隠者VSババァ。


「くそがぁっ! なんでっ! 届かないんだよぉっ!!」


「うるさい小娘だねぇ……わたしゃあんたの何十倍も生きてんだ。年の功ってやつさね」


 ババァは水を変質させ、きつねこの手足に纏わりつかせるとそれを凝固、身動き取れなくした上でその周りに水で牢を作る。


「くそぉぉ……もう、力が……」


『どうやら長時間あの姿で居られるわけではないようだね。人の身で神の力を使おうというのだからそれも仕方ない事か』


 俺とアルプトラウムの場合は完全な例外だが……過ぎた力を持てばこうなるといういい例だ。


「なぁに、殺しはしないさ。その力には興味があるからねぇ……まずは薬漬けにしてその意識を刈り取ってからあちこち切り刻んで調べてやるわい……ひひっ、楽しみだねぇ」


 必死にきつねこも抵抗しようとするが、やがて力尽きて元のにゃんこに戻ってしまった。


『これでもう完全に彼女の勝ちは無くなったね』


「くそぅ……私も、ここまでか……おい! カルゼ、お前だけでも早く逃げろ……!」


 にゃんこに心配されるほど落ちぶれてはいないよ。


「ひひっ……戦闘に参加しなかったところを見ると戦力は乏しそうだが……実験台にはちょうどいい男の身体だねぇ。せっかくだからにがしゃしないよ」


『さぁ、どうする?』


 あのババァはどうやら俺を逃がす気がないらしいぜ。


『ほう、それで?』


 だから、降りかかる火の粉は払わなきゃなぁ。


『君も素直ではないね』


 俺はお前だ、忘れるなよ。

 それに、俺はここから一人で逃げる事だって出来る。にゃんこをどうするかは本人次第って事にしておくか。


「おいにゃんこ」


「ラニャンコフ……だ」


 にゃんこは大分ぐったりした様子で目線だけこっちへ向けながらか細い声を出した。


 どうやらあの拘束している水に力を吸われているようだ。みるみる弱っていく。


「にゃんこ、お前に聞きたい事がある」


「こ、こんな時に……何を? もう、いいから逃げろ……」


「おいおい、質問に答えろよ。いいか? お前はこんな所で死にたいか?」


「……いいから、私じゃ勝てないから……逃げろ」


「言っておくが俺なら勝てるぞ」


 にゃんこはぐったりしながらも目をカッと開いた。

 ババァもそれを聞いて笑い出す。


「はっはっは大きくでたもんだね。若造、お前なら私を倒せるって? この古の時を生きる大魔導士モルワイダー様をかい? そりゃ面白い冗談だねぇ」


「今はこのにゃんこと話してるんだよ。ババァの相手はもうちょっとしたらしてやるから黙ってろ」


「口の減らないガキだよ……」


 ババァはこめかみに血管を浮かび上がらせているが、威厳を保ちたいからか冷静を装っていた。


「……ほん、とに……?」


「あぁ。お前の力を見た上で言ってるんだから信じていいぞ。で、お前はどうしたい? そこで死ぬか? それとも……」


「ま、まだ私は……死ぬわけには……」


「でも確か俺は見てるだけの方がいいんだっけ?」


『ここでその話を蒸し返すとは鬼畜だね』


 いいや、違うよ。俺は悪魔さ。


「ぐっ……」


「生き残りたければ、こんな所で終わりたくないのならお前が言うべき言葉は一つだろう?」



「あぁ……頼む、助けてくれ……いや、助けて……下さい」


「いいだろう。じゃあ後は俺に任せてのんびり眺めてろ」


 俺は腕を一振りしてババァの水牢を破壊する。

 勿論彼女を拘束している水も蒸発させてやった。


 どさりとにゃんこが落っこちるが立ち上がる力もないようで顔だけをこちらに向け、「あり、がとう」と呟いた。


「なっ……今、何をした?」


「耄碌したババァに説明してもしょうがないだろう?」


「お前……戦わなかったのは、自分が出るまでもないと思っていたからかい? 舐められたもんだね!」


 戦闘が始まる前に一応確認しておかなきゃいけない事がある。


「ここに薬草の素材を取りに来たやつや冒険者はお前が殺したのか?」


「……? あぁ、何か来てたようだけれど私の所に来る前に可愛い子供達に殺されて栄養になったんだろうよ」


 それだけ分かれば十分だな。こいつを倒せば今回の依頼は成功、美味い酒が飲めるって事だ。


「か、カルゼ……あんたは、いったい……」


「へぇ、あんたカルゼって言うのかい。確か北の方にそんな姓が多かったかねぇ」


 そんな知識があるからって俺の何が分かるんだか。少しでも上に立ちたいっていう下らない自尊心の表れだろう。


「俺の名前はハーミット。一応巷じゃ勇者で通ってるんだ覚えときな」


「ゆ、勇者ハーミットだって!? カルゼ、お前……」


 俺は驚いているにゃんこに軽く笑いかけ、そして……世間の情報に疎いババァにほくそ笑む。


「ババァにはこっちの名前の方が分かりやすいか? アルフェリアだ。聞き覚えくらいあるんじゃないか?」


「何を訳の分からない事を言ってるんだい……い、いや待て。アルフェリア、だと……? そ、そんな……嘘だ。わたしゃ信じないよ!」


 ババァが上空から水分の重りを落としてきたが俺の身体に触れた瞬間にパァンとはじけ飛ぶ。


「……今何かしたか?」


「嘘だ嘘だ嘘だァァァァッ!!」


 再びババァ、モルワイダーが先程の激流を作り出し俺に向かって放ったが、逆に激流その物を障壁で作ったレールに乗せ、ババァへ向かう様に操作。

 その水分を全てその場で蒸発させ、その気化熱でババァを包む。


「ぎゃぁぁっ! あぁぁぁぁっ!! 熱い、熱いぃぃぃぃっ!!」


 逆円錐は溶け、ババァは地面に転がる。

 どうやら足が悪いらしく、立ち上がる事は無かった。


「あ……貴方様は、本当に……?」


「あぁ。今はアルプトラウムと名乗っている……古都の民ごときが歯向かっていい相手ではないだろう?」


「お、恐れいりました……わたくしを是非、従者に……! 必ずやお役に立ってみせばじょっ……」


 ぐちゃり。


『せめて最後まで言わせてやりたまえよ』


「てめぇみたいな従者願い下げだよ」


 せめてにゃんこくらい面白おかしくなってから出直してきやがれ。


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