193・南西魔王の集合
――ティファリス視点――
朝、アシュルが訓練場に用事があると言って出かけた日のことだ。
私を含めた南西魔王が集合するようになっていた。
今回はリーティアスに集まるということで、前日には全員が集合し、ディトリアの一番高い宿屋に泊まっていた。
私の館は魔王全員をもてなせるほど広くはない。
ここも今後の課題なのかもしれないが、その分立派な宿屋が充実してるからあまり気にしないでもいいかもしれない。
宿代くらい、私の方で持てばいいわけだしね。
そんなこんなで、現在館の会議室にて全員集合状態。
「みんなで揃うのも一年ぶりくらいかにゃー?」
「私は各国を回ったりしてたからそうでもないけど、ちゃんと全員が集まったのは本当に久しぶりね」
「ワシの所は被害に遭わなかったが、他の国は散々であったようだからな」
そうなのだ。
どうやら、ジークロンドの所にも『
ちなみにクルルシェンドも同じで、彼らのところにいた悪魔族はアストゥのところに行っていたようだ。
狐人族の姿をしていた悪魔族がやってきたらしい。
おかげで二国には被害がなかったとはいえ、微妙に釈然としないところもある。
それだけこちらを制覇すればどうとなるとでも思われたいたのかと思うのだけど、終わったことを今考えても仕方のないことだろう。
「今回の集まりはなんだったっけ?」
「互いの国の戦力の確認、それと契約スライムの状況だ」
アストゥの問にビアティグがため息をつきながら説明していた。
今後、侵略を受けた時に何処を重点的に守るか? また、どこに真っ先に救援に行くべきか? というのが課題となっていくことも有るだろう。
今まで放置していたエルムガンドの領土もようやく復興の手が伸びてきた。
これからはあそこの土地も発展していくだろう。だからこそ、今ここを攻め込まれたくないわけだ。
防波堤となりうるクルルシェンド、グルムガンド、フェアシュリーの戦力状況を知ることによって、今後どこの国の戦力増強に努めるのかを決める……そんな重要な会議だ。
フェアシュリーを治めるアストゥは、いざとなったら一日だけ上位魔王級のちからを手に入れることが出来る『
彼女には出来るだけそんな力を使わずに力を蓄えて欲しいというのが本音だ。
妖精族の魔王はある一定の魔力を蓄えれば、魔王としての力が大幅に上昇し、『覚醒』を遂げる事が出来る。
そうなれば『
「まずクルルシェンドには戦力を増強してもらうよう支援していく手はずは整ってるから、具体的には残り二国ね」
イルデルの時のように予めこちら側に兵士を潜入させておくのならともかく、通常ならクルルシェンドを通らない限り他の国を攻めることは出来ない。
横に広い領土を持つクルルシェンドこそ、南西地域と他の地域を繋ぐ、いわば地域境とも言える場所だろう。
だからこそ、国全体を防御に特化した作りにしてもらいたいのだ。
「その事は追々としておいて……まずはお互いの契約スライムの存在を確認した方がいいと思うんですけど?」
声を上げたのはフォイル王。彼の言うことも最もだ。
契約スライムは各国で二番目に強い存在とも言うべき者たちだ。
私のところには現在アシュル……の他にフェンルウ、カヅキ、ナローム、ルチェイルの四人がいる。
……そう考えると私のところも結構な大所帯になってるな。
「ふむ、そうは言ってもワシのところはエルガルムとのいざこざで失っておるからな……。
契約スライムは今はいない」
「他のスライムと再契約しないの?」
「試してはみたが出来なかったな」
「ぼくもアロマンズが魔王になる前に契約してましたから……アロマンズがそれを放っておくわけないです。
さっさとディアレイに引き渡されました」
若干暗そうに語る二人によって、若干会議室の空気が重くなる。
少なくともこの二つの国で今代の魔王がスライムと契約出来る機会は完全に逸してしまったと言っても過言ではなかったからだ。
それでも私が回したり、ラスキュス女王に都合を付けてもらうということも出来るんだけど……それは出過ぎた真似だろう。
