【改稿中】情熱の生まれるところ

石野二番

第1話

 ギタリスタがフラメンコギターをかき鳴らしている。カンタオール(歌い手)の歌声とバイラオーラ(踊り手)の踏むステップの音が場に響いている。

 観客席には多くのフラメンコの愛好家たちが座っていた。皆、バイラオーラのダンスに見入っている。その様子はまるで、彼女の踊る姿を目に焼き付けようとしているようだった。

 ギタリスタの演奏が終わり、バイラオーラは淑やかに一礼した。観客席から拍手が沸き起こる。それは彼女が舞台袖に消えてもなお続いた。

 その様子を観客席の隅で見ていた老齢の女性が傍らの初老の男性に話しかけた。

「ベニト博士、あの姿を見ても、あなたはまだ彼女の中に魂などないとおっしゃるの?」

 ベニト博士と呼ばれた男性は苦々しい表情で答えた。

「自分の仮説が覆される瞬間は、何度体験しても気持ちのいいものではないですね、カルロッタ」

 その言葉を聞いて女性、カルロッタは微笑む。

「では、お認めになるの?あの子には魂があると」

「まだ断定はできませんが、私としては、あるという前提で検証していくべきだと思っています」

 そこに先ほどまで舞台で踊っていたバイラオーラが歩いてきた。カルロッタは彼女に声をかける。

「お疲れ様ロベルタ。今日のダンスも素晴らしかったわ」

「ありがとうございます、先生」

 ロベルタは短く答える。その姿を無遠慮にまじまじと見てからベニトが言った。

「こうしてみると、他と変わりはないのに、何故このロベルタだけがあのように心に訴えかけるダンスが踊れるのか、不思議でしょうがない」

 その言葉にカルロッタが返す。

「だから言ったとおりです。ロベルタには魂があるのよ」

「これからそれを検証していきたいのです。このアンドロイドに、果たして本当に魂があるのか否かを」

 そのやり取りをメイド型アンドロイド、ロベルタは黙って聞いていた。

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