姫魔王と酒と女と身体の秘密。


 あの後、身動き取れない俺は皆が起きる前にその場から転移で逃げ出した。


 不思議な事があるとしたら、この身体は変化を拒絶する。毒はすぐに治るし、怪我だって元通りになる。


 ……なのにどうしてお酒で酔っぱらった後はこんな事になるの?


 酔いはすぐに覚める筈では?

 いくら飲んでも大丈夫になるんじゃないの?


 それとも、まさか……俺が無意識に酒のせいにして好き放題しているとか……。


 いや、無い無い。


 ……無い無い無い無い。無いと言ってくれ。


『純粋にアルコールという成分の分解力が低いだけかと』


 うわ吃驚した!


『我を忘れていたのですか……?』


 いや、だってなかなか喋らなかったし。


『主が心を読むのを辞めろというのでしばらく辞めていたのです。しかし、その結果ひどい事になってしまいました。アシュリーを呼んでしまわれたので我はもう何も口出しできず……』


 こいつ本当にアシュリー苦手だな……。


『アレは本当に我を分解、解体、破壊する気がある目をしています。危険』


 アシュリーも興味がある物に関しては知識欲が半端ないから徹底的に調べたくなるんだろうな。

 むしろメディファスがそれだけ興味を引く存在って事だ。


『まったく嬉しくありません』


 それはそうとアルコールの分解力が低いっていうのは?


『主の身体の変化具合に関してですが、即座に治る部分、時間をかけて治る部分など、部位によって多少の誤差があります』


 なるほど。確かに髪の毛とかは切っても十分くらいは元に戻らないしな。


 体感的には異常が重大な程早く元に戻る気がする。

 腕がもげたりとかの大怪我は比較的早く治るが、致命傷とは縁のない髪の毛などはしばらくしてから。

 アルコールは体内で分解されるから慌てなくてもいいし飲んだら即おかしくなるわけでもないから優先度が低い……って事かもしれない。


 推測が正しければアルコールによる酔っぱらった状態を治すのにも多少時間がかかるってだけ。恐らくこれが一番しっくりくる理由だ。



『酔うと言ってもおそらくほんの数十分程度でしょうが』


 要するにその数十分の間に俺は踊り出した訳だ。反省が必要だぞ。


『我もそれ以上は危険ですと止めはしたのですが……。何せ主は我にも酒をかけてきたので』


 えっ、なんか……その、ごめん。


『大丈夫です。そのうち、手入れだけでもしていただけると嬉しいですが』


 あ、ああ。分かったよ。ちなみにあの夜何があったかお前には分かるか?


『それが、我はベッドの脇に転がされてしまったのでベッドの上で何が行われていたのかまでは……その時我も少々ほろ酔いでしたし』



 お前も酔うんかい!


『主のせいです』


 す、すまん……。今後は気を付けるようにする。


「おや、お一人ですかな?」


 ん?


 地下の町をうろうろと散歩していたら誰かに声をかけられた。

 振り返るとそこにはドワーフの族長。


 相変わらずちんちくりんでずんぐりむっくりしているのに髭は凄いし腕や足はムキムキ。

 バランスがぶっ壊れてるんだよなぁ。


「どうかされましたか? ジロジロ見て。もしかしてドワーフが珍しいですか?」


「いや、そんな事はないよ。知り合いにホビットドワーフも居るしな」


「ホビットドワーフですか。それはまた珍しい。人前にはそう出てくるタイプではないかと……」


 俺はリャナの町に住んでいるゴギスタ達の事や当時起きた事を簡単に説明した。


「なんと……奴隷商人ですか……厳密には違うにせよ同族を助けて頂きありがとうございます。しかし人間達に溶け込んで暮らしているとは……」


 確かにあの時はいろいろ面倒な事もあったし変な茶番をする羽目になったけれど、なんだかんだで町の人達は奴等を受け入れて今ではうまくやってる。


「だから俺は人と魔物も、上手くやれると信じてるよ。その為に今各地を回ってる訳だしな」


「そうでしたな。昨夜お酒が入っていたとはいえいろいろ聞かせて頂き感銘を受けました」


 うー、べろんべろんになった状態で俺は何を熱く語ってしまったのか。今更だがやはり恥ずかしい。


「わし等ドワーフも貴女の理想とする世界の為に、協力させて頂きましょうぞ」


「ありがとう。そう言ってもらえると助かるよ」


「ここにはあとどのくらい滞在のご予定ですかな? もし本日もいらっしゃるならまたおもてなしさせて頂きますが」


「勘弁してくれ。俺はもう酒のトラブルはこりごりだぜ」



 その後、俺を探しに来た三人と合流しエルフの集落へ向かった。

 昨夜の事は一切触れていない。あいつらも特に蒸し返そうとはしなかったので助かる。


 というよりもめりにゃんとアシュリーは俺と目を合わせようとしてくれない。

 ショコラだけがにっこにこしてる。


 ……これは俺が何かしたというより……。


 いや、これ以上詮索するのはやめよう。

 ショコラは別にいいとして、めりにゃんとアシュリーの尊厳が死んでしまう。

 もしかしたら俺も含めて……なのでショコラ以外誰も幸せになれないから忘れた方がいい。


 とりあえずこのまま一度国へ帰ろう。

 そして、落ち着いてからナランへ行こうか。


 アシュリーの転移魔法で久しぶりの魔物フレンズ王国。

 一通りみんなに挨拶しつつ、今日は疲れたのでこのまま休む事にした。


 さて、明日は改めてナランへ視察へ行ってみようかね。


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