「まあ、ぼくの方はロマンとも上手くやっていってますし、あいつは変態やけど根は良い奴なんで」
そう言いながら頬を軽く掻きながら苦笑いするフォイルだけど、私の方もそれにはホッとした。
ロマンにはセルデルセルを統治するという大事な役割を任せてるし、クルルシェンドの庇護下についている。
その二人の仲が良いというのは、私にとっても嬉しい限りだ。
幾分空気が和らいだお陰か、次にぼそっと話したのはフェーシャだった。
「ぼくは今月契約する予定ですにゃ。本当は誕生日パーティーの次の日に契約する予定だったんだけどにゃ……。
結局、うやむやになってましたにゃー」
誕生日パーティー……ああ、エルフ族に洗脳された日か。
ということはフェーシャは少なくとも一体のスライムと契約できる、ということだ。
こう言ってはなんだが、一番信頼していた家臣を失った彼には、ある意味いい機会になったのかも知れない。
そのまま次に答えたアストゥは、なぜか少し照れている様子で答えてくれる。
「わたしのところにはいるよー。エイリって名前なんだよ!」
「でも、私、会ったことないわよ?」
フェアシュリーには何度か行ったはずなのだけれど、私は一度もスライムらしき姿を見たことがない。
てっきり、フェーシャと同じように契約してないのかと思っていたほどだ。
「かぁわいいんだよー。まずスライム本来の姿なんだけど、すごくちっちゃくて黄色いの。
目がくりくりしててね、背中に羽が生えててね、光りながら空中を飛んでるの。
だから傍目から見たら光の玉が飛んでるように見えるんだー」
その言葉を聞いた私は、リアニット王の契約スライムであるライニーの事を思い出していた。
彼女は確か妖精族がさらに小さくなった姿で、遠目からでは光の玉にしか見えなかったから、よく覚えている。
なんというか、流石上位魔王の血族だと感じた程だ。
ということはそのエイリって子も妖精族しか使えない独自の念話魔法である『
「わたしが大体首都のジュライムから外に出ないから、代わりに国中を飛び回ってくれてるんだ。
たまに帰ってくるけど、ティファリスちゃんが来る時は間が悪いっていうか……」
なるほど、私のように色んな所に行くような性質じゃないアストゥの代わりに国の周りを見回ってるってわけか。
で、今のようにアストゥがどうしても出なくてはいけない時はジュライムでアストゥの代わりにいるってことだ。
「今度『
「ええ、その時を楽しみにしておくわ」
あまりにも嬉しそうにアストゥが話すものだから私の方も会ってみようと思った。
それに、リアニット王はフェアシュリーの様子を教えてくれる協力者がいると言っていた。
もしかしたらその協力者というのはエイリかもしれないと思ったからだ。
「俺のところはあの時の騒動で閉じ込められていたが、今は元気にしている。
ティブラという、白い獣っぽいスライムだ」
ああ、ビアティグの方のスライムも見かけないと思っていたけど、悪魔族の策略でゴタゴタしていた時に閉じ込められていたのか……。
こうして聞くと、スライムがいない国がちらほらといるのがわかる。
ジークロンドの方はいずれウルフェンを国に帰してやり、魔王としてあとを継がせればどうにでもなる。
クルルシェンドもロマンに頑張ってもらえれば多分大丈夫だろう。
というか、本当はもっと早く契約スライムについては情報共有しておくべきだったかも知れない。
結成した後もそれぞれ自分たちの国をまとめるのに時間がかかったせいだろうが……それは今から挽回すればいい。
今は先に戦力の話を引き続きしていこうと思う。
より連携を強めて……挑んでくることはないだろうが、まだ私にちょっかいを掛けてきている上位魔王がいる。
イルデルの時も攻めてくるとは思わなかったし、少しでも不測の事態に対応出来るようにしなければいけない。
これ以上、私の甘さで死者を出したくはなかったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます