大賢者はとても忙しい。
「クワッカー! 現在の侵攻状況は!?」
「ちょっと待ってアシュリーちゃん! 確認しなきゃいけない場所が多すぎて目が足りないのよ!」
「だったらもっと人手を寄越せ!」
「無茶言わないでちょうだい! みんな出払っちゃってるわよ!」
「クワッカー様、魔物の群れがニーラク周辺まで迫っています」
ザラとクワッカーに各地に飛ばした偵察機からの情報を監視させているが、このままでは見落としが出てきてしまう。
勿論既に各地へ人員を送ってはいるが、不意打ちされる形になればそれだけ不利になるし相手の戦力次第で人員の移動も必要になってしまう。
私の裁量一つで守れる所と守れない所がはっきりと分かれてしまう……これは責任重大だぞ……。
このままでは本当に確認作業が追い付かない。
「王国内の手が余ってる奴! ラボまで来い! 今すぐにだ!」
国中に魔法で音声を拡散させる。
数分後にはそれなりの人数が集まった。
ステラやシリル、ジービルの嫁さんなどがそれにあたる。
肉喰いおばけは多分どっかで寝てる。
最初に指示を飛ばし、理解させるのが大変だったがすぐに対応して自ら情報を拾ってくれるようになったので非常に助かる。
やっぱり非戦闘員もきっちり役に立つじゃないか。……というよりはこの現状が猫の手も借りたいような状態なだけかもしれんが。
「魔物の部隊が新たに迫っている場所が分かったらすぐに私に言え!」
それを速やかに近隣に配属された奴等に伝えなければならない。
勿論各部隊にも戦況がまずい場合はすぐにこちらに連絡入れるように言ってある。
「敵の進行状況はどうなってる!?」
「ほとんどの魔物はユーフォリア内の各所に分散してるみたいよ! ロンシャンとニポポンにはほとんどいないわね」
「ほとんどって事は多少は居るんだろ? そういう方がまずいんだよ対応が遅れる。どこに居るのか具体的に分かってるなら各部隊へ連絡するから!」
クワッカーとザラに細かい場所を調べてもらいそれをロンシャンとニポポンへ行った部隊に伝える。
その中でも魔物の数が多そうなのはニポポンの西側。あのカエルとサクラコにはそちらへ向かってもらった。
「あっちは割いてる戦力が少ないから数でこられるとまずい。変動があればすぐに言う事!」
「かしこまりましたアシュリー様」
ザラもクワッカーのおかげで完全な下僕となっている為こういう時は頼もしい。
「あ、アシュリーさん! これを見て下さい!」
ステラの慌てた声を聞いてそちらを振り向けば、ある偵察機から投影された映像に大量の魔物が映りこんでいた。
「これはどの地域だ!?」
「えっと、えっと……ライデンの東の方です!」
ライデンへ向かうつもりなのか?
確かに少し量が多い。ライデンに行ってる部隊だけじゃ厳しいかもしれないな。
「アシュリーちゃん! ライデンに向かってる別の魔物も居るわよ!」
「なんだって?」
クワッカーの方を見ると確かに、東側より少ない物の魔物達が迫ってきている所だった。
「アシュリー様どうしますか!?」
「……東側には私が出る。すぐに帰るからそれまでクワッカーが指揮をとってくれ」
「分かったわ。でも本当に早く帰って来てちょうだいね」
私はその返事をする前に転移を発動していた。
「……なんだ? これはどうなってる……?」
どうやら東側から迫る魔物達と、戦っている者達が居る。王国民ではなさそうだ。
「クワッカー、聞こえるか? ライデン東、魔物と交戦中の一団有りだ。詳しく分かるか?」
クワッカーに通信を入れると、「……確かに戦ってるみたいね。その人達リザードよ」と少し驚いたように言った。
「もしかしたらそっち側にリザードの集落があったのかもしれないわ。そこは関与しなくていいんじゃないかしら?」
……どうする? 見た感じリザードは統率が取れていて戦力は申し分無さそうだが……いかんせん魔物の数が多すぎる。
「いや、撃ち漏らされても困るからな。私も参戦する」
「リザードが味方とは限らないわよ?」
「その時はそいつらごと、だ」
それで全く問題ない。
私は接近しつつ高火力の魔法を準備し、リザードの一団上空に居る飛ぶタイプの魔物達を一掃した。
確かに魔物一匹あたりの力は大したことない……か。
「どこのどなたか存じませんがお力添え感謝いたします!」
私にはリザードの顔を見分けるのが難しそうだったが、それでも私に声をかけてきた個体には見覚えがあった。
「……お前、デュクシと一緒に居た……」
どうやら彼はリザードの一団のリーダーのようだったので話を付けるにはちょうどいい。
目の前まで降り立つと、彼は不思議そうに言った。
「はて、デュクシ……というのは……?」
「ああ、お前らが言う所のハーミットだよ」
「!! ハーミット様のお知り合いでしたか!? これは失礼致しました。しかしそれならそのお力も納得がいくという物」
こいつはデュクシにかなり傾倒してるな。
「残念ながら今はそのハーミットと敵対する者だ。お前らも知っているだろう? 私の所属は魔物フレンズ王国という」
「……そう、でしたか。やはりあの神と名乗る男は……ハーミット様なのですね? 一体彼はどうしてしまったのです? 私どもを助けて下さった時はあのような……」
「話すと長くなるが質の悪い神だか悪魔だかに取りつかれておかしくなってるのさ。私達はそれをどうにかして本人を取り戻そうとしてる」
リザードはギョロっと目を見開き、その場にひざまづいた。
「ハーミット様を正気に戻すのが目的、という事でしたら我等は貴方達の力となりましょう。申し遅れました、私の名前はリッキューリオ。つい先日リザードの長を引き継いだ者です」
「長、か……それなら話は早い。私はアシュリー。まずはこの馬鹿みたいな大群を始末するぞ」
「承知!」
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