隠者はご冥福をお祈りする。
「お前な……大体状況は把握したつもりだけど、一応自分の口から説明はしてくれるんだろうな?」
にゃんこのきつねこ状態はまだ続いている。
「あ、あはは……さすがに気持ち悪いよな……どう見ても人間じゃねぇし……」
「いや、それはどうでもいい」
「どうでもいいのかよ!? お前本当に変な奴だな……」
なんで受け入れてやったのに変な奴呼ばわりされなきゃいけないんだ。
しかし尻尾ふっさふさだなおい。パタパタ動かしやがって……。
しかもその上についてる狐耳と普通の耳どっちが耳として機能してるんだよ。
「でも私が説明できる事って少ないよ。なんか知らないうちにこうなってたから……。こう、やるぜーっ! ってなると変身できるんだよね」
変身……確かにこの変化は変身と言うのがしっくりくる。
おそらくこれも親父とやらの仕業だろうな。
よほどやむを得ない事情があったか、完全に実験台だったかどちらかだろうが本人もその辺は分かってないようだ。
『む……どうやら悠長に話をしている場合ではなさそうだよ』
はぁ……。もう少しいろいろ聞きたかったしその尻尾も触ってみたかったんだけどな。
「おい、その変身が解けてないって事はまだやれるんだろ? 見ててやるから頑張れ」
「えっ? 頑張る……けど、何を?」
こいつは自分の力と頭の中身が比例してないんだよなぁ。
「あとお前その剣な、あまり使うな。かなり精神面によろしくない影響が出てるぞ」
「確かにテンション上がっちゃうけどそれだけだろ……? いや、お前に切りかかったみたいだし思っていた以上にヤバい剣なのかな……。そういえばお前どうやって私を止めたんだ?」
残念だがその答えを教えてやる前にもう一仕事してもらわなきゃならないようだ。
「お前たちだね……私の可愛い子供たちを殺してくれた侵入者は……」
どこからかそんな声が響く。あたりを見渡してみるが気配はあるものの姿が見えない。
「な、なんだ? さっきの奴等の親玉か!?」
「そのようだぞ。さぁ、約束通り俺は見てるからどうにかしてみせろ」
「い、言われなくてもやってやるぜ! この姿になっちまった以上もう隠す事も無いし本気でやるぞ!」
……それにしてもどこにいる? 気配は丘の上に感じるものの、その姿が見えない。
「そこだぁっ!!」
きつねこが身体からぶわっと青い炎を湧き上がらせ、空中でぐるぐる回した後丘の上を目掛けてぶん投げる。
……が、その炎は一定の場所まで飛んで行きパキンと何かが割れるような音がして掻き消える。
『ふむ……なかなかレベルの高い障壁だね。これは思ったよりやっかいな相手がいるようだよ。無論私達の敵ではないがね』
俺等の敵じゃないのは分かるけどきつねこにはどうだろうな。荒神をその身に宿しているならいい勝負は出来ると思うが。
それにしても何者だ? あの銀色の生物はおそらく人工的なガーディアンのような物だろう。
それを生み出せるような相手というのは……。
「やれやれまったく品の無い子だよぅ。私の子供達はこんな頭の悪い女にやられちまったのかい……可哀想に」
「あの銀色ぶにゃぶにゃと銀色モグラが子供だってんならお前はなんなんだよ! 銀色ババァか!?」
きつねこが吼える。どうやら彼女には相手がどこにいるのかちゃんと分っているらしい。
姿は見えていないようだが。
「お前相手の場所分かるのか?」
「ん? だって声があの辺から聞こえるし」
馬鹿だった。ただ耳がいいだけの馬鹿だった。
「オラオラ! 隠れてないで出てこいや!」
「うるさいねぇ……わたしゃあんたみたいなうるさいガキが大嫌いなのさ」
先程障壁が張られていた辺りの空間が歪み、丘の上に小さな姿が現れる。
何か銀色の、円錐を逆にしたような物体の上に座って浮かんでいる……老婆だった。
「やっぱりババァじゃねぇか! 私はご老人には優しくしろって教わったけどお前みたいなババァなら遠慮しないからな!」
きつねこは感情をストレートに顔面に出して下品に叫ぶ。確かに品は無いなこいつには。
「うるさいねぇ。子供達の敵討ちはしっかりしてやるからね。かかってきなさいな」
「言われなくてもぶっとばしてやるぜーっ!」
どごっ。
きつねこが潰れた。
どう見ても関節とかヤバい方向にめちゃくちゃに曲がってるしこりゃ死んだかもしれん。
『面白い逸材だったのだがね……』
いやいや、あいつ今何しやがった?
『簡単な事だよ。ちょっとした禁術というやつだね』
あぁ、そういう事か。どうにも元の俺が全く知らない知識だと理解がワンテンポ遅れるな……。
あれはおそらく禁術と言われているものの一つで、空中の水分を操る類の物だろう。
そう言うとたかが知れているように思えるが、空気中には水分が沢山含まれていて、それを自在に操れるというのはかなり脅威だ。
例えば局地的に水分の濃度を増やしまくれば呼吸が出来なくなって死に至る。
水分を完全に蒸発させれば高熱に焼かれたり干からびて死ぬだろう。
この術式はそれだけじゃなく、その水分の質量、重量すらも自在に操る類の物だ。
もしかしたら水分だけではなく酸素自体を操る術なのかもしれないが……。
とにかく、局地的にだがそれらを自在に操れるという事は頭上から恐ろしい重さの塊を叩きつけられたのと同じような物だ。
結果、目の前のきつねこのようにぺしゃんこになる。
「おーい。生きてるか?」
少しでも息が有ればどうにかしてやらんでもないが……。
これは冥福を祈ってやらなきゃならないかもしれんなぁ。
「いてぇじゃねぇかこのババァっ!!」
思ったより元気みたいだぞ?
『う、うむ……そのようだね』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます