第五章:逃れられぬ過去。

魔王様と王都の復興。


 リンシャオがディレクシアに攻め込んで来た日から二週間。


 魔物フレンズ王国は国民総出でディレクシアの復興作業にあたった。


 特にメアの活躍はすさまじく、俺がメアだった時にも使った事のあるクリエイトを使い、建物自体をどんどん作り上げていった。


 まず幹部連中が瓦礫を片っ端から片付けて一か所に集めていく。

 その後に俺がその場を全て更地にして、その後メアが一軒一軒瓦礫を材料に家の形を作り上げていく。


 いくらメアといえど想像だけで家を作るなんて芸当は出来ない。

 それを埋め合わせてくれたのが、まさかのアレクだった。


 奴は元々ディレクシアの国民からの知名度も高く、元総騎士団長として信頼が厚い。

 非難していた民たちは変わり果てた王都を見て絶句し、その次は当然のように不満が噴出した。


 それは怒りであったり、嘆きであったり、憤りであったり絶望であったり。


 そこへかつての総騎士団長が現れ皆に声をかけた。


「親愛なる国民よ! 私は元王国騎士団、総騎士団長のアレクセイ・バンドリアです。今この国はかつてない程崩れ、まともな建物はほとんど残っておりません。しかし、私は安堵致しました。国にとって重要なのは建物ではなく民です。貴方がたが生きてさえいれば、後の事はこちらに任せてもらって構いません。ひと月とかからぬうちに以前のような暮らしが出来るようにしてみせましょう!」


 めりにゃんに音声を拡大、拡散してもらって発信したアレクの言葉は、生き残った人々に大きな希望を与えた。


 そして、世帯毎に今まで家があった場所、大体の間取りなどをアレクが全て聴取し、物凄い速さでそれぞれの家の設計図を仕立てていく。


 恐るべき手腕である。


 その設計図を基にメアが家をどんどん作っていく、という流れだ。

 そこはほぼメア任せになってしまっているのが申し訳ないが、あいつも「今は動いていないと余計な事を考えちゃうから……」と言って必死に働いてくれた。


 魔物フレンズ王国の民がディレクシアへ支援に来た時国民は大騒ぎであったが、それもアレクが「私が世話になっている国の方々です。何も心配はいりませんし、この国の王はあの鬼神セスティ殿ですよ」と説明してくれた事で驚くほどあっさり受け入れられた。


 事前にディレクシア王がある程度周知しておいてくれたおかげだろう。


 見た目が露骨に魔物な連中の事はやはり遠巻きに心配そうな視線を送ってくるがそれも一週間もすれば皆慣れてしまったようだ。


 特にホーシアなんかは子供達に大人気で、復航作業よりも子供達のストレス解消に付き合う事が仕事のようになっていた。

 ろぴねぇもマセたガキどものセクハラに耐えながらよくやってくれた。


 食料についても全面的にうちの国が支援し、それで足りない分はプルットに頼んで物資を調達してもらった。


 プルット自身も王国に貸しを作れると喜び勇んで支援をしてくれたので助かる。

 後の事は知らんけどな。


 これだけ大きな国ともなると国民の数も物凄い量だったので城の中には収まりきらなかったようだが、ナーリアの機転で城の脇のあたりから国の外まで通じる通路を掘ったらしい。



 そう、あの妙な武器で通路を掘ったと言っていたがなんだったんだありゃあ。


 簡単な説明は受けたが、サヴィちゃんとかいうのは俺にとってのメディファスみたいなもので、この世界が隔離される以前の、外の世界のテクノロジーだとかなんとか。


 その辺はよく理解出来ていないので後で詳しくアシュリーを挟んで説明してもらおう。


 とにかくその武器にはいろんなモード切替えがついているらしく。穴を掘りながらその内側をコーティングするなんていう器用な事も出来るらしい。

 まるで魔法だ。


 とにかくそのおかげで、足腰が不自由な人や高齢の人達を城にかくまい、それ以外は通路から国の外へ脱出していたらしい。


 ナーリアには今回かなり助けられてしまった。

 王国から支援要員を呼ぶ際にナーリアを追いかけてステラまで来てしまい、「ナーリア様を独占しようったってそうはいかねぇからな!」と謎の文句を吐かれた。


 ステラの姿を見つけたテロアはそりゃもう喜んで彼女を抱き上げ、「馬鹿兄貴離せっ!」と頭をボコボコ叩かれてたっけな。


 そう、余談だが避難していた民たちの中に紹介所の親父を見つけたので軽く挨拶してやったら、こっちに来いと物陰に連れていかれた。


 まさか嫁とうまくいってなくて俺にまで欲情したのかと一瞬警戒したが、そんな事は無く……なんというか、感謝された。


 助けてくれてありがとう、ではない。


「おいプリン! 本当に助かったぜ……実はちょっとドジっちまって変な奴に金借りちまってさ、もう少しで紹介所も何もかも全部搾り取られるところだったんだ」


 だとさ。

 しかし、今回の件でどうやらその悪徳金貸しが騒ぎに巻き込まれて死んだらしい。


 不謹慎この上ないが、親父は満面の笑みで、うっすら目に涙を溜めながら俺に感謝した。


「いつのまにか利息が膨れ上がっちまってよう……嫁にバレたらもう俺の人生は終わりだったぜ……紹介所も建て直してくれるっていうし俺からしたら万々歳ってやつよ!」


 あぁ、リンシャオよ。

 こんな所にお前に救われた人間が居たぞ。

 お前がこいつの人生を救ったんだ。

 良かったな。


 ……嬉しくねぇだろうけどよ。





――――――――――――――――



お読み下さりありがとうございます。

今回から新章突入です。

この章で物語上の重要キャラはセスティ、メア、アシュリー。

この三人でピンとくる方もいらっしゃるかもしれませんね。

物語も終盤戦です。いろいろな問題に決着をつける時が近付いてきました。

メアが自分の過去とどう向き合い、乗り越えていくのか。

見守って頂けると幸いです。

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