聖女様と泣き虫な悪人。


「……私が、貴女と?」


「はい♪」


「本気で言ってる? なんのメリットがあるの?」


 この人がいうメリットっていうのはどっちの事だろう?


 私にとって? それともメアさんにとって?


「お互いにメリットあると思いますよ?」


「そこを詳しく教えてくれるかしら」


 メアさんは不思議そうに聞いてくるけれど、それは内容次第ではOKって事だ。


「簡単です。私は元魔王のボディーガードが出来る。貴女はちゃんと食事がとれる。どうです?」


 何日もご飯食べてないって言ってたくらいだから自分で料理とか出来ないんだろうし、もしかしたらお金も持ってないのかもしれない。


 だとしたら……。


「そ、それは……なかなか悪くない話ね」


 きた♪ 元魔王がボディーガードとか最強すぎるよね!? いろいろ不安もあるけど悪い人じゃなさそうだし……少なくとも今は。


「じゃあ決まりって事でいいですか?」


「……いいわ。じゃあ私に定期的に食事をちょうだい。それで貴女の命を守ってあげる」


「やったーっ!!」


 私がつい両手をあげて叫ぶと、メアさんがビクっと一瞬うっすら飛び上がった。


 なんだかちょっと可愛い。


「な、なによそんなに喜ぶような事?」


「私、人探ししてるんですけど、いろいろあって一人で飛び出してきちゃったから不安だったんです。旅の仲間が出来て嬉しくって」


「仲間……?」


「はい♪ 一緒にこれから旅をする仲間です♪ ……もしかして傭兵と雇用主、みたいな関係の方がよかったですか?」


 そういうのも有りだとは思うけど、ちょっと壁があって寂しいというか……。


「ううん、私が失ったと思った物だったからね。ちょっと不思議な気持ち……こんなにすぐ私に仲間が出来るなんて」


 そう言って笑うメアさんは、相変わらず少し寂しそうだった。


 きっと元の仲間達の所に戻りたいんだろう。

 だけど戻れなくて……それだけ抱えてる問題が大きいのかもしれない。


「メアさん、私と一緒に居る間は、過去がどうこうとか忘れて下さいね」


「どうして……?」


「私は今木陰で仲良くなったメアさんっていう人と一緒に旅をしたいんです♪ 元魔王とかどうでもいいかなって」


「……あははっ。本当に変な子。でも……ありがとう。貴女とはうまくやれそうよ。……それで、まずはどこを目指すの?」


 うーん。それが問題なんだよなぁ。


「今の所行く当てがなくて困ってたんですよ。勇者様の噂を辿って行けばいつか追いつけるかなって思っているんですけど」


「ふむ……じゃあまずはいろいろ街とか回って情報の聞き込みとかする?」


 私もそれが一番手っ取り早いと思うんだよね。

 問題はどこから行くかって事と、どうやって行くかって事なんだけど……。


「特に行く当てが無いならまずはライデンでも行ってみる? 私も少しだけ用があるし」


 メアさんは何かを思いついたようにパァっと明るくなった。

 笑顔がすっごく可愛い。


「ライデンって……この近くなんですか? どのくらいかかります?」


「ライデンはこの大陸の北の先っぽあたりかしら?」


「……は? え? 大陸の北?? そんなのいったい何日かかるか」


「とりあえず行ってみましょうよ♪ ほら、手を出して」


 彼女は私の手を取って……。

 私は、とりあえず近場から調べていきませんか? と言おうと思ったのに。


 次の瞬間、とても騒がしい街の中に居た。


「……転移、魔法?」


「ええ、ここがライデンよ。ここにはいろいろこの街の事情に詳しい人が居るから、今から会いに行きましょ? もしかしたらいい話が聞けるかもしれないから」


 突然でびくりしたけど、この人やっぱりすごい。


「……あ、はい。案内よろしくお願いしますわ」



 メアさんの案内についていく形で賑やかを通り越して騒がしい街の中を進む。


 やがて、だんだんとメアさんの足取りがゆっくりになって行き、その表情が曇り出す。


 もしかして道に迷ったとか……?


「ご、ごめんなさい。勢いでここにきちゃったけれど……やっぱりここは……」


「あれー!? プリン? プリンじゃないか♪」


 メアさんが、ある建物の前で立ち止まった時、その建物の中から一人の綺麗な女性が出てきて彼女をプリンと呼んだ。


 ……プリン……?


「あ……ユリさん」


「プリンがまた来てくれるとは思わなかったよ! ……って、あー。今はプリンじゃないんだったっけ?」


「ど、どうしてそれを……? もしかしてあいつがここに?」


 よく事情が分からないけど、以前にもメアさんはここに来た事があって、その時にはプリンって名乗ってたみたい。


「まぁまぁ、詳しい話は中で聞くからさ、入って行きなよ女将さんもきっと喜ぶよ」


 そう言ってユリと呼ばれたお姉さんはメアさんの手を取り、建物の中へ引き摺っていく。


「ちょ、ちょっと待って。今の私が会っても……」


「なんだい騒がしいねぇ? って……ありゃあ随分珍しいお客さんじゃないか」


 彼女が困っていると、建物の中からなんだか派手なおばさまが現れて、一瞬とても驚いた顔をしたけれど、とても優しく笑った。


「あ、あの……私は……」


「言っただろ? 何があったってあんたは私の娘さね……とにかく、……おかえりなさい」


「……ま、ママぁ……っ!!」


 メアさんが大粒の涙をぼろぼろと地面に振りまきながら、おばさまの胸に飛び込んでいく。



 ……魔王、のママ?


 私、なんていうか今物凄い光景を見てるんじゃないだろうか?


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