姫魔王は人生最大のモテ期が来てる。

 

 俺とアシュリーはそのままあちこちの店を見て回り、彼女が探してたよく分からない液体や、キノコみたいな物、そして変な粉など俺にはまったく理解できないような物ばかりだったけど大体手に入った。


 そして、俺の方なんだけど、アシュリーの用事が一通り済んだあと立ち寄った一件目の酒屋がかなり大きい店で、定期的に大量の酒を仕入れたいという話をしたらかなり乗り気になってくれたので話がトントン拍子に進んだ。


 ただ、少々思っていたより金額が高くついてしまって困ったなぁと思っていたらアシュリーが、我慢ならないと言った様子で口を挟んできた。


「アンタ。このおバカさんが物を知らないからってボッタクリはやめなさい。この値段は相場の四割程度割り増しした料金よね? むしろ定期購入、しかもまとまった量を仕入れようって言うんだから割引されてもいいくらいよ。違うかしら?」


 四割も割り増しされてたの? さすがにそれは気付かなかった。

 せいぜい二割くらいかと……。


「おいおいお嬢ちゃん、こっちは初見の相手と大口取引するんだぜ? 何もかも便宜をってわけにはいかねぇよ」


「私達がディレクシアと同盟を結んでいる国の使いだとしても? しかもここにいるこの女はプリン・セスティ。あの英雄様よ? しかも今は一国の王……それが直々に取引しようって言ってるのにそんな態度を取る訳ね。じゃあここはやめて違う店にしましょう。セスティ、さっさと次行くわよ」


「えっ、えっ? ちょっと待ってくれよ」


 慌ててアシュリーの後を追いかけようとするが、その必要は無かったらしい。


「ま、待ってくれ! 今の話は本当なのか? あんたがセスティ様っていうのもそうだし、同盟国?? そんな話は聞いた事がないぞ!」



「同盟国の話は新しくできたばかりの国だからね。アンタが知らなくても仕方ないわ。でも不安なら王に確認でも取ってみれば? セスティの納める国と同盟結んでますか? ってね。ほら、一応こいつの身分証も見せてあげるわ。ちなみにこの身分証を発行したのはこの国の元総騎士団長のアレクセイ・バンドリアよ。……まぁ、私達と契約を結ぼうとしないアンタには関係無い話だったわね」


 そう言って店を出ようとするアシュリーに、店主は再び大声で「待ってくれ!」と懇願する。


「分かった! 悪かった! 勿論後で確認は取らせてもらうが、あんたらの事を信じよう。……こ、この金額でどうだ?」


「……ふん、これなら他を当たるわ」


「わ、分かったよ! じゃあこれでどうだ!」


 店主が提示してきた金額は、最初に出された金額よりもかなり少なかった。


 それで店として売り上げが出るのかな? って心配になるくらい。


「……いいわ。アンタの熱意に免じて、この店を専属取引先として認定してあげる。勿論うちの王様がOKしてくれればね」


 アシュリーがそう言うと、店主がこちらを向いて「先程は失礼しましたセスティ様! どうかよろしくお願いします!」と頭を下げてきたので、「いや、今後とも宜しく頼むよ」と告げ、きちんと契約書を交わした。


 アシュリーはやっぱりすごい。

 俺だけじゃあんなふうに交渉はできないし、もっと損をする契約になっていただろう。


 店を出るなり嬉しさが溢れてしまってアシュリーの身体を掴んで高く持ち上げた。


「アシュリー! お前やっぱりすごいよ! 最高だ!!」


「なっ、ななな、何するのよ! 離しなさい! 降ろしなさい!! これじゃ私が子供みたいじゃない!!」


「あ……ごめん。つい嬉しくってさ」


「わ、分かればいいのよ……って、変な所触るなっ!」


 どうやら降ろそうとした時に俺の手が妙なところに触れてしまったらしく、アシュリーが空中で暴れる。


「お、おいちょっと暴れるなよ!」


「うるさいうるさい! ばか離せ変態!」


 持っていた杖で俺の顔面をべちん! と叩くもんだから一瞬怯んで手を離してしまった。

 空中で。


「うわわっ!!」


 どすん!


 俺の上にアシュリーが降ってきた。


「急に手を離すんじゃないわよ危ないわね!」


「いてて……お前が離せって言ったんじゃない……か」


 目を開けたらすぐ目の前にアシュリーの顔があった。


 ごく至近距離で目が合う。


「あ、あぅあぅあ……」

「そ、その……ごめん、な?」


 アシュリーは頭でも打ったのか混乱しているようで、しばらくあうあう言っていた。


「おい、大丈夫か? でも本当にありがとうな。アシュリーが一緒に居てくれて良かったよ」


「……そ、そう思うなら、それなりの謝礼を要求するわ」


 謝礼と来たか……。


「分かった。お前の人体実験とかに付き合うとかじゃなければ何でも言ってくれ」


「ふぅん。じゃあこれで許してあげるわ……ある意味人体実験だけどね」


 そう言ってアシュリーは顔を赤くしながらニッコリと笑った。


 そこから先は俺の方が混乱してしまってよく覚えてない。


 俺の考える限り、とても理解できない事が起きた。

 なんで? で頭が埋め尽くされる。

 こんな馬鹿な。


 ただ一つ言えるのは、俺は今どういう訳か突然人生で一番のモテ期が到来している。


 そして、やはりこれは浮気になってしまうのだろうか。


 めりにゃん、許して。


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