聖女様は拉致られる。
「それで? そのレオナがどこに居るかは分かってるのかしら?」
「ああ、勿論。アーティファクトで場所は調べてあるからな。確か王都の外れにある二階建ての建物の中だったか」
王都の外れ、二階建ての建物……?
宿屋とかかとも思ったけれど、それならもっと中心地にある筈だから……。
「まぁいいわ。早く案内して頂戴」
私達はセスティ様の案内で王都内を行き、目的の場所まで到着。
「あの、これは酒場……でしょうか?」
「そうみたいだな。この中に居る筈だ。今の彼女の外見を知ってるのはあんたらだけだから宜しく頼むぞ」
「はい!」
「はいはい」
期待されたなら頑張らなくては。
私がセスティ様と行動を共にしてるなんてハーミット様が知ったらどう思うかな?
ずるいって思われる?
それとも……。
そんな事を考えているうちにメアさんがさっさと酒場へ入って行ってしまったので慌てておいかける。
「いらっしゃい。……おやおや、美女三人組とは珍しいね。隅のテーブルが空いてるよ」
気さくなマスターがにこやかに話しかけてきてくれたので私はお辞儀をして丁寧に感謝を伝えているというのにメアさんときたらそんな事完全に無視でお客さんを物色し始めた。
「……居ないじゃない」
「えっ?」
私も遅ればせながら飲んでる人達を一人一人眺めてみるけれど、確かにあの時メアさんが変化させた顔の女性はここには居なかった。
「ねぇ、ここは二階もあるんでしょ?」
「へい。ここは一応安い民宿も兼ねてるんでね、二階は客室ですが……それがどうかしましたか?」
セスティ様がマスターに「宿泊客に女性一人の客はいるか?」と確認を取る。
個人情報を簡単に喋っちゃダメだろうし教えてもらえないんじゃ……。
「ああ、一人居たけど少し前に出て行ったよ。探し人かい?」
うーん。王都と言えど外れの方にくるとこんな物なんだろうか。
お客さんたちも心なしかガラの悪そうな人たちが多いし。
「ちょっと、もう移動しちゃってんじゃないの?」
「かもしれん。ここを出たら確認しよう。さすがにここで使う訳にはいかないからな」
そう言ってセスティ様は、何も頼まなかったお詫びと言ってマスターにお金を渡していた。
私は見逃さなかった。
結構な大金だったぞ今のは!
マスターは大喜びしてる。セスティ様は何事も無かったかのように出て行くし、この人の金銭感覚どうなってるの?
やっぱり一国の王ともなるとお金は沢山あるって事?
再びマスターにお辞儀をして外へ出ると、二人はもう建物の隙間にある細い路地へ入って行くところだった。
「お、置いて行かないで下さいよ~っ!」
こんな所で一人にされたら心ぼそむぐっ。
え、嘘でしょ?
まだこんなに明るいのに。ここは王都なのに。
王都に悪人は居ないと教えられてきたのは嘘だったの? 治安がとてもいい事で有名だったはずなのになぁ。。
私は後ろから何者かに羽交い絞めにされ、手足をしばられた挙句目隠しされて口に布の塊を突っ込まれて連行された。
どこに?
知らないよそんなの……。
ただ、私が暴れないようにするためなのかお腹を思いっきり殴られて泣きそうになった。
何か布を身体に被せられて、担がれて運ばれているような気がする。
声を出そうにもお腹が痛くて小さいうめき声しか出せない。
もう、私のボディーガードは何をやってるの!?
しばらくして、ガラガラっとどこかの建物に入って、私は乱暴に放り投げられた。
「どうしよう……本当はこっちじゃないんだよなぁ……」
私をさらった相手が何やら呟いている。
知らず知らずのうちに独り言を言ってしまうのは自分を落ち着ける為だったり、混乱していたりする場合が多いらしいけど、今回はどっちだろうね。
「……首尾はどうだ?」
もう一人入ってきた。こっちは落ち着いた声をしてる。
「そ、そそそれが……目的の女はすぐ近くに違う奴が居て無理だったんだよ! でもこいつはあいつの仲間だからこいつを使っておびき出せば……!」
「バカ野郎。失敗しやがったのか……? しかしあの場では急だったからな。関係者を拉致れただけでも良しとするか。どれ、ツラを拝んでやろうじゃないか」
冷静な声の男が私に被せられてた袋を開け、私の目隠しを取った。
「もごもごっ!」
「あぁ、口に詰め物されてるのか。いいか、騒いだら殺す。分かったらそれを取ってやろう」
私はとりあえず頷いた。
男は私の涎でべちゃべちゃになった布を私の口から取り出し、その辺に投げ捨てる。
「……こんな事をして無事で済むと……」
「そういうお約束はいいんだ。それより、お前と一緒に居た女の事を聞かせろ」
顔に見覚えがある。
おそらく酒場に居た客の一人だ。
きっとこの人の命令で、さっきの頼りない感じの方がメアさん……つまりレオナさんをさらおうとした。
「どっちの事ですか? レオナさん? それとも……」
私は目の前の男の目を睨みながら告げる。
「鬼神、セスティ様の方ですか?」
男の顔が青くなるのと、建物のドアが蹴破られるのはほとんど同時だった。
「そいつに手を出そうとした事、たっぷり後悔させてやるよ」
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