魔王様とサイコな妹。


「くっくっく……そりゃあ災難だったな。お前の中身が男じゃなけりゃあたしも一緒に入ってもっとややこしくしてやったのに」


「笑い事じゃないんだって……ショコラのせいで本当に大変だったんだよ」


「違う。あれはおにぃちゃんの本性がド変態だったせい」


「お前はもう少し兄の事を正しく理解してくれないか……?」                                あの後は本当に大変だった。

 まずステラが俺の姿を見つけて絶叫。

 その辺に有る物をなんでもかんでも投げつけてきて、と言っても桶とかタオルとかしかなかったが……。


 慌てて転移で逃げたものの、すぐにめりにゃんが俺の部屋に突入してきてそこから小一時間説教をくらった。


 一応事情を話して許してはもらえたけれど、その頃になってショコラとアシュリーが部屋にやってきてまた話をややこしくして、限界を突破しためりにゃんが泣きじゃくった挙句に俺ごと俺の部屋を吹っ飛ばした。


 他に犠牲者は居なかったからよかったようなものの、一時城内は騒然。大騒ぎとなってしまった。


 メアが居ないから即座に修復する事も出来ず、今頃肉体派の魔物達が一生懸命修復作業をしてくれている頃合いだろう。


 しかもショコラが適当な説明を周りにしやがったせいで俺が女性陣の風呂を覗いたせいだという事になっている。


 王国内に今俺の味方をしてくれる人がどれだけいるだろうか。


 その日は仕方なく無事な客間で寝て、翌日、俺は逃げるようにさっさと準備してサクラコとショコラ、そして蛙を連れニポポンへやってきた。


 とは言えど俺はニポポンに足を踏み入れた事はないので、まず記憶にあるロンシャンへ転移したのだが、やはり俺の転移は場所が定まらないのもあり、記憶が古かったことも相まってメア達がいるであろう街とは程遠い、何もない原っぱに出てしまった。


 そこからなんとなくで海が見える方向を探し、海辺についてからサクラコにニポポンの方角を教えてもらった。


 方角さえ分かればあとはなんとかなる。

 サクラコと蛙の手を取り、数キロ先の上空へ転移、海へ落下する前に再び数キロ先の上空へ転移。ちなみにこの時ショコラは俺の背中にへばりついていた。本人曰く、「こっちの方がいい」だそうだ。


 これを繰り返していくとやがて陸地が見えてきて、二人の指示により無事陸地に到着する事ができた。


 今はサクラコの万事屋があるという場所までのんびり徒歩で移動しつつ、先日のあらましを説明していた所である。


「しかしお前の転移ってめちゃくちゃ不便だな……普通こう、ひとっとびでこれるもんじゃないのか?」


「バカ言うなよ。この距離を転移する事自体普通の人間に出来る事じゃないんだぞ? そりゃめりにゃんとかアシュリーとかメアは出来るだろうけど……」


 そう考えるとあの王国には常識からズレた奴等が随分居るな……。


「それにロンシャンまでは一発で行けただろ? 転移ってのは普通行った事ある場所しかいけねぇんだって」


「へぇ。そういうもんなのか?」


 そりゃあ場所の正確な座標が分かれば行った事のない場所でもめりにゃんとかアシュリーとかメアは一発で転移できるだろうけどさ……。


 なんか俺悲しくなってきたぞ……?


「実はおにぃちゃんでも一発でここまで転移出来る方法はあった」


「ちょっと待てショコラ、それどういう意味だ?」


 突然ショコラが変な事を言い出したので問うと、思ってもみなかった返答が返ってくる。


「私が持ってる至宝は知ってるよね? 真実を映す短剣。見たい対象を映す鏡、そして、見たい物を見れるようにする勾玉」


「お前の持ってるその至宝って奴の効果の違いが全く分からんのだが。あたしには全部一緒に聞こえるぞ?」


 俺は黙っていたが、なるほどな……と、その効果を思い出す。


「今回短剣は役に立たないかな。でも鏡を使えばニポポンを見る事が出来る。どこにある、どんな場所なのかも」


「確かに行った事が無い場所でもそれで見る事が出来ればなんとなく方角とかそういうのは理解出来るかもしれんが……あたしにはよく分からんけどそれで転移できるようになるもんなのか?」


「で、こっちの勾玉を使うとそれを自分の視覚として認識できるようになる」


「……何?」


 つまり、分かりにくかったが勾玉の効果は見たい物を自分の眼で見れるようになる代物だ。


 俺はそれを知っている。


「忘れてた俺も悪いけどそういうのはもっと早く言ってくれよ……」


 いつぞやライゴスが守ろうとした少女、そしてその飼犬の件で俺はそれを経験している筈だった。


 まだ俺が魔王メアリー・ルーナとして動いていた頃の話だから記憶も若干混乱しているが、確かに覚えている。


 そうか、アレを使えば自分がニポポンを認識する事は出来るし転移も出来たと思う。


「別に私は急いでなかったし、おにぃちゃんがひーこら言いながら頑張ってニポポンを目指す様子を見てるのは楽しかったから」


「我が弟子ながらサディストの塊みたいな奴だな……」


「師匠には言われたくない。頑張る姿を見守りたいっていう愛だよ、愛」


 正確には頑張る姿ではなく困っている姿を、の間違いだろう?


 我が妹ながら歪みに歪んだサイコ女である。


 その様子をニヤニヤ見守っていた蛙の「ゲコッ」という湿った笑いが響いた。

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