魔王様はその身を捧げる。
「いっでぇぇぇぇっ!!」
まさか一瞬で食いちぎられるとは思わなかった。
「おにぃちゃん大丈夫!?」
「いいからさっさと向こうへ行け!!」
俺の言葉に皆慌てて向こう側へ走る……が、どうやらスイッチを押している間だけ開く、というわけではないようだ。
俺も痛いのを我慢して扉の向こう側へ。
それでも扉は閉まらなかった。
要するに、あの蛇に腕一本くれてやらないと通れないっていうふざけた仕様らしい。
「だ、だだだだーりん腕が、腕がなくなっちまったべ!!」
あ、そうか……チャコは初めてだもんな。
「大丈夫、心配するなって。見てろよ……もうすぐ始まるから」
「おにぃちゃん、それを見てろって言うのは割とさでぃすてぃっくだと思う」
そういえばかなりグロいもんな……。
「チャコ、やっぱり見なくていいぞ」
ふしゅるしゅるしゅる……。
一瞬間に合わず、俺の腕の傷口からしゅるしゅると筋肉の筋が伸びて骨も再生し血管が作られて……あっという間に腕が元に戻った。
「ひ、ひぇぇぇぇ……だーりんの身体はどうなっとるんだべか……まるでトカゲの尻尾みてぇだなや……」
やっぱりちょっと怖がらせてしまった。というかトカゲの尻尾とか言われて軽く傷ついたんだけど……。
「まぁ、俺の身体はこんな感じですぐに元に戻るから心配しなくていいぜ」
「ほえーっ、だーりんすんげーんだなや……」
チャコはしきりにすんげーなすんげーなと言いながら復活した俺の腕を興味深そうに見ていた。
いくら治るとはいえ痛いもんは痛いけどな。
「おい、いちゃついてないでさっさと行くぞ」
サクラコはそんな俺達の事など気にせずどんどん先へ進んで行く。
お前が先に行ったって明かりが無いから見えないだろうよ。
「おいこっち来てみろよ。面白いもんがあるぜ」
「はいはい、っと……ん? おい、ちょっと待て……冗談だろ?」
「冗談じゃなさそうだぜ、ほれ、腕出せ腕」
マジかよ……。
サクラコが立ち止まっていた所には再びあの扉と蛇……。
もう一本腕をくれてやれと……?
「なぁチャコ、オオヘビ様って奴の事なにか知らないか?」
「んーオオヘビなんて奴いたべかなぁ?」
情報無しか……。
このまま何も分からずに腕を食わせるだけなんて……。
「ぎゃぁぁぁっ!」
仕方ないから食わせるしか無いんですけどね。
血をボタボタ垂らしながらドアの向こうへ。
というかこれあと何回あるんだよ……。
「おにぃちゃん、悪い知らせ」
……まじかよ。
扉はそこから更に六つあった。
「……うぅ……」
「おにぃちゃん大丈夫?」
「あ、あぁ……とにかく痛い。それに……ここがどういう場所なのかちょっと分かってきたぞ」
サクラコが不思議そうにこちらに振り向いて説明をしろという目をしてくる。
「つまりだな……婆さんやゲコ美がどういうふうに聞いてるのかは知らないが、大昔ここは荒神オオヘビに供物を捧げる為の場所だったんだろう」
「供物……? 生贄か?」
「だーりんの考えは正解かもしれないべ。荒神の中には人間を生贄としてその力を振るう者も多くいたべさ」
そう考えるとここは扉で腕を捧げる事で次へ進めるようになる。
或いは、捧げた者しか先へ進めない……?
そうやって神の力を借りたければ何人もの人間を捧げなければいけなかったのかもしれない。
どっちみちこんな事をしていた神様なんてろくなもんじゃなさそうだぞ……。
「なるほどなぁ。神とはいえ所詮は荒神、って事なのかもしれないな……お、また扉だぞ」
九枚目の扉……また腕を持っていかれるんだろうか。
そう覚悟していたが、どうやら今回は何もせずともいいらしい。
軽く押したら重い音を響かせて扉が開いた。
「あっ……ちょ、ちょっと待つべ! 今ここに来るまでに扉いくつあったべか!?」
「何を突然……扉の数がどうかしたのか?」
「どうかしたもなにも……もしかして扉は全部で八枚じゃなかったべか!? もしそうだったならば今すぐ引き返すべ! こっただところ来たらダメだべ!!」
「いやいや、ここの扉で九枚目だったろ確か」
「生贄を要求する扉が八枚って事だべ!? だったら早く帰るべ! だーりん、こんな力を借りられる訳がないべ!!」
どうした事だろう。チャコが涙目になって必死に俺の腕を引っ張り続ける。
「おい、分かるように説明してくれよ……」
ズズゥン!
「な、なんだ!?」
背後で急に大きな音が響いたので振り替えると、どうやら扉が閉まった音らしい。
「おいおい閉じ込められちまったぞ。たぬき! お前が考えてる相手だったとしたらそんなにヤバいのか?」
「たぬきじゃねーべ! そ、そんな事より、もしアイツだったらみんな食われて死んじまうべ! あいつは神とか人間とか関係ないんだべ! こんな奴の寝床だと知ってたらあだす外で待ってたべ……」
「おい、チャコ……俺も死ぬと思うか?」
「だ、だーりん……なんて意地悪な質問するんだべさ……でも、いくらだーりんでも……」
「ならお前の想像を軽く越えてやるから安心しろ」
「そ、そげな事言っても……だーりんは奴の事知らんから……」
「どんなやつか知らんがデカい蛇だろ? 俺が何とかしてやるって」
『ほほう……これまた大きく出たな他所者よ』
俺達が閉じ込められた空間に、重く強くオオヘビ様とやらの声が響き渡った。
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