魔王様とぶんぶくちゃがま。
階段を最下層まで降りると、そこは小さな小部屋になっていた。
長い事誰も来ていなかったらしくあちこちに埃が積もっている。
ショコラは遠慮なくあちこちをぺたぺた触りながら調べて行き、サクラコは慎重に辺りを見渡していく。
俺は、部屋の中央になる謎の物体が気になって仕方が無かったのだがどうして二人はこれをスルー出来るんだろう。
「なぁ二人とも。アレはなんだ?」
「あ? ……なんだ茶釜か」
「茶釜もしらないの?」
……??
ちゃがま? なんだそれ。
二人はさも当然のようにそれだけ言って、それ以上の説明をしてくれない。
こんな事ならゲッコウを無理矢理連れてくればよかった。
なんだかんだこいつらよりも話しやすい。
ちなみにゲッコウは万事屋に到着するちょっと前あたり……団子屋を出てから一時的に別行動をしている。
詳しくは聞いていないが何か確認したい事があるとの事で、一人で行ってしまった。
後程万事屋で合流予定なのでここが終わったら一度戻ってみるのもいいかもしれない。
……で、問題はそんな事じゃなくてだ。
「……茶釜ってなんだよ」
「はぁ? 今時のユーフォリア人は茶釜も知らねぇのかよ。茶釜っていうのはな、こういう形の……」
「あっ」
サクラコが俺に説明しながら、部屋の中央にある茶釜をべちんと叩いた。
そしたら声がした。
べちん。
「あっ」
べちんべちん。
「あっ、あっ……」
「うっげ……なんだこの茶釜喋りやがるぞ」
「師匠、離れて。こいついろんな意味で危ない奴かもしれない。叩かれて喜んでる」
……二人がざざっと茶釜から離れると、やがて茶釜はぷるぷると小刻みに震えだした。
少し可哀想。
「お前らいい加減にしろよ。こいつだって急に叩かれたら声くらい出るだろ……ショコラもすぐ変態扱いするんじゃねぇよ。もしかしたらこいつが荒神かもしれないんだから言葉には気をつけろよな」
「……た……」
ん? 何かまた聞こえた気がする。
「まともな人間が混ざってて良かった……!」
茶釜は急にばぼんと煙をあげ、姿を変えていく。
なんだか茶色くて丸っこい生き物に。
それはふわふわの気、そしてところどころに黒い模様が入っていて、動物っぽいナリをしているくせにニポポンのキモノのような服を着こんでいた。
「た、タマヌキだ!」
「どうみてもタマヌキ」
「タマヌキって言うでねぇ! あだすにタマなんてついてねぇべさ!」
二人がタマヌキと呼んだこいつは、小さくて短い手足とふわふわの尻尾をバタバタさせて猛抗議をしている。
「タマヌキってのはなんなんだ?」
俺が訪ねると、サクラコが「やれやれ……」とぼやきながらも教えてくれた。
タマヌキというのはこのニポポンに昔から生息する動物の名前らしい。
「それでな、ニポポンでは子宝の象徴とも言われて、とにかくデカいんだよ」
「……? いや、どう見てもこいつ小さいだろ?」
「違うんだよ。デカいのが身体の事じゃなくて……タマさ」
タマ……?
もう一度その小さな動物を見ると、顔を真っ赤にして小さな手で両眼を抑えていた。
「ひ、ひどいべ! レディに向かってタマがデカいとはあんまりだべさ!」
「なぁ二人とも。ほんとにこいつはそのタマヌキって奴なのか? タマがどうとか言ってたがどうみてもメスっぽいぞ」
「いやいや、タマヌキだってメスくらい居るしメスにはタマはついてねぇよ。その変わりメスはデカいんだ。乳がな」
「せ、セクハラだべ! 久しぶりに人間が来たと思ったらとんでもねぇ痴女が来よった……!」
「あぁん? 痴女とはなんだ痴女とは! このお喋りクソタマヌキが!」
サクラコは文句を言いながら小動物の足を掴み、逆さにぶら下げた。
「はっ、離すべ! 鍋にするのは勘弁してくんんろー!」
「おいサクラコ! 可哀想だろ離してやれよ」
ちゃんと会話が出来る生き物ならそんな酷い扱いしたら可哀想だし、ある意味貴重な情報源だ。
俺はサクラコからその小動物を奪い取り、胸元に抱えて視線を合わせる。
「ごめんな? こいつら野蛮だからさ。お前名前はなんていうんだ? 俺はセスティ。訳あってこんな外見だけど、男なんだ。よろしくな?」
「……お、とこ……? セスティ……わ、あだすチャコって言うべさ……」
「チャコだな? よっし、あいつらはほっといて俺と話そうぜ。チャコの事いろいろ聞かせてくれよ」
「……ぽっ」
とつぜんチャコの身体が再び茶釜みたいな形に変化し、ぷぴーっ!! と蒸気が噴き出すような音が鳴り響いた。
「うわっ、なんだなんだ? どうしたチャコ!」
「恥ずかしいべ恥ずかしいべ! こげさ綺麗な男見た事ない上にそんな優しく抱きしめられたら惚れてまうべ……!」
「な、なんだって? よく聞こえなかったぞ!?」
蒸気が噴き出す音が耳元にぶしゅーっと響いて声が聞き取りにくい。
「こいつ……いつもこうやって女をたらしこんでるのか?」
「そう。おにぃちゃんは人間だろうとけものだろうと見境ないおんなったらし」
……背後で囁かれる奴等の失礼な発言だけはきっちりと聞き取る事ができた。
後で覚えてやがれ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます