魔王様と人気者。
「いらっしゃい……あ、サクラコさん!? いつお戻りになられたんですか?」
「おう、今ちょうど帰って来たところだぜ」
「ずっと待ってたんですよ……? 私、寂しかったんだから……」
「お前には旦那が居るじゃねぇか」
「あんなの何の役にも立ちゃしませんよ。ねぇ、サクラコさん……今度は当分こっちに居るんでしょう?」
「うーんそれはどうかなぁ。一緒に居たいっていう人が沢山居ればそうなるかもしれないなぁ」
「もう、意地悪なんだから……でもそんな所が……」
……なにこれ?
「ショコラ、俺達は一体何を見せられているんだ?」
サクラコと団子屋の女将さんがイチャついてるのを見てたらスゥーっと冷静になった。
「いつもの事。それよりおにぃちゃん、早く食べないと団子無くなっちゃうよ」
「おいおい、沢山あったじゃねぇか」
ショコラが当時行きつけだったという店の団子は確かにうまかった。
俺も先ほど一本頂いた所だが、ショコラは既に六本ほど平らげている。
それでもまだ本数には余裕があったはずだが……。
「おい、なんでこんなに減ってるんだ。ショコラか?」
「私はこれが七本目。犯人は奴」
ショコラの視線を追いかけると少し離れた所でゲッコウが口をもごもごさせていた。
「あそこから、どうやって……?」
「おぞましい方法で団子を奪って行ったよ」
「妹君、その言い方はあんまりでさぁ、蛙にとってごく一般的な方法ですぜ?」
そう言いながらゲッコウはしゅるしゅると長い舌を伸ばして団子を巻き取る。
見事に団子は口の中へと吸い込まれていった。
「……俺の団子は?」
「おや、もう終わりでしたかい? そりゃ申し訳ねぇ。なにせここの団子は絶品ですんでね。食っとかにゃ損ってやつでさぁ」
じゃあ尚更食った事のねぇ俺に食わせるのが筋ってもんじゃねぇのかよ……。
「しょうがないなぁ。口開けて」
ショコラがそういうので言われた通りに口を開けると、すかさず俺の口の中に団子が一つ放り込まれた。
「むぐっ、むぅ……うまい」
「でしょ? おにぃちゃんにも気に入ってもらえて良かった」
……ちょっと待て。
「今お前どうやって俺の口の中に放り込んだ? だんご残って無かったじゃん」
「あったよ。最後の一串の、最後の一個が」
そうか、こいつ自分の食べてた団子を分けてくれたのか。
「ありがとうな」
「まだ口の中に残ってたからセーフだった。噛んじゃう前で良かったね」
俺は空いた口が塞がらなかった。
「何? もう一つほしいの? もうないよ?」
「いや、お前……一度口の中に入れた団子だったのか?」
「そうだけど。だって食べたかったんでしょ? だからあげたんだよ。美味しかったみたいで良かった」
俺はどう反応すべきなんだろう?
怒っていいのかな?
いや、いいよね。普通怒る所だよね?
「美少女が口に含んだ団子食べて喜ぶとか鬼神セスティもなかなかだな。鬼神と言えどこんな可愛い妹が居たらシスコンにもなるわな」
「サクラコ、ちょっと待ってくれ。勝手に俺に不名誉なレッテルを張らないで」
「……美味しいって言った。おにぃちゃん嘘ついたの?」
「いや、美味かったけど、そうじゃなくてだな……」
「やっぱり口の中に直接吹き入れたのが嫌だったのかな? 口移しの方がよかった?」
「そういう問題じゃねぇ!」
「ゲコッゲコッ」
うおぉぉぉこいつら疲れる……!!
最近俺は振り回されてばっかりな気がするんだが……俺の周りには強い女が多すぎる気がする。
めりにゃん、メア、ショコラ、アシュリーは言うまでもなく、サクラコもかなりの使い手だし……。
いや、この場合の強い、っていうのは気が強い女、手ごわい女という意味だからやはり一番の難敵はショコラなのかもしれない。サクラコはその点未知数。
俺はまだサクラコって人間をいまいち計りかねていた。
彼女はショコラの師匠で、ショコラ曰く自分よりも強い、との事。
確か以前そう言っていた。
それが戦闘力という意味なのかあっちの意味なのかは分からないけれど、要注意人物である事に変わりはないだろう。
ただ、間違いないのは俺に対して直接的な問題ばかり起こすのは間違いなくショコラだという事だ。
風呂の件だってこいつが大体悪い。
転移しなかった俺も、転移しなかったアシュリーも、いろんな偶然が重なった結果ではあったが、少なくともショコラが妙な気を起こさないでくれたらあの混乱は回避できたはずだ。
うん、俺は悪くない。多分。
「今夜は万事屋に居るからもしその気があったら来るといい。他の子達とかち合っても喧嘩しちゃダメだぞ?」
「もう、私は二人きりがいいって言ってるのに……」
「だったら当分難しいかもしれないな」
「意地悪……ちゃんと平等に愛してくれる? こんなおばさんでも……?」
「バカだな。こんな綺麗な女性を前に愛さずに居られる訳がないだろう?」
「サクラコったら……」
……。
「なぁ、ショコラ。やっぱり俺達は何を見せられてるんだろう」
「おにぃちゃん、多分ね、今夜万事屋には女の人が山ほど押しかけてくると思うよ」
それだけサクラコがこの町の住人からいろんな意味で愛されているという事なのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます