魔王様とディレクシアの秘密。
「さて……レオナは休ませてきた。これで依頼は完了……だが、それで終わりって訳でもなさそうだな?」
「しかしなぜ儂が呼ばれたのかのう? 先ほどのレオナ、という輩の事は理解したし、セスティが単独行動した理由はメアを見れば分かるとして……」
「ああ、君を呼んだのは……今の魔王は二人で一人なのであろう? なら片方だけに話をするのはフェアではないからな」
「ふむ……まぁよいが……それにしてもメアよ、そんなに警戒せんでも取って食ったりせんわい」
メアはいろいろ気まずいのか俺の背後に隠れるようにしてめりにゃんに背を向けていた。
さらにそれに隠れるようにヒールニント。
「貴女達って本当にお人よしなのね……分ってはいたけれど……」
「メアさん、何事も諦めって肝心だと思います。私ももういろいろ考えるのを諦めました……」
ヒールニントはなんでそんな悟りの境地に達してるんだ。
「でだ、王様よ。レオナを無事にここに送り届けたはいいけど分からない事が沢山あるんだ」
「ふむ……? と言うと?」
俺は疑問に思った事を王様へぶつけた。
まず王都内で一度レオナを狙ってヒールニントがさらわれた事、つまり王都内に良からぬ事を考えている奴等が居るという事。
「それは分かり切っていた事であろう? だからお主達に頼んだ訳だからな」
「それがよう、レオナを狙っているのはそいつ等だけじゃないんだ」
「……それは複数から狙われているという事か? やりそうな奴に心当たりはいくつかあるが……」
それもあるが、そうじゃねぇんだ。
「まず最初に、王から依頼を受ける前にレオナは一度殺されかけている。妙な馬車に襲撃されたらしい。一命を取り留めたのはそこのヒールニントのおかげだからちゃんと礼を言ってやってくれよ」
「なんだと……? それは……ヒールニントと言ったな。礼を言わせてもらうぞ。感謝する。褒美は何がいい?」
「い、いえ私は……ここにいるメアさんが居なければ何もできないですから……」
「ふむ……どちらにせよ褒美は取らせる。後からでもいいので何なりと言うがよい」
「それは後にしてくれ。話が逸れたがそれだけじゃねぇんだ。王様は古都の民って知ってるか?」
王は眉間に皺を寄せて、「何故その名前が出てくる」と呟いた。
「何故も何もそいつらにも狙われてたんだレオナは」
「なんだと……? いや、まぁ……そういう事もあるか……」
ん? どうも反応がおかしいな。
「セスティよ。お主はこの国の成り立ちを知っているか?」
「随分話が飛んだな……おとぎ話程度の事しか知らんぞ? 初代ディレクシア王がこの一帯の魔物を討伐して……後は他にもいろいろ怪しげな話が……ちょっと待てよ。あんたまさかその話が本当だとでも言うんじゃないだろうな?」
「鋭いな。つまりはそういう事だよ」
なんて事だ。
初代ディレクシア王にまつわる伝承と言えば人間ではない、だとか神の使い、だとか。
それが本当だったとしたら。
「なんなのよ。早く言いなさい」
メアは痺れを切らしてイライラし始めてしまった。
でも、ヒールニントは伝承の類にもある程度詳しいようなので何か気付いたようだった。
「も、もしかして……初代のディレクシア王は……古都の民、だったのですか?」
王はその問いに答えず難しい顔をするだけだった。
以前その怪しげな噂の事を考えたはいつの事だったか。
確かデュクシやナーリアと出会って、この王都を旅立つ時だった気がする。
思えば遠くに来ちまったもんだよな。デュクシよ……。
「確かに初代ディレクシア王が古都の民だったって言うんなら数々の人間離れした逸話や、この国にアーティファクトが有った事も合理的な説明がつく」
「私もそれらが本当だとは思っていなかった。自分の先祖の話とはいえ、簡単に信じられるような話では無いし噂や偉大に見せる為の作り話だと思っていたよ。たった今まではな」
「……そこで古都の民がレオナを狙ってるって話が出て来たから信憑性が出て来た訳だな」
「うむ……。確証は持てないがな、アーティファクトについても出自が分からない代物だったのだ。初代が持っていたとして、古都の民であったというのならば……説明がついてしまうな」
王も自分が人間ではない存在の血を引いている可能性が出てきて複雑なようだ。
「もしそれが事実だとすると……古都の民がレオナを狙った理由は……仲間にする為か、或いは……裏切り者の血筋を絶やす為か」
初代ディレクシア王が古都の民を裏切ったという可能性も確かにあるだろう。
わざわざ単独で防御用のアーティファクトを持ちだしこんな場所に人間の国を作ったわけだからな……。
「俺はもう一つの可能性の方じゃない事を祈るぜ」
「まさか、それはさすがに……いや、無いとは言い切れないのだろうな。全てはその時から始まっていた、というのだろう?」
そう。
もし古都の民が人間を先導しここに国を作った事自体が最初から仕組まれていた事だったとしたら。
いつか古都の民がこの地上を蹂躙する時の為に人の中に紛れ込ませていたスパイだった可能性もある。
「万が一古都の民の仕組んだ事だったのだとしたら、その策略は失敗と言わざるを得ないな。何せ私にその自覚が無いのだから」
「だからこそ、若いレオナのような存在を必要とした可能性があるぜ? あいつは古都の民に襲われたのではなく捕らえられたんだからな。それに……古都の民は五体満足な奴が居ないんだ」
「捕らえられた……? では古都の民からレオナを取り返してくれたという事か!? ならばそこへ攻め込む準備をせねば。放置するには危険すぎる」
そっか、それを言い忘れてた。
「それなんだけどな、古都の民が潜伏していた地下街はもうぶっ潰してきた」
「……えぇー?」
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