おはなし (2.エピローグ)
始業式が終わってから数日後。
あたしは自分の家でルピネさんと向き合っていた。
「あの犬猫は、ペットビジネスの成れの果てだ」
ため息とともに言葉を吐き出した。
「……ペットビジネス?」
「パピーミルと呼ぶんだが……高値で売りさばけるような人気の品種の犬猫などを悪辣な環境で育てるブリーダーが居てな。神秘が公になり、幽霊の存在も認められるようになった今では、それに触発されてか『泣き寝入り』しない動物が多くなった」
「いわゆる『化けて出る』ってやつ?」
恨みが未練になっていれば、動物たちが人間に逆襲することもあるのかも。
「肉体という殻がなく魂が剥き出しな幽霊は、人の意識に影響を受ける。『酷い扱いをした動物に逆襲される』……そう考えてもおかしくはないし、その想像に影響されて犬猫が蜂起してもおかしくはない」
嫌な話だ。
動物を虐げる人の気持ちがわからない。
「あの中年男性はその後処理に呼ばれ、持て余し……どこかから『どんな幽霊とでも契約が出来る巫女が居る』と聞いて紫織に押し付けたのだろう」
「押し付ける……住居侵入じゃないの」
「マンションの傍を通りかかるだけでいい。一匹でも紫織の気配を感じれば、それを追いかけていくだろうから」
「……」
「? どうした、佳奈子」
「ねえ、どうして紫織に教えないの?」
その情報は、紫織にこそ伝えるべきだ。
「…………」
ルピネさんが憂いに満ちた顔をする。
「紫織の情報を漏らしたのは、紫織の実家だ。……それにな。学校が始まってしまった今……紫織は前にもまして空想の世界に入り込むことが多くなって。刺激したくなかったんだ」
「どうしてあたしなの?」
「紫織にも伝えたんだ。だが、次第に会話が通じなくなってしまった。姉上に任せて、紫織のことを見てもらっている」
ため息をつく姿も絵になるような美女だ。
「魔術の界隈は、コネと名声が未だに根強く残っていてな。……師匠と弟子という関係になれば、『自分はこんなにも良い魔法使いを育てた』と胸を張りたがり……紫織を家名付きで引き取った私たちローザライマ家にも文句を言い始める始末だ」
「なんか、嫌な雰囲気ね」
紫織の事情を知ってまでそんなことを言うなんて。
「そうなんだ。今も、父が『黙らせましょうか?』というのをなんとか抑えているくらいで……父に任せては血しぶきが乱舞してしまう」
「…………」
苦労してるなあ、ルピネさん。
「お前に伝えたのは結末が尻切れトンボのままでは嫌だろうと思ったからであって他意はない。紫織にも根気よく伝えていく所存だ」
「あ、うん。……あたしにも、紫織に何かできることがあれば言ってね」
「ありがとう」
学校が始まっても紫織があたしの友達であることは変わらない。
コウと京も誘って、みんなでまた勉強会が出来たらいいな。
「学校はどうだ?」
「ぼちぼち」
京が話しかけてくるようになったこと以外、特に代わり映えはない。
「そうか」
「ルピネさんこそ、温泉楽しかった?」
彼女はローザライマ一家10人で旅館に宿泊したのだそうな。
「ああ。久しぶりにきょうだいが揃ったから、みんなで話せて嬉しかったよ」
「そ」
「佳奈子とも温泉に行きたいな」
「近くの銭湯ならいつでも」
「お前の祖母もよければ共に」
「うん」
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