姫魔王はなんだか気まずい。
「しっかし急に平和になっちまったよなぁ」
サクラコさんが酒をぐびぐび飲みながらいまだに俺達に絡んでくる。
ロザリアと話があったのに全く進みゃしないぜ。
「平和なのはいい事よ。煩わしい事も何もないし、楽しい事だけの毎日なら尚の事いいわよね」
まさかメアがこんな発言をするようになるとはね。
きっといろんな人に触れて、世界に対する恨みつらみってやつが少しは薄れたんだろう。
こっちからしたらありがたい話だ。
今更こいつがもう一度敵になったらめんどくさくてしょうがない。
やれやれ、みたいな呆れ顔をしながらちゃんとサクラコさんの相手をしてるあたりこいつもちゃんと人として生きていけそうだ。
怒らせたらまずいけどな……。
「……この大酒飲みのせいでこの国の酒がもうかなり減ってきています。仕入先を考えなければいけませんね」
そう言いながらアレクが厨房から出てきた。
そう言えば記憶が戻ってからこいつときちんと話すのは初めてな気がする。
「おおアレク、お前がこの国の為に働いてくれるなんて嬉しいよ。あの時は世話になったな」
「……いえ、こちらもとても貴重な体験をさせて頂いていますよ。貴方が魔王になってしまわれたのは驚きましたが」
眼鏡をクイっと持ち上げながらアレクは、「そうそう、ですからお酒をですね」と話を切り出す。
「うーん。それなら俺が王都にでも行って話付けてこようか? ついでに今の状況を王にも説明してきた方がいいと思うし」
俺は王と直接話した事があるけれどその時はメアとしてだったからな。
一度会って話しておくべきだろう。
「それなら私も行きましょう。私が居れば王との取り次ぎも早いですよ」
「そうか、じゃあよろしく頼むよアレク」
「かしこまりました。しかし流通に関してでしたらリャナかナランあたりに行く方がこの国までの輸送が楽なのでは?」
それはそうかもしれないけど、大丈夫。その辺は考えてある。
「あー、誰かアシュリーから袋借りてきてくれないか?」
「袋って何よ?」
今までおとなしくサクラコさんの相手をしていたロザリアが不思議そうに聞く。
「あいつの秘密道具みたいなもんだよ。アシュリーは転移みたいな要領で物質の転送ができるんだけどな、その道具を使えば似たような効果があるんだよ。別の場所……多分あいつの家かどっかに繋がってて、好きに出し入れできるっていう」
「ほう、それは便利ですね。ならば純粋に物が多く集まる王都の方が直接いろいろな品を仕入れられます」
「酒か!? 酒を探しに行くならあたしも行くぞ!」
「あちらではお酒飲む暇などありませんよ? ただあちこち行って仕入れてくるだけです。大人しく待っていた方が貴女にとっては得なのでは?」
急に話に割り込んできたサクラコさんだったが、アレクの冷静な一言で「……やっぱやめる」とまた酒を煽り出した。
「別にそれくらいなら私でも出来るわよ? なんなら一緒に行ってあげてもいいけれど?」
ロザリアが一緒にって言うのも悪くないんだが、今回はいろいろ人目に触れるからあまり目立つのは控えたいし、万が一の場合もあるからなぁ。
「いや、間違いなくここで一番の戦力なお前はここに残っててもらった方が助かる。襲撃があったとしてもメ……ロザリアが居てくれた方が安心だから」
あぶねぇ。メアって言いそうになった。
一瞬めっちゃ睨まれたし。気をつけないと。
「あっそ、じゃあその袋ってやつを自分で借りに行きなさいよ。人に頼むより自分で行った方が早いでしょう? どうせ研究室に居るんだろうし」
「あー、うん。それはそうなんだが……」
アシュリーはクワッカーの研究室に入り浸ってるから今もそこにいるとは思う。
思うんだけど……あれからどうにも気まずいというか、妙に避けられてるんだよなぁ。
こっちもどう接していいか分からなくなってるところなんだ。
……と、周りの奴等に説明するのもなんだし、仕方ない。俺が直接仮に行くしかないか。
と、諦めて席を立った所で、アレクが助け舟を出してくれた。
「それでしたら私が代わりに借りに行きましょう」
「おぉ、マジか! そりゃ助か……」
「その必要は無いわ」
うげっ。
「あら、ご本人の登場ね。私達はどうせする事も無いし行きましょサクラコさん」
「えっ、あたしはまだ酒飲み足りねぇんだけど……」
「いいから行くわよ。たまには外で日に当たりながら飲むのもいいんじゃない?」
「うーん。そういうのも悪くないかもな」
サクラコさんは真っ赤な顔でニコっと笑い、酒瓶と杯片手にロザリアと食堂から出て行った。
出て行く間際ロザリアがこちらを向いて趣味の悪い笑みを浮かべていたのが腹立つ。
あいつ俺とアシュリーの事情知ってやがるな?
「アシュリーさん、どこから聞いておられたのでしょう?」
「別に聞いちゃいないけれど、袋が必要ってのはうっすらね」
それって割と聞いてたって事じゃねぇのか?
「じ、じゃあ……悪いけど袋貸してくれるか?」
「だからその必要はないわよ」
「……それって、どういう?」
「だから……私も一緒に行くって言ってるのよ」
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