魔王様は藪蛇になる。


「どうだ? 何か分かりそうか?」


「ふむ……ちょっと待っておれ。明らかに魔力にて操作されておる。……ふむ、なるほど……実際に動かす動力は中の人間で、遠くから魔力にて操作をするという訳じゃな。非常に効率が良くて反吐が出るやり方じゃ」


 めりにゃんがかなり怒っている。

 魔族を束ねる王だった経緯があるからだろうか……こうやって人民を道具にしか考えないというやり方が気に入らないんだろう。


 それは有る意味当時のメアにも通じる物があるが。


「……む? これはどこから……? そんな、どういう事じゃ?」


 めりにゃんが目を閉じ、魔力が流れている方向を探りながら困惑している。


「どうした……?」


「待て……。もう少しで……やはりそうか、間違いない!」


 めりにゃんが魔力の繋がる先を突き止めた。さすが俺の嫁だぜ!


「セスティ……相手は、こやつらに命令を飛ばしている相手は……上じゃ」


「……なんだって?」


 俺達は今かなり地上から高い位置に居る。ここよりも上なんて……。


「めりにゃん、まさか……」


「そのまさかよ。相手はこの雲の向こう側じゃ」


 なるほどな……そう考えると人質もそこに居る可能性が高いな。

 俺達に見つかる事が無い場所を選んだつもりだろうがこっちには可愛くて凄い魔王の嫁が居るんだよ!


「でかしたぞめりにゃん! 愛してる!」


「あ、ああああ、あい……!? ば、ばかものっ! こんな時に何を言っておるんじゃお主はっ!」


「なんだよ。めりにゃんは俺の事愛してないのか?」


「な、なにを……」


『あだすは愛してるべ♪ この気持ちに嘘が無いから即答するべ!』


「お、おうありがとな」


 そうだった。今はチャコも一緒なんだった。


「待て、セスティ……今の声はなんじゃ。何者じゃ!?」


「俺がニポポンで見つけてきた荒神だってば」


「それはいい。それはいいのじゃがどうしてその荒神とやらに愛してるなどと言われる関係になっておるのかと聞いておるんじゃっ!」



 こ、これはまずい。思ったより大変な事になってしまった。


「ほ、ほら今はそれどころじゃ……」


『だーりんはあだすに一緒に居ようって言ってくれたんだべ! あだすの全てはだーりんに捧げたんだべよ!』


「だ、だーりんじゃとぉぉぉ!?」


 話をややこしくするな頼むから!!


「ほう……セスティはニポポンまで愛人を増やしに行ったというわけじゃな……」


「ち、違うんだめりにゃん、話せばわかる!」


『そうだべ! あんたが正妻だっていうなら側室の一人や二人増えた所で嫉妬したらダメだべよ? そういう所で愛の深さが分かるんじゃないべか?』


「くっ……ま、まぁ……儂が正妻じゃしな。お主のいう事も一理あろう」


 ナイスだチャコ! そもそも余計な事言わなきゃこんな展開になってないけどな!


「儂だって勿論セスティの事を、あ、愛しておるのじゃ……じゃから、その、じゃから……」


 俺はめりにゃんをそっと抱き寄せて、頭を撫でる。


「分ってる。俺にとって最優先はめりにゃんだから。それは信じてくれよ」


「な、なな……う、うむ……そういう事なら、信じてやらん事もないのじゃっ」


 せっかくめりにゃんが良い笑顔を見せてくれたというのに、こういう時に限って邪魔者は現れるものである。


「ちょっとアンタら何こんな時にいちゃついてるのよ! 少しは手伝いなさい!」


 首だけで声の方向を向くと、ぐったりしたメアが俺達を見つけて文句を言いに来たようだった。


「こいつら本当に面倒……あっちに中身結構転がってるから早めに回収してちょうだい」


「む、すまん。……じゃあセスティ、儂は儂のやるべき事をするのじゃ。だから上の事は頼んだのじゃ」


「おう、任せておけ。それに丁度いい具合に助っ人も来た事だしな」


 メアは不思議そうに首を傾げつつ、「助っ人? 何の事よ」とか言ってる。


「人質が居るかもしれない場所が分かった。今からそこを攻めるんだが、来るよな?」


「……!! えぇ、勿論!」


 めりにゃんに手を振り、メアについてくるように言って俺達は雲を突き破る。


 分厚い雲の向こう側へ出ると恐ろしく眩しい日差しが照り付け、一瞬視界を奪われた。


 ……が、次に目を開けた瞬間、俺達の視界は真っ黒な何かに埋め尽くされる。


「ちょっ、何よこれ!?」


「俺もまさかこんなものが空に浮いてるとは思ってなかったぜ……」


 それは漆黒の、空飛ぶ巨大な船だった。


 甲板らしき物は見当たらない。

 普通の船とは形がまるで違い、どちらかというとバカでかい長方形、という方がしっくりくる。


 そして……その船の先端がゆっくりとこちらを向いた。


 俺達がここへ来た事がバレているのだろう。

 しかし船の先端をこちらに向けて何をしようというのか……。


 ガパッと、先端の角ばった部分の装甲が左右に開き、赤く光り輝く。


 ……これって、もしかして……。


「メアっ! 障壁だ! 思い切り障壁を張れ!!」


「えっ、何!?」


「いいから早く!! お前の方が強い障壁を張れるだろうが!! 急げ!」


 メアが目の前に分厚い障壁を展開していき、念のため俺もその内側に張れるだけの障壁を展開。


 次の瞬間、王都の城を吹き飛ばした砲撃が至近距離で俺達を貫いた。

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