姫魔王と新妻と愛人一号。


「なんやせっかく二人だけで行かせてやったっちゅうんに結局他の連中連れていきおったんか?」


「すまんのうロピア。気を使ってもらったのに。でもいろいろ大変だったんじゃよ」


 俺達がナラン行きの準備をしているとろぴねぇがやってきて、アシュリーとショコラが一緒に帰って来た時の事を愚痴り出した。


「めんどくせぇ敵が出て来たらしくてな。正直あの二人が居なかったら危なかったかもしれないぜ? 俺は俺で虫に囲まれるし足溶けるし……」


「……古都の民、とか言っておったか……」


 古都の民……。めりにゃんに聞いた話では大昔に栄えていた帝国の住人で、神の使いだとかなんとか。


「なんだっけ? エステバリス?」


「おしいが違うのじゃ……フェイテバリスじゃよ。フェイテバリス帝国。奴らが言う古都、というのはそこの事なんじゃろうな」


 帝国なのに古都。

 もう滅んでしまった都だから?

 わざわざ自分らで自分の故郷を古都と呼ぶのはどういう心境なんだろうね。

 末裔ってだけで本人ではないんだったか? よく分からないけれどろくでもない事を考えてる奴等がいるってのだけは間違いない。


「なんや面倒な事になってきとるんやなぁ……でも次は普通の街なんやろ?」


「その予定だよ。ぜひ何事も無い事を願うね」


「だったらうちも連れてってぇな。そろそろお留守番も退屈やし」


 ろぴねぇが一緒に行くのは別に構わないが、それにはいろいろと問題が生じるんだよなぁ。


 チラリとめりにゃんを見ると、「いいのではないか?」とさらっとした返事が返ってくる。


 めりにゃんがそれでいいのなら構わないか。


「でもろぴねぇ。さすがにこれからいろいろ周知していこうっていう所にいきなりろぴねぇは刺激が強すぎると思うんだよな」


「んー? なんや? 外見の事かいな?」


 あまり容姿の事であれこれ言うのは失礼だし、ろぴねぇの綺麗で大きな瞳は気に入ってるので勘違いされたくはないけど……。


「うちは本来魔物じゃなくてキュクロっちゅう一つ目の種族なんやけど……人間に迫害されて居場所を奪われ、結果的に魔物達の中にしか居場所が無かった……」


 ろぴねぇが魔物じゃないっていうのは驚いたけれど、そんな事より……。そんな悲しい出来事があって魔物と一緒に居たのか……。


「っちゅうことらしいで」


 にかっと笑うろぴねぇは、見た限りでは何も気にしていないように見える。


「それも昔の話やしうちは人間を特別嫌ってるわけじゃない。だけど、確かに人間から見たらこの外見は怖いんかもしれんなぁ」


「ではどうするのじゃ? やっぱり一緒に行くのは辞めとく方がいいんじゃろうか?」


 めりにゃんもしょんぼりした顔をして俺の方を見てくる。

 こうやってちゃんと他人の事情を悲しむ事が出来る子だから俺は好きなんだろうな。


「こういう時はあいつに頼もうぜ」




「……で、私に何をしろっていうのかしら?」


 腕組みしながらめんどくさそうに口を開いたのはロザリア。

 彼女はちゃんと説明するとなんだかんだで割と力を貸してくれる。


「実はさ、ろぴねぇの外見を人間が見ても怖がらないようにしてやってくれよ。一緒に街に行く予定なんだ」


「……はぁ、別に構わないけれど……彼女はそれでいいの?」


「うーん。別に元の姿に戻れないわけやないんやろ?」


「そうね。根本的に姿を弄ってしまえばもうそのままだけれど、一時的にっていうのを希望しているのなら容姿は弄らない方がいいわ……だから」



 ロザリアがほんの少しだけ言い辛そうに眉をひそめながら、「辞めた方がいい」と告げた。


 ロザリアでもダメだったか。

 こういう時ろぴねぇに何もしてやれない自分が歯痒い。


「そっか……。じゃあやっぱり今回もうちは留守番してた方が……」


「勘違いしないでちょうだい」


 俺、めりにゃん、ろぴねぇはきっと全員同じような顔をしていただろう。

 一斉にロザリアの顔を見つめる。


「一時的に人の街へ行くってだけなら……方法は他にあるわ」


「ほんとかいな!? うちも一緒に行けるんか? なんやロザリアはんなかなかやりおるな! 完全に騙されてしもうたで! このっ! このっ!!」


 ろぴねぇがとても嬉しそうな声で、でも舞い上がってるのを出来るだけごまかそうとふざけながらロザリアに抱き着いた。


「ちょっ、やめなさいって! こらっ! おいそこの魔王! 見てないで何とかしなさいよ!!」


 俺はそんな彼女の悲鳴を完全に無視した。

 微笑ましくて頬が緩む。


「は、な、れ、っろーっ!」


 ろぴねぇが無理矢理引きはがされ、突き飛ばされて俺の方へ飛んできたので受け止めてやる。


「まったく! 引っ付くならそっちにしときなさい。その方がお似合いよ」


「おっ、お似合い……? ほんまに?」


「うっさい! それよりさっさと本題に入るわよ?」


 ロザリアは俺達を呆れたような目で見ながら、他の方法って奴を教えてくれた。


「……なるほどな、確かにそれで充分なのかもしれない。助かるよ」


「ほんとや、それなら身体を弄らなくても人間に溶け込めるなぁ♪」


「それにそれじゃったら儂が一緒に居れば十分対応できるしのう。よかったなロピア」


 至極簡単な話だ。誰かが魔法で違う姿に見えるようにしてやればいい。

 擬態、幻覚、いろいろ言い方はあるかもしれないがつまりはそういう事だ。

 かなり難しい特殊な魔法のようだが、ロザリアがめりにゃんに手ほどきすると驚くほどあっさりめりにゃんはマスターした。

 さすが俺の嫁!


 ぬいぐるみみたいな身体にしかできないメディファスとは出来が違うぜ。


『我の場合幻影ではなく……』


 はいはいちょっと黙っとれ。


『無念』



「よっしゃ♪ そうと決まれば魔王と魔王の嫁と愛人一号、出発やでっ!!」


 ……その言い方辞めてくんない?


 視界の隅でロザリアが小さく噴き出すのが見えた。

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