216・エルフ族は嫌いだよ
――フレイアール視点――
みんなと――姉様とも離れて一人。
僕はこの大空を制覇するように魔法を解き放つ。
向こうのワイバーンがこっちを襲ってきても、関係ない。
僕の咆哮一つでどうとでもなるんだもの。
『我らが母に仇なす者共よ……この世から消えよ!』
相変わらず成竜の状態の僕は言葉にしようとすると、すごく尊大な態度になって口から出ちゃうんだよね。
もう諦めたんだけど。
地上を、空を焼き払って僕が向かうのはフェリベル王のいるパーラスタ。
そして『極光の一閃』と呼ばれている悪夢のような武器の元に。
本当だったらチャージしている間に僕の魔法で跡形もなく吹き飛ばしてあげてもいいんだけど、あそこにはフラフっていう銀狐族かもしれない女の子と、他にもいっぱいの人が捕まってるから、あまり攻撃しないようにって言われてるから迂闊に手が出せないんだよね。
母様の所にその『極光の一閃』の攻撃が解き放たれるのを見るたびに頭の中がグラグラと沸騰しそうになるんだけど、それでもなんとか堪えていられるのは、ひとえに母様が必ず守るって言ってたから。
母様はこれまで、約束したことを一度も違えたことはなかった。
そんな方が信じてパーラスタを攻め落とせっていうんだ。
僕らが信じなくて誰が信じるんだ。
母様は僕たちを信じてこの場を任せてくれた。
だから頑張ることが出来るんだ。
その逆、エルフ族は可哀想な種族なのかもしれないって思う。
だって、他種族を利用することしか頭にない。
誰かを隷属させて、力を示さざるにはいられない。
そんなことじゃ本当に助けて欲しいとき、誰も彼らを助けてくれないんじゃないかな。
誰からも無視されて、誰からも蔑まれて死んでいくのは、酷く寂しいことなのに。
今散っていった彼らの魂は、誰にも慰めてもらえず、ただただこの世界を彷徨い続け……未練と後悔の間に消えていく。
それを望んだのは他でもない彼らで……だから尚のこと可哀想だと思うんだ。
そんな風に感傷に浸っていた時、一匹のワイバーンが僕の前に立ちはだかった。
よくよく見てみると、そのワイバーンの上には誰か乗っているようにも見える。
『ほう、たった一匹で我の前に立ち塞がるか。
見上げた心意気だと褒めてやるが、身の程を弁えぬと……死ぬぞ?』
「散々殺しておいて何を言っている」
あ、今このエルフ、僕のこと鼻で笑った!
嫌な感じだなー……こういう、どんな時でも他者を見下そうとする精神があるんだよね。
だから僕、エルフ族は嫌いだよ。
『先に仕掛けてきたのはお前たちではないか!
それとも……尊きエルフの血が劣悪なら我らに負けるはずはないと、タカをくくっていたのか?』
「……減らず口を」
どうやら図星のようだね。
だって彼らが味方に鼓舞する時、「相手は劣等種!」ってほぼ必ず言うんだもん。
圧倒的力の前にでもそんな言葉が出るんだから病気なんじゃないかとすら思うよ。
『もういいだろう。
我らが母も、無益な殺生は好まん。
大人しくするのであれば、命は助かるやも知れんぞ?』
「ぬかせ! この駄竜が……!
お前如きにフェリベル王の契約スライムたるこのエチェルジが、降伏するわけがないだろう!」
怒り一色に染まった顔で僕の方を見てるけど、僕だってね、色々と頭に来てるんだ。
契約スライムだろうとなんだろうと、邪魔をするなら消し炭にしてあげるよ!
僕は口の中で魔力を練り上げ、暴れるままに一気に解き放つ。
パーラスタの『極光の一閃』と負けず劣らずの(と自分では思っている)光線が、まっすぐエチェルジに向かって進んだ……んだけど、ワイバーンを手綱で操って器用に回避して、『ファイアランス』の魔法を一気に三つも打ってくる。
流石エルフ族。並みの魔法使いじゃこんな風には出来ないよ。
でもね……。
『その程度の児戯で……我を止められると思うな!
崩落せよ! 【マウンテンプレッシャー】!』
僕は魔法を解き放つと空中に巨大な土の塊が山のような形で形成され、それが一気にワイバーンの元へと降り注ぎます。
「な、これ程までの魔法を放つとは……しかし、『スラッシュトルネード』!」
鋭い刃の竜巻が僕が生み出した山の一部をくり抜き、その中をワイバーン通じて通り過ぎて回避する。
この男……中々やるなぁ。
だけど、僕がこの程度だと思ってもらっちゃ困るよ!
『これならどうだ? 【フリーズコロナ】』
僕の魔法……太陽のような形をした丸く冷たい物体は、周囲に冷気を振りまいて、僕たちの周囲を凍てつかせる。
それを星に惹かれるように、徐々にエチェルジが僕の『フリーズコロナ』に引き寄せられていく。
「馬鹿な……こんな魔法……」
『知らぬのも当然だろう。
これは既に失われていた魔法。魔力も知性も欠如しているお前たちには到底到達できぬ』
僕の魔法を見て驚きの顔を浮かべるエチェルジだったけど、それを認めないとでも言うかのように僕の事を睨みつけている。
いくらエルフ族が魔法の扱いに長けてるって言ってね……所詮そんなの今を生きていた種族の中ででしか過ぎないんだよ。
僕たちの母様が――聖黒族の魔王や英猫族の魔王が誕生した時点で、君たちなんて魔法が扱えるだけの一種族にしか過ぎないのにね。
それを自覚できるだけの知能はもっていても……それを認めるだけの精神が持ってないんだからね。
「……良いでしょう。ならば、こちらもそれ相応の力を見せるだけだ!」
『だったら早く見せると良い。我は待つのは好まぬ』
ギリギリと歯ぎしりをするエチェルジだけど、やるなら早くやって欲しいんだよね。
周囲を激しく包む猛吹雪の中だと、いくら僕でも寒いから、さ!
「『フレアボム』!」
エチェルジの魔法によって炎の爆弾が僕の『フリーズコロナ』に向かって放たれたんだけど……結局吸収されてしまって、むしろ爆発のおかげで余計に周囲に冷気がばらまかれることになった。
『何をやっておるのだ? それがお前のそれ相応の力というわけか?』
「ちっ……『メテオレイ』!」
恐らくこの人の最大の魔法なのであろう。
その巨大な隕石が一条の鋭い光になってぼくの生み出した『フリーズコロナ』にぶつかっていく。
まさに氷の星対炎の星といった様子だけど……うん、すごいね。
僕のこの魔法。手を抜いたわけじゃない。
この魔法で使えるだけの思いっきりをぶつけたんだけど……だったらこうしようかな。
ふわりと空中を漂うように『メテオレイ』と『フリーズコロナ』がぶつかっている方に空を泳いでいって、熱いんだか寒いんだかわからないこの空間の魔法を練り上げる。
「そろそろ諦めたらどうだ? いくらお前でも……」
『愚かな……』
炎と氷。相反する二色の魔法を分解して、混ぜて束ねて……そうして産まれた魔法は『霧』の魔法。
全く違う二つの魔法を混ぜたことにより、今度こそ掛け値なしの驚きがエチェルジの顔に広がっていく。
「な、なんだその魔法は!」
『ん? 我が作った新しい魔法だ。
遠慮なく、滅びるといい。【ミストランス・ケージ】』
魔法を展開すると、ワイバーンを丸の状態でぐるりと霧の槍が囲んで……それらが一斉にエチェルジに向かって解き放つ。
「こんな……こんな馬鹿な……」
『我が姉ほどの実力があれば我とも互角にやりあえたであろうに……』
「フェ、フェリベル様……申し訳――」
言い終わらないうちに全てが串刺しになる。
霧には赤が混じり、真っ赤に染まった霧の槍は蒸発していって……ワイバーンとエチェルジは霧散してしまった。
セツオウカには立つ鳥跡を濁さずって言葉があるらしいけど、彼はそれを体現してくれたみたいだね。
彼であったものは、もう何も残っていないんだから。
さあ、僕も再び行こう。
戦いの空は、まだまだ続いているから。
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