姫魔王は三者面談しに来たわけじゃない。
「……ほほう……大体の事情は分かったよ。じゃああの時私の所に来たプリンはプリンじゃなかったんだね?」
「そういう事になるな」
かなり尋問に近い形でいろいろ聞き出されてしまったが、ロザリアの事を話す必要はあっただろうか?
もしこれで拗れたら俺は奴に殺される気がする。
「あの子はね、私がぎゅってしてあげたら……泣いたんだよ。きっと親の温もりをしらないんだ。今あの子がどんな状況なのかはよく分からないけれどね、何があったって私の娘だって伝えておいてちょうだい」
おふくろは揺るがない意思を込めた瞳で俺を見る。
「……わかった。ちゃんと伝えておくよ。きっとあいつも喜ぶだろう」
「それで、次だよ次、そのちっちゃい女の子がプリンの妻ってのはどういう事だい? それに……その羽根と尻尾、飾りじゃないんだろ?」
ふぅ……。これを説明しなきゃならんのがなかなかしんどい。
「おふくろは最近魔物が大人しいのは知ってるか? もう人を襲ったりして無い筈だ」
「あぁ、そういう話らしいね。それと関係してるのかい?」
「実は……俺、今魔物の国で国王やってんだよね。んでこの子も魔物……俺の嫁ってのは本当だよ」
おふくろはおでこに手を当てて天を仰ぐように天井をしばらく眺め、ゆっくりとこちらに向き直る。
「プリンが魔物の国の国王?」
「おう。んでディレクシアとも同盟を結んだ。もう魔物は脅威じゃないんだ。少なくとも俺がきっちりと管理するからな」
「はぁ……それで? 魔物との友好関係の証に魔物の女の子と結婚したのかい?」
めりにゃんがその言葉を聞いてしょんぼりとしてしまった。
羽根も尻尾も項垂れている。
「あのなぁ、この子は確かに魔物の中でもかなり地位が高いよ。だけどな、そんな政略の為に結婚したなんて思われるのは心外だ。それにめりにゃんに対して失礼だろうが。謝れ」
「セスティ……」
めりにゃんはちょっと涙目になりながら俺の服を掴む。その手が少し震えていた。
「……」
おふくろは俺を正面から見据えて、俺の言葉の真意を読もうとしているようだ。
「嘘、じゃなさそうだね。それはお前の奥さんに失礼な事をした。メリニャンさんだっけ? 本当にごめんね。私もあんまりの事に動揺してたみたいさ」
「い、いいんじゃ。自分の子供が魔物と結婚なんてなれば誰だって……嫌じゃろう」
めりにゃんは悲しい気持ちをかみ殺して、精一杯の笑顔をおふくろに向ける。
おいおい、まさかとは思うがこれに応えないような大人じゃないだろうな?
「うむ! 合格!!」
「……へっ?」
「わたしゃ別に魔物の子だろうとなんだろうとどうだっていいのさ。プリンが幼女趣味だったのはちょっと育て方に責任感じちゃうけど、この子は芯の強い子だ。しかも人を思いやる事もできる。これ以上無いできた奥さんじゃないか。大事にするんだよ」
おふくろ……。あんな親父を選んだ女だから俺は心配ではあったんだけど、人を見る目は確かみたいだ。
親父も昔はあんなんじゃ無かったって事かもしれないが。
「そ、それじゃあ儂を、認めてくれるんじゃろうか?」
「当然よ♪ ちなみにプリンの嫁って事は私の娘だからね? そこんとこ宜しく! あぁ……よく考えたら私もこれで国王の母? あらやだどうしよう」
急に明るくなったおふくろはめりにゃんの手を取って立ち上がらせると、自分の元へ引き寄せて思い切りハグ。
羽根やら尻尾やら角やらをあちこちべたべた撫でまわしはじめた。
「はわっ、はわわわっ!!」
「おふくろ! テンション上がるのは分かるがセクハラすんじゃねえよ!」
「あぁごめんごめん。でもメリニャンちゃん、この子は直情型でアホで馬鹿でどうしようもない奴だけど、妻になったからには面倒見てやってね。そのかわりこいつが酷い事したらいつでも私に言うんだよ?」
「わ、わかったのじゃ……ちなみにセスティは儂以外にも愛人がいるのじゃがそいつらもママさんの娘になるのかのう?」
ピキッ。
そんな音が聞こえた気がした。
「……おい、それはどういう事だい? 詳しく説明してくれる?」
「い、いやそれには事情が! 俺は認めてないぞ! あっちが勝手に愛人を名乗ってるだけで!」
「親が親なら子も子だねっ!!」
ばごんっ!!
なんかしらんが頭を思い切り叩かれた。
そんでもって異常に痛い。
「いってぇぇぇ! なにしやがった!?」
普通に叩かれたくらいでこんな痛い筈がない。
「身体が頑丈そうだからね。私が得意だった内部にダメージを響かせる気功の拳だよ」
「いや知らねぇしそんなもん息子の脳天にぶちかますんじゃねぇよ!」
そう言えば親父もおふくろも元冒険者か……。親父が無駄に強かった事を考えるとおふくろもそれなりのやり手だったのかもしれない。
「愛人なんて百万年早いんだよ! 奥さん一筋でちゃんと守り通しなさい!」
「いや、儂は愛人がいても構わんのじゃ。一番大事にしてくれればそれで……」
「はぁぁぁっ! もうなんなのこの子!? いじらしすぎるじゃない。こんないい子が居るのに浮気して愛人作ってるの!? もう信じられない! ここに座りなさい!」
「座ってるだろ!」
「正座しろ!!」
そんなこんなで俺はそこから一時間ほど母親の説教をくらうのだった。
母親が俺を叱る時に必ず言うこの正座、というのが大嫌いだったのを思い出す。
なんだか、酷い展開だし、暴力的な説教はうんざりだったけれど……。
とても懐かしくて頬が緩んでしまった。
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