魔王様はよく分からない物を見せられる。


「さすがにそれは我慢してくれよ。こんな都合のいい物が偶然今ここにあるだけでも有難く思ってくれ」


『くっ……やむを得んか……しかし勘違いするなよ? 我がそこに入るからと言って我を自由に使役できるなどと……』


「そんな事思わねぇから安心しろって。力を貸すかどうかはその時の気分で決めてくれ」


 普段から暴れられても逆に困るかもしれないからな……。


『我が力を貸すのは星振りの民を滅ぼす時だけだ。いいな?』


「分かった分かった。それでいいよ。もともとその為の戦力を探してたんだからな」


 オロチはそれでも少し迷っているようでその多くの頭をあっち行ったりこっち行ったりさせながら『うーん』と唸っていたのだが……。



「往生際が悪い。はよ入れ」


 ショコラが頭の一本に飛び蹴りを入れ、無理矢理光る玉へ押し込んだ。


『こ、小娘ぇぇぇっ!! むっ……? これは……なんと、まさか……!』


 玉に頭を一本吸い込まれた状態でオロチがなにやら言ってる。


「どうした?」


『いや、この中は実に快適そうだ。もともと何を封じてあった物かは分からぬが、相当な広さ、相当な強度だぞ。これなら我が入ってもなんら問題なさそうだ』


 さすがアーティファクトと言ったところか。

 しかしこの言い方だと、このアーティファクト自体が何かを封じる為の物だった、という可能性が出て来たな。


 そして、何かが封印されていた、のかもしれない。


 今は空っぽのようだが……。ちょっと嫌な感じがする。


『では我はしばらくこの中で様子を見るとしよう。これは契約だ。我の気の向くまま、お前に力を貸す。その代わり我が存続する為の魔力を永続的に供給する事。いいな?』


「もともとそういう話だっただろ?」


『我々にとって契約とは重要な物なのだ。契約を交わす事で、その際の盟約を破る事は出来なくなる。つまりお前は我に魔力供給を辞める事は出来なくなったわけだ』


 ……なるほど。どういう理屈かは分からないが神様にもいろいろ制約があるって事だな。

 それを使う側にも。


 本来は使う側に有利な条件を出して従わせる物なんだろうが、それをしても仕方ないし俺は魔王だけれど世界の支配者になる気はない。



 仲間として動いてくれるうちはそれでいいさ。



『心せよ。そして必ずや星振りの民を滅ぼす。その時までお前の生き方を見物させてもらおう』


 そう言ってオロチはずるずるとその全身を玉の中へと滑らせていった。


 あの巨体がこんな小さい玉っころの中に吸い込まれていくのはなかなかに衝撃的だが、中の空間はかなり広いらしいので機嫌を損ねるような事はなさそうだ。


 そして、先ほどの契約という言葉を交わしてから俺の身体が少し重たくなったように感じる。


 それだけオロチに持っていかれている魔力量が大きいという事なのかもしれない。


 それでも俺と融合しているアーティファクトやこの身体が本来持っている桁外れの魔力量のおかげで問題無く活動できるが……。


 確かに普通の人間がこのリスクを背負ったら長くはもたないだろう。


 神憑りって奴がどの程度の負担になるのかは分からないが、いざという時はその力に頼らざるを得ない。


 そうなるかどうかは、俺達だけでどこまでやれるかにかかって来るからな。

 頼んだぞ?


『……無論』


 オロチっていうライバルが出来たからかメディファスも妙にやる気を出している。


 一応早めに魔剣クサナギの力の解析をしてお前がスムーズに使えるようにしておけよ?


『了解です』


 ふぅ……これで一応ニポポンでやるべき事も終わったかな?


「一度万事屋に帰って一休みしようか」


 俺はその場に居る全員に向き直り、そう伝えてこの洞窟を脱出した。


 井戸の出口まで戻るとゲコ美が覗き込んでいて、ぽたぽたと大粒の涙を井戸の中に落としてくる。


「あぁご無事で何よりです……! 大きな地響きなど聞こえて参りましたので心配しておりました……!」


「ゲコ美さん! あっしがゲコ美さんを置いて先に死ぬなどあり得やせんぜ」


「……はい! もう、私の前から消えたりしないで下さいね……?」


 さて、井戸から這い上がり、このよく分からない蛙劇場を見せられてるわけだけど、ここで言って置かなきゃならない事がある。


「おいゲッコウ。お前、ここに残っていいぞ」



「なっ、あっしは戦力外通告ですかい? そりゃ皆さんにくらべりゃ役に立たないかもしれやせんが……」


 思いのほか慌ててるな。そのぬめっとした肌に脂汗が浮いてる。


「そういう訳じゃねぇさ。ゲコ美とやっと再開できたんだろ? だったらお前は残った方がいいんじゃないか?」


「し、しかし……いや……そうかも……しれやせんね」


 ゲコ美はゲッコウの腕に引っ付いて離れないし、それを無理矢理引きはがしていくっていうのも悪いだろう。


「ゲコ美が王国に来るって言うなら一緒に帰ればいいけどよ。やる事があるんじゃないか?」



「はい……私は、おばあさんからここの管理を引き継いだので……ここを無人にする訳には……」


 ゲコ美はゲッコウと俺を交互に見ながら、申し訳なさそうに呟いた。


「ゲコ美さんが謝る事ではありやせん。大丈夫、これからはあっしがゲコ美さんを守りやす!」


「フロザエモン様!」

「ゲコ美さん!」


 二人は勢いよく、ひしっ!! と抱き合った。


 ほんとこれ誰に需要があるラブストーリーなんだよ……。

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