151・力の一端、開放

 ――フェーシャ視点――


「カ、カ……カッフェェェェェェェェェェ!!!!」


 ようやく自力で回復出来るようになれるほど動けるようになったボクは、一人で果敢に戦うカッフェーを助けるために立ち上がって――その光景を目撃してしまったニャ。


『ライフ・デスソング』。それは自身の全生命力と引き換えに周囲の敵の生命を奪う――道連れの魔法だニャ。ケルトシルでもボクとカッフェー以外使うことの出来ない魔法だったニャ。

 恐らく、そのままの勢いで一旦撤退して、体勢を整えるというのがカッフェーの考えた作戦なんだろうニャ……。

 カッフェーのその捨て身の攻撃は、ガッファ王の軍にも被害を与えることが出来て、向こうの動揺を引き出しすことに成功したニャ。

 これで戦況は逆転。現在は苦戦しつつもガッファ王の軍を徐々に押して行ってるように見えるニャ……それがこの結果じゃあ……。


「な、なにが起きたにゃ?」


 状況がいまいち理解できてない様子のガッファ王だったけど、そんなことはどうでもいいニャ!

 カッフェー、ボクの大切な……本当に大切な親友。


 いっつも「にゃは」って笑ってボクの事をからかったり諌めてくれたり……子どもの頃からずっと一緒で、レディクアと結婚した時は本当に嬉しくて、涙が出て……ボク、あんまりの感激にみっともなく泣いたりして……。


「カッフェー……起きてニャ。ま、まだ……ぐすっ、まだ寝るに、は早い、ニャ」


 ボクはよろよろとカッフェーに近づいていって、膝をついてカッフェーを揺さぶって起こそうとしてたニャ。

 頭によぎるのは、カッフェーとの懐かしい思い出ばかり。


 子どもの頃からボクの教育係で、ボクの事を初めて怒ってくれた他人で、魔法が上手くやれたときはボク以上に喜んでくれた……大切な人ニャ。


 ガッファ王に挑むということは、死んでもおかしくない……そうなっても仕方ないってわかってたニャ。

 だけど……だけどこんなのあんまりニャ! あんな不意打ちで軍が攻撃されて……ボクがもっとしっかりしていれば……ボクがもっと強ければ……!


 ケットシーから教えてもらった魔導も肝心な時に使うことが出来ないで、ボクは……。


「邪魔にゃ!」

「ぐぅっ……!」


 ボクが泣き崩れてる間に近寄ってきたであろうガッファ王が、ボクを思いっきり蹴っ飛ばしてきたニャ。

 そのまま無防備な腹を蹴り込まれ、背中で地面をこすりながらカッフェーから離されてしまったニャ。

 本当なら戦闘時にこんな感傷に浸ってる場合じゃなかったのニャ……でも、ボクにとってカッフェーは、臣下である以前に、とても大切な友人だったのニャ。


 涙を溜めた瞳で呆然と物言わぬカッフェーと不機嫌そうなガッファ王を眺めていたニャ。

 そうしてたら――とても、信じられないことをしてきたニャ。


「ふざけるにゃ! オレの……オレはようやく……もう少しで自由を掴めたはずだったのにゃ!!! それを……それをこの男はぁぁぁぁ!!!」

「や、やめるニャ! やめてくれニャアァァァァァ!!」


 ボクの目の前で大切な友人が、もう二度と目を覚まさない唯一無二の親友が……憤怒といっていいくらい感情をむき出しにしてるガッファ王の足蹴に、され、て……。

 何度も……何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も!!!


 ――瞬間、頭の中で何かがキレた音がはっきりしたニャ。

 この男は、人を何だと思ってるニャ……カッフェーの死に様を! なんだと思ってるのニャ!


「『アイスランス』!」


 怒りに身体を滾らせて、力の限り魔法を発動させたニャ。


「邪魔するにゃあああ! 『ガンブレイズ』!」

「あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


 ボクの『アイスランス』は呆気なく破れてしまい、避けきれなかった『ガンブレイズ』がボクの肌を焼いてきたニャ。

 それでも……それでもボクはすぐさま行動に移すニャ。


 魔法がだめなら……ケットシーから教わった魔導しかないニャ!


 ――イメージ。眼前を焼き払う炎の槍。敵を貫く、鋭き一撃だニャ!


「『フラムランチェ』!」


 ボクは『フレイムランス』唱えるはずだったのに、自然と魔法が紡がれていったニャ。

 そして出てきたのは『フレイムランス』なんかよりもずっとずっと造形も立派で大きい、鋭い炎の槍。

 普段のボクが出している魔法なんかよりも数段優れた魔導がガッファ王に向かって放たれたニャ。


「なっ……!」


 ガッファ王のさっきまでの余裕そうな態度が一変する程の高火力の魔導。あまりの出来事にボクの怒りが吹き飛びそうなほどだったニャ。


「この程度……! 『ガンブレイズ』!」


 ガッファ王が再びその熱線の魔法を放ち、ボクの槍とぶつかりあったその瞬間、周囲に爆発が巻き起こり、ボクは思わず吹き飛びそうになったニャ。


「よくも木っ端の魔王が、このオレの邪魔をしてくれたにゃ!」


 爆発が収まったと同時にガッファ王はボクの方に突撃してきたニャ。

 それでもまだ距離があるニャ。魔導の発動に時間がかかるボクが、イメージして魔力を解き放つには十分な距離ニャ!


 ――イメージするのは雷の針。相手を痺れさせ、動きを奪い、自由を束縛するニャ!


「『ドンナーデル』!」


 ボクの繰り出した『サンダーニードル』の上位互換とも言えるような魔導――極太の雷針がガッファ王の周囲を円状にぐるりと包囲している。

 ボクがグリジャスの杖を思いっきり振り上げ、振り下ろしたのと同時にガッファ王に襲いかかっていったニャ。


「ちっ……『ラピッドガントルネ』! 『クイック』!」


 ガッファ王はどうやら前方に複数の雷線を展開して、『クイック』の加速で強引に突破する道を選択してきたニャ。

 これでも……これでも届かないのかニャ!


 自分の身体がいつも以上に重くなっていくのを感じるニャ。恐らく、魔導による魔力の使いすぎニャ。

 威力が底上げされる分魔力の消費が激しいニャ。

 それにいつも訓練している時よりも強く魔力を込めてるせいで、減り方が加速していくのが自分の中でもはっきりわかるニャ。


 もって後二回……いや、魔法を使いながらだったら後一回が限度かニャ。その間に勝負を決めるニャ!


「『クイック』!」


 ボクは一気にガッファ王に詰め寄り、グリジャスの杖の先端で斬りつけるように振り上げたニャ。


「……お前は馬鹿かにゃ? このオレに近接戦を挑むとは愚かなことにゃ! 『シュートソニック』!」

「なっ……! がふっ……」


 ボクが向かってくるのを予見していたかのように杖を構えていて、魔法名と共に胸部辺りにミシミシと音が聞こえてきそうな程の衝撃が襲いかかってきたニャ。


「かっ……くっ……」


 叫びたい気持ちを抑えて、ボクは離された距離を詰めようとするんだけど、近づけば『シュートソニック』。離れれば『ガン』系の魔法が飛んできて、どうにも攻めあぐねてしまうニャ。


 多分あれ以上の魔法を持ってるはずなのに、あくまで使う魔法を絞ってくるかニャ……なら、そのまま逝くといいニャ!


「『アースバインド』!」


 地面から拘束の鎖が伸びていくのを確認したボクは、もう一つの妨害魔法を展開する準備をしておくニャ。

 あまりこちらに魔力を回していたら、魔導が放てなくなるニャ……。

 この一回が勝負ニャ……!


「はっ! 邪魔くさい鎖だにゃ! こんなもんでオレの動きを封じられるわけないにゃ!!」


『アースバインド』を振り切ってボクに迫ってくるガッファ王の杖。

 ボクよりもずっと速くて鋭そうな一撃が左肩にめり込むように刺さっていくニャ。

 それに対し、ボクは彼の杖を掴んで、魔法を解放するニャ。


「『フラッシュアウト』!」

「くっ……おのれぇぇぇ……!」


 眩い光を放つ魔法をガッファ王にぶつけると、見事に直撃したようで目を抑えて完全に隙が出来てるようだったニャ。


 ここだニャ! ここに今ボクが持てる全てを注いだ一撃をぶつけてやるニャ!


「覚悟するニャ! ガッファ王!」

「オレを甘く……見るにゃあああああああ!!!」


 目眩まし状態で適当に武器を振り回してもなんとも怖くないニャ!

 カッフェーを侮辱したこと……後悔させてやるのニャ!


「ちょおおおっと、待つのかしにゃああああ!!!」


 兵士たちががちゃがちゃと武器を交え、魔法を飛ばしてる中、それでもボク達の方に向けて響く怒声のせいで思わず動きを止めてしまったのニャ。

 だけどそれはガッファ王も同じようで、視界が正常になってもボクの事を見ようともせず、声のする方向を見たいたニャ。


 その声の先には――エシカがぜーぜー息を切らせながらボクたちを睨んでいたニャ。

 ついでにファガトが呆れた表情でエシカを――ってなんでこの二人がここにいるニャ!?


「お前たちはなんにゃ? オレの邪魔をする気かにゃ?」


 いい加減にしろと言うかのように強い威圧感を宿したその目で二人を射抜いていたニャ。

 というかこの状況……ボクが本気になれば、いつでも最大火力の魔導をぶつけることが出来るはずなのに、まるで気にしていないというかのような素振りだニャ。


「いいえ、むしろガッファ王の手助けに来ましたかしにゃ」

「ほう、このオレの手助けだと? 面白い。いい度胸にゃ」


 愉快そうに話しているガッファ王の隣で、ボクは心の底から苦い表情を浮かべるのだったニャ。

 だって二人の後ろには――国内の守りを努めていたはずのレディクアとネアの横たわった姿があったからニャ。

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