魔王様と気の荒い荒神。
「ひぃえぇぇぇぇぇっ!! おだっ、おだすげーっ!!」
『ふははは……随分騒がしい声がすると思えばどこぞの山奥に住んでいたタマヌキ妖怪ではないか』
「た、タマヌキじゃねぇべ……!!」
チャコが俺の身体にしがみ付いて恐怖に涙を流しながらそれだけは否定した。
妖怪って所は否定しないらしい。
ニポポンに住む妖怪っていうのはサクラコから話だけは聞いた事あるが、人間からしたら超常の存在は皆同じなのかもしれない。
どう呼ばれてきたかでその存在の名前が決まる。
神だったり、悪魔だったり、荒神だったり、妖怪だったり。
そういう事なんじゃないだろうか。
……なんて呑気に考えている場合ではないな。
「あんたがオオヘビ様ってやつかい? 随分と趣味の悪い入り口だったじゃねぇか」
『……貴様、人間……か? いや、違うな。妙な混ざり物がある。何者ぞ』
「俺の名前はセスティ。世の中じゃ鬼神セスティでそれなりに有名なんだ覚えときな」
自分から鬼神とか言ったの初めてかもしれん。少しでも迫力出す為に言ってみたものの、やっぱり恥ずかしいなこれ……。
『鬼神……? 鬼と言うより貴様からは……そうだ、懐かしい匂いがするぞ。懐かしくもにっくき匂いがな』
そりゃそうだろうな。アーティファクトはこいつらのいう所の星振りの民の作った物なんだから。
「どうでもいいけど姿くらい見せやがれ。どこにいやがる……?」
『なにを愚かな事を。既に目の前におるわ』
……目の前には壁しか見えないが……ふと、嫌な予感がして明かりを上に向け……。
「うげっ、デカすぎだろ……」
今俺達がいるこの部屋はかなり大きくくり抜かれた空洞になっていたのだが、オオヘビ様とやらの頭はその天井にびっしりとくっついて俺達を見下ろしていた。
「……オオヘビ様ってのは何匹も居るもんなのか……?」
俺の疑問に奴が答える前に、サクラコが大げさに反応した。
「お、オロチじゃねぇか!!」
『ほう? 今の世に我が名を知る者がいるとは思わなかったな』
「マジかよ……こりゃすげぇ……」
サクラコの様子を見る限りこいつはかなり有名どころの荒神のようだ。
どうやら複数居るのではなく、沢山の頭を持つ荒神らしい。よく見ると目の前のごつごつした壁は胴体で、そこから八つの首が伸びて天井に頭がひしめいていた。
ゲッコウに至っては完全に口半開きで固まってしまっている。
まさに蛇に睨まれた蛙というやつだろう。
『我が名は八岐大蛇……そこの混ざり物よ、ここへ来た理由を話す許可をやろう』
「ヤマタノオロチなんて名前の割には頭が八つで股が七つなんだな。ナナマタノオロチの間違いじゃねぇのか?」
『……なるほど、貴様わざわざここへ死にに来たと見える』
「ま、待つべ!! このお方は星振りの民を倒すための戦力を探しに来たんだべ!!」
『……星振りの、民……だとぉぉ!?』
ぞわりと、空気が一瞬にして重量を持つ。
ビリビリと大気が震えるような怒りの声に圧倒されてしまいそうだ。
こいつは、間違いなく俺が出会ってきた何よりも強い意志と殺意を兼ね備えている。
力量も疑うまでもないだろう。
俺が本気で戦っても……正直どうなるか分からない。
相手の能力次第では何日も戦い続けなければいけないような気さえする。
それほどの圧力が目の前の化け物にはあった。
「そ、そうだべ! この世界には……まだ星振りの民が一人存在していて、そいつが世界を滅茶苦茶にしようとしてるんだべ!」
『それを……信じろと言うのか?』
「んだ! だからあだすもだーりんに……この方についていくと決めたんだべさ!」
チャコはガタガタ震えながらも圧力に負けず、ヤマタノオロチに強い口調で言い聞かせる。
恐ろしい筈なのに。
『そこの混ざり物よ、それは本当か?』
「本当だべ!」
『うぬに聞いてはおらぬ!!』
「ひぃぃぃっ!!」
「チャコ、大丈夫だ。俺がこいつと話すよ」
俺の足をギリギリと握りつぶしそうな勢いでしがみ付いてるチャコの頭を優しく撫でてやると、少しは緊張が解けたのか足への圧迫が緩やかになった。
「俺達はアルプトラウムという神を倒そうとしている。そいつは俺の仲間の身体を乗っ取り……厳密にはちょっと違うが、とにかく俺の仲間を利用して世界を混沌に陥れようとしている。だが奴は強力で、今の所勝つ算段がついてないんだ。もしお前が星振りの民に対して思う所があるのなら、力を貸してくれないか?」
『ふふ……ふははは!! たかが人間が、星振りの民に抗おうというのか!? 笑わせてくれる。貴様らにはどうあがいても無理であろう』
耳が破けそうなほど空気を振動させながらヤマタノオロチはゲラゲラと笑った。
「だからこそ、だ。言っておくが俺達はお前が思っているよりは強いぜ? 今のままでもいい線はいけるつもりだ。だが決定打に欠けるのは確かでな。だからこの地に戦力を探しに来たんだ。まさかあんたみたいなのが今でも生き残っているとは思ってなかったけどな」
『……我等は、星振りの民には強い怨みを持っている。それは確かだ。やつらの好きにさせておくのは面白くない。だが、人間の手駒になるのはより一層面白くない』
八つの頭から、同時に強い殺意が俺に向けられたのを感じた。
やるしかないのか……?
『貴様が本気で星振りの民を屠るつもりならば、それだけの力がある事を証明してみせよ。我も全力でその力、見極めてやろう』
「そりゃあ分かりやすくて話が早いぜ」
『ふっ……面白い奴よ。口だけでは無いところを示せ!』
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