元魔王は過去に囚われる。
気が付けば私は両親とお姉様に囲まれ大きなテーブルで食事をしていた。
……何かがおかしい。
いや、何もかもがおかしい。
その感覚は確かにあるのに、何がおかしいのかが分からない。
「ロザリア、どうしたの?」
「あ……いえ、少し考え事を」
「家族揃っての食事の機会は限られているのですから楽しく食べないと勿体ないですよ?」
お姉様に窘められてしまった。
「そうね。ごめんなさい」
「はっはっは! よいよい。ロザリアも年ごろなのだがら悩みの一つや二つあるだろう」
「そうですよガーベラ。あまり口うるさく言っても仕方ありませんわ」
「……まったく、二人ともロザリアには甘いんだから……」
私のせいでガーベラお姉様に嫌な思いをさせてしまった。
「お父様、お母様、私が悪いんです。少しローズマリーの事を考えてました。すいません」
何故か自然とそんな言葉が出た。
ローズマリーというのは私が城の地下から拾ってきた卵から孵ったドラゴンの事だ。
「ローズマリーか。最初は危険があるかと思ったが随分と懐いているようじゃないか」
「はい♪ マリーはとっても可愛いんです! そのうち背中に乗って大空を飛べるようになるかもしれないですわ♪」
「はっはっは。そうかそうか、ならばその時を儂も楽しみに待つ事にしよう。しかし生き物の面倒を見るのは命を預かるという事、ローズマリーを生かすも殺すもお前次第なのだ。命という物の大事さをきちんと理解して大事に育てるのだぞ」
私はつい気持ちが高ぶってはしたない態度を取っていた事に気付く。
勢いで立ち上がってしまっていたのをガーベラお姉様がやれやれといった表情で見つめていた。
途端に恥ずかしくなって思わず赤くなった顔を手で覆う。
しかしお姉様にはその仕草の方がはしたなく映ったようだった。
「ロザリア、お父様とお母様が優しいからって自由すぎるのも考え物ですよ?」
「はい……分かってはいるんです。すいません」
「まったく……でも貴女が心の優しい子なのはちゃんと分っていますから。私の自慢の妹ですもの。……もう少し立ち振る舞いに気を付けてもらえたらもっといいんですけれどね」
お姉様はそう言って笑った。
私もお姉様に恥をかかせないように気を付けないと。
姉が私にちゃんと愛情を持って接してくれているのは伝わっているので、少々厳しい事を言われても気にならない。
私の為に言ってくれているのだと嬉しくなる。
だから私もその期待に応えられるようにしなければ。
私は毎日習い事や礼儀作法の勉強などに励んだ。たまに教えてくれる先生を困らせるような事もあったけれど、毎日充実した毎日を送っていた。
そんな日々を過ごしていると、私に異変が現れる。
記憶が繋がらない。気が付くと知らない場所に居たり、知らない物が部屋にあったり、習い事に出なかったのはなぜかと問い詰められたり。
私は夢遊病を疑ってお父様、お母様、お姉様全員に相談した。
すると、私が時々人が変わったようになる事があると言われる。
怖い……。私が私でなくなるようでとても恐ろしい。
皆は気にする事ない、とかきちんとしようとするあまり心の病にかかってしまったのだと言った。
確かにこうでなければいけない、こうなりたい、こうなるべきだ……そんなふうに考えて過ごしては居たけれど、心を病む程辛かった覚えは無いのに。
今の所大きな問題が起きていないのが救いだった。
お父様達は、ガーベラお姉様に私の様子を見ておくように頼んでいた。
また私はお姉様に迷惑をかけてしまう。こんなはずじゃなかったのに。
「お姉様……ごめんなさい。私、どうかしてしまったんですね……」
無意識に瞳に涙が溜まる。
「気にしなくていいんですよ。辛い時に支えるのが家族でしょう? それにほら、そんな顔をしていたらローズマリーも心配してしまいますわよ?」
お姉様が私の涙を指で拭い、ローズマリーは私にすり寄って見上げてくる。
そうだ、私がこんなままじゃダメ。もっと自分をしっかり管理できるようにならないと。
こんな病気、早く治してみんなに恩返しをするんだ。
……そう、誓った私の気持ちは、数日後にズタズタになった。
気が付けば私はお姉様の髪の毛を掴んで地面を引き摺っていた。
私の力でお姉様の身体を引き摺る事なんてできはしない。
私が掴んでいる髪の毛の先には、お姉様の頭部しか存在しなかった。
気が狂いそうだ。
いや、狂っているのだろう。
私は一体何をしているのだろうか。
泣きたくても。叫びたくても何も出来ない。
私にはそれをただ見つめている事しか出来ない。
私の意思とは無関係に動く私の身体は、そのままお父様とお母様の寝室へ向かい、まずお母様の首を絞めた。
やめてとどれだけ泣き叫んでも、それは声にならない。
お母様は今まで見た事が無いような恐ろしい形相で私の事を睨む。
やめて、そんな目で私を見ないで。違うの、私じゃないの。
その後、壁にかけられている剣を手に取り、何も知らずに眠り続けるお父様を布団の上から突き刺した。
じわりと赤く染まる布団。
苦悶の表情で何がおきたのか分からず困惑するお父様。
私はそれを何度も何度も布団越しに突き刺し、ケラケラと笑っていた。
何が楽しいんだ。
私の家族を奪って何が楽しいの。
やめてよ……私から大切な物を奪わないで……。
「何言ってるのよ。貴女はもっともっと酷い事をしたくせに。あはっ、あはははっ♪」
血塗れの私は、鏡に向かって私を笑う。
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