魔王様と、妹が恐れるサクラコ。
「ねぇ怒ってる?」
「怒ってるに決まってるでしょっ!?」
「ねぇ許して。今度はもっとうまくやるから」
「ショコラのそういう所がダメだって言ってるのよ私はっ! すぐに衝動的にセクハラをする癖をどうにかして!」
しかもこの子、力だけでどうにか出来る類じゃない方法でこっちの自由を奪ってくるから本当に相性が悪いというか始末が悪いというか……。
自分の血を媒介にした謎の薬とか、力が入らなくなる関節技とか、妙なスキルを山ほど持ってるから対肉弾戦ではきっと私ショコラに負ける。
一発でも当たれば勝てる自信あるけど、そもそも当てられる気がしないし逆に一度身体に触れられたら最後目も当てられない事になる。
「……本当にショコラが味方で良かったわ……」
「まったくだ。こいつに不意打ちされたらあたしでも歯が立たんからな」
サクラコの言葉はまるで、正面から戦えば勝てると言っているように聞こえる。
「師匠に手は出さない。後が怖い」
「そうだよなぁお前は人を喜ばすのも泣き叫ばれるのも大好きなひねくれ者だけど自分がそうなるとまったく免疫がないもんなぁ?」
「……っ! し、師匠……それ、言っちゃダメ……」
「顔真っ赤にして可愛い奴だぜ。その気になったらいつでもあたしの所にこいよ? ちゃんと可愛がってやるからな」
「それは絶対に無い」
恐ろしい物を目の当たりにしている。
私はショコラって対人、特に対女性相手なら無敵だと思ってた。
でも、そういう意味に限って言うのであればサクラコの方が上手……らしい。
「なんだ? 物欲しそうな顔してもお前はダメだぞ中身が男だからな」
「物欲しそうになんてしてないわよっ!」
「……あー、そうか。女の時もあるんだったな……それなら、割と……アリか?」
「無しですっ! これ以上そっちの人は要らないからっ!!」
ショコラだけで手一杯なのにサクラコまでちょっかい出してくるようになったら私は本当に、戻ってこれなくなっちゃいそう。
「だ、旦那……早く元に戻ってくだせぇ……居心地が悪くてたまらんのです」
蛙が申し訳なさそうに私の肩をちょんちょんと突いてそんな事を言ってきた。
「何よ私だって好きでこうなってるんじゃないんだからね!?」
「わ、分ってますぜ、そりゃもう……しかし、この状況で男があっしだけというのは気まずいというか」
「いっちょ前に蛙がハーレム気取りとか百万年早い。やっぱり土に埋めなきゃ……」
「ひぃっ、すいやせん許してくだせぇ……」
なんなのよこのメンツ……。
どう考えてもまともなのが私しかいないじゃん。
「プリン……今はメアか、あいつも面白い奴だったけどお前らも見てて飽きねぇなぁ」
サクラコが遠い目をしながら何か悟ったような顔をしてるけどやめて。
こっちは割と一生懸命だから。
「おっ、町が見えてきたぞ。ようこそエッドの町へ!」
サクラコの言葉に遠くを見れば、確かに建物が見える。
全体的に雰囲気が柔らかいというか、抽象的な言い方になるけれどとても居心地が良さそうな風が吹いている。
エッド……そこは町の周りに堀が作られていて、綺麗な水が流れていた。
人工的に川のようにしているようだった。
建物も私が知ってるのとは全然違って面白い。ひらべったい家が多い気がするけど二階とかはあまりないのかな?
人々の服装はキモノと言う物で、とても動きやすいとは思えないけれど、機能美以外の美しさって言う物があるんだろうね。
髪の毛は黒髪の人が多い印象だけど、サクラコが言うには最近はそうでもないらしい。
と言っても基本的には遺伝子が黒髪なんだけどいろんな物を使って髪の色を抜いたりしているらしい。
色んな事を考える人達がいるものである。
「懐かしいね。ユウ婆ちゃんの団子屋まだある?」
ショコラも久しぶりに帰ってきたニポポンが懐かしいらしくあちこちをキョロキョロ見回す。
「あぁ、あの店は今娘のチコがやってるよ」
「えっ、婆ちゃんもしかして……」
「死んでねぇぞ? 腰が痛いって言って引退しただけだ」
「……そっか。ならいい」
「万事屋に寄る前に団子でも食っていこうか」
「いいの?」
「いいも何もみんなにお土産で買ってくんだよ。そのついでにあたしらも食べてくだけさ」
「師匠……素直じゃない。でもありがと」
「ふん、素直じゃねぇのはお前だろうが。……でもさっきのありがとうは久しぶりにストレートな本心を聞いた気がするぜ」
「団子食べたかったから」
「実はあたしもだ」
そんなやり取りをしながら歩く二人は、今までで一番楽しそうな笑顔をしてた。
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