抑えつけるくびきから解放され――その威を示す。

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