聖女様はビンタしようと決意する。


「おい! 大丈夫か!?」

「ヒールニント! 目を覚まして!」


 何が起きたんだろう。私はいつの間にか意識を失っていたらしい。


 ドアが蹴破られた所までは記憶にあるんだけど、セスティ様達が助けに来てくれたのなら、どうして私は意識を失って……?


「ひっ!!」


 私が鈍い頭痛に頭を二~三度振って、部屋の中を確認すると……。


 細切れにされた肉片がそこら中に転がっていた。


「こ、ここ……これ、お二人が……?」


 確かに守ってほしいし助けてほしかったけど、ここまでする事……。


「違うわ。私達がここに来た時にはもうこうなってたの」


 メアさんは何事も無いように涼しい顔をしてそう言った。


 ダメだ、仮にメアさんは自分がやってたとしても何事もないかのように話せるタイプの人だから当てにならない。


「セスティ様……」


「残念だが、本当だよ。まさかレオナじゃなく君が狙われるとは思わなかった。どこか怪我したり、酷い目にあわされたりはしてないか?」


「はい……私は大丈夫です」


 ……でも、だったらいったい誰が……?


 ふと、ドアが破られた時に聞こえた言葉を思い出した。


 そうだ。

 あれはセスティ様やメアさんの声じゃなかった。


 もっと、聞き覚えのある……。


「どうして……? どうしてなんですか……? 私には、貴方が何をしたいのか分かりません……」


「ねぇ、大丈夫? やっぱり頭とか打ってるんじゃないの?」


 やっぱり、直接理由を聞かなきゃ納得なんてできない。


「大丈夫ですよメアさん……ちょっと気になる事があって……」


「これをやった奴に心当たりでもあったのか?」



 さすがセスティ様は鋭いなぁ。


「多分、ですけど……これ、ハーミット様だと思います」


「なんだって? これを……デュクシが……? そんな、はずは……」


 セスティ様は何か、とてもショックを受けたようなそぶりで改めてこの惨劇を見渡した。


「セスティ様が亡くなったと思っていた間、ハーミット様は……本当に大変な思いをし続けてきました。私を助けてくれたのにどうして姿を消してしまったのかは分かりませんが、これをやったのが彼でも私は驚きません」


「……デュクシ……」


 セスティ様は奥歯を噛みしめるように、眉間に深い皺を刻みながら小さく呟いた。


「……あの馬鹿野郎が」


 私はセスティ様と一緒に居た頃のハーミット様を知らないから、どんな複雑な思いを抱えているのかは分からないけれど、怒りにも似た悲しみがその瞳に映っているような気がした。


「まぁいい。デュクシは検索に引っかからないからな……あいつも面倒な事になってるのかもしれないが……まずやれる事からやっていこう」


「そいつの事はよく分からないけれど……もしかして髪の毛赤茶な剣士の坊やの事かしら?」



「メアさんもハーミット様を知ってるんですか?」


「知ってるも何もあいつがよく分からない事をやらかしたせいで私は死ぬところだったのよ」


「あぁ、そういやそうだったな。結局あの時はアルプトラウムが防いだんだろう? 俺はアレ以降デュクシに会ってないからな……」


 全然状況が分からない。

 だけど、やっぱりハーミット様とセスティ様が戦った魔王っていうのはこのメアさんの事みたい……。


 今はいろいろ和解したみたいだけど、ハーミット様だけが取り残されてしまったんだ。

 それはきっととても悪い偶然が重なって起きた事なんだろう。


 それとも……そうなるように仕組んだ何者かがいるのだろうか。


「ところでさっき話に出ていたアル……えっと、アルプ?」


「アルプトラウムの事かしら? この世の全てが自分の手駒って考えてる快楽主義者の神様よ」


 ……神様。


 私がいつも祈りを捧げている神様……?


 私はどうしても気になってそのアルプトラウムって人の事をよく聞いてみたんだけど、どうやら本当に神様らしい。


 昔はローゼリアの地下に封印されていて、それをメアさんが開放しちゃった事からいろいろ始まったんだって。


 セスティ様の身体がこんな事になってるのもその神様のせいらしい。


 とにかく性格が歪んでいて、手駒を使って楽しくなりそうな演出をしていく。

 神の掌の上で、神が楽しむ為だけの演目を演じ続ける……それが私達。


 そういう事らしい。


 なんか腹立ってきた。

 ハーミット様もそいつのせいで人生を狂わされたのかもしれない。


 いや、きっとそうだ。

 だって話を聞く限り、メアさんと戦ったあと、セスティさんもメアさんも記憶を奪われてお互い身体が入れ替えられていたらしい。


 そのせいでいろいろと大変な事になったりしていたらしいから、ハーミット様がセスティ様が生きてるって情報を知らなくても不思議じゃない。


 なにせセスティ様側からしたら仲間の事なんて覚えていなかったし、その当時自分が魔王だと思ってたんだから。


 でもそう考えると当時のセスティ様の仲間達がほとんど集まっているという話は不自然に感じる。


 だからこそ、私は神の関与を疑ってしまうのだ。


 これも全部神の仕業?

 今のこの状況も……すべて神に仕組まれた事なんだろうか。


 私の信じて来たものってなんだったんだろう。

 勿論私が勝手に神を信じてただけだし、完全に自己責任なんだとは思うけれど……。


 だとしてもそんな神様、一回ビンタでもしなきゃ気が済まないじゃない。

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