compliment ―賛辞 (3.エピローグ)

 翰川先生は、森山くんのアパートと私のマンションを行ったり来たりしている。

 リーネア先生に留守を任された私のために、傍に居てくれる。

「先生。体調、大丈夫ですか?」

 彼女は自らの神秘:コードで体機能を補っている。ストレスや疲れでほころびが出てしまうと本人からも聞いたので、心配……

「あのな、京。キミがその質問をしたのは39回目だ。キミが思うより、僕のコードは堅牢だよ。何年生きていると思ってるんだ?」

 優しく笑う彼女。

 綺麗で、見ているこちらが照れてしまう。

「う……ご、ごめんなさい」

「心配してくれるのは嬉しいよ。信頼もしておくれ」

「はい」

「さて、夕食だな」

 料理上手な翰川先生は、リーネア先生のお姉さんが贈ってくれた鹿肉を焼いてステーキにしてくれた。

 細切れにされており、食べやすく美味しい。

「ふふふふ。今日明日はキミのおうちにお泊りだ」

「わ。OKもらったんですね」

 私は、トラウマのせいで、翰川先生のコードが不調になる万が一に対応できない。

 翰川先生はアリス先生の滞在する病院に通い詰めて検査を受け、お泊りの許可をもらってくれた。

「ありがとうございます!」

 大好きな憧れの女性が自分のために心を砕いてくれるなんて……

「どういたしまして。ミズリや光太には秘密の、2人きりの女子会だ」

「ですね」

 明日から土日休みだから、たくさんお話しできる!

「まあ、僕の年齢では女子どころではないがな」

「先生は女の子だと思います」

 ミズリさんのことになると恋する乙女で、興味のある科学やテクノロジーの話になれば夢見る少女。

 いつまでも魅力的な女性だ。

「…………んむう」

 赤い顔でもじもじする翰川先生は、とても可愛い。



  ――*――

 俺は、札幌の病院に拘束されていた。

「ヒマぁー……ねえ、アリス、キャラメルくれない?」

 ルピナスは『おっさきー』と東京に戻っていったし、リナリアも寛光大学の特別講義で東京。

 俺も帰ろうと思ったのに、アリスに呼び出しをくらって病室に縛り付けられた。

 比喩抜きで手錠でベッドに拘束されている。

「ちっ……ウイスキー飲むのやめろクソ妖精」

 吐き捨てるような調子で言うアリス。それでも悪竜特有の気品はかすまないのが凄い。

「クソだなんて。お父さんお母さんが聞いたら悲しむよ?」

「ほざけ親不孝者。子どもとは須らく幸せで健康であるべきだ」

「……」

 親不孝者というなら、確かに俺はど真ん中だ。

「不幸な悲劇など認めたくない。この世に生きるもの全て幸せならいいのに」

「心から願うキミが恐ろしい」

 俺の《瞳》で見ても、彼女に嘘は見受けられない。

 本当に恐ろしい女の子だ。

「うるさい。医学を志す者全てそう思っているべきだし、医学もそうあるべきだ。未来ではどんな者でも幸福にできるほど発達しているべきだ」

「医学と技術にかける期待が大き過ぎる」

「大きくて何が悪い」

 彼女は下手をするとひぞれより純粋。自らの持つ知識と技術で世界を切り拓いていく怪物。

 だからこそ、ひぞれと気が合うんだろうな。

「……そうだね。ごめんよ、アリス」

「ふん」

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