第2話

 フラメンコのバイラオーラであったカルロッタが自らの所有するアンドロイド、ロベルタにフラメンコを踊らせたのは全くの気まぐれからであった。

 その日、カルロッタは自宅のレッスンルームで軽く身体を動かしていた。それは若い頃からの日課であり、バイラオーラを引退してからも欠かすことなく続けていた。

 ステージの上とは違う、何も気負うことなく踏み鳴らすステップは、しかしどこか物足りなさを感じる。そんな時だった。部屋の隅で控えていたロベルタに、同じように踊ってみるように言ってみた。最近購入したこの家庭用アンドロイドがどこまで人の動きを模倣できるのか試しに見てみたくなったのだ。

 結果として、ロベルタはカルロッタが考えていた以上にハイレベルの模倣を見せた。それもただ同じように動いているだけではない。所作の一つ一つに込められた、自分とは違うものを感じ取ることができた。

 それから、カルロッタは気が向いた時にロベルタにフラメンコの手ほどきをするようになった。

 それは、年齢を重ねて一人でいることを寂しいと感じるようになったカルロッタ自身への慰めなのかもしれなかった。

 ロベルタは優秀な生徒だった。アンドロイドだからと言ってしまえばそれまでなのだろうが、指摘した点はすぐに修正したし、めきめきと上達していった。

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