王国防衛戦終結。



「あぁぁぁぁぁっ!! ぐ、あぁぁっ!」


「どーよ。流石に効いたんじゃねぇか?」


 魔族王の身体は肩から斜めに真っ二つになり、切り口はぶくぶくと細かい泡で埋め尽くされている。


「何故……? 何故、修復しない……!?」


『それについては私が説明してあげましょうか?』


「うわっ!!」


 驚いたのは魔族王じゃなく俺の方。


「なんだお前!?」


『……貴方とは初めてでしたね。私はメイディ・ファウスト。メディファスの元になった神……と思って頂ければ』


 メディファスの元ってあたりがよく分からねぇがなんだか神様がこちら側についたらしい。


「……で、そのファウストさんがなんでメディファスの中に居たんだ?」


『その辺は後で説明しますよ。それより、そこの魔族王と名乗る者が使っている身体は元々私が地上にて活動する際のスペアボディですからね。内側から少々機能を弄らせて頂きました』


「か、身体が……うご、か……」


「そうでしょうね。そもそも私の身体をそこまで自由に操れる事に驚きですが……どうせあの馬鹿が力を貸しているのでしょう。しかも貴女はどうやら精神状態がまともではありませんね。 いったい何をされたのです?」


 なんだか突然出て来た神様が一人でめちゃくちゃ喋り出したんだがこれどうしたらいいんだよ。


 俺の周りには変な服着たショコラとアシュリーとめりにゃんと、完全回復したロザリアが集まっているが誰も口を挟もうとしない。


 え、これって今黙って見守るところなの?


 そもそもロザリアは……なんか気持ち悪いな……以前俺が使っていた体に戻ったのか? 自分だった顔や姿が目の前に居て別人として喋ってるっていうのがどうにも……。


 そんな事言い出したら魔王メアの姿になってる俺もどうかしてるけどな……。


 あぁ……いろいろ思い出してしまった為にこれからどうしたらいいのかいろいろ考える時間が必要だ。


 俺にも、この国にも。

 そして他の連中にも。

 どうやらショコラだけはある程度事態を把握してたみたいだけど。

 ってかその巫女服なんだよすげぇな……。


 ……いや待て、そんな事よりおかしな事に気付いてしまった。


 ロザリアをじっと見つめると、眉間に皺を寄せてゆっくりと首を横に振った。


 黙ってろって事か。

 ……まぁいい。今はそれに従おう。


『ですからね、私の身体でオイタをする貴女を放っておくわけには行かないのです。って聞いてますか?』


「ぐっ……うあぁ……あぁぁっ!!」


「おいおいなんか様子が変だぞ!? このまま死にそうな勢いじゃねぇか」


 魔族王がのたうちまわり、呻き出した。

 その様子を見てアシュリーが心配そうな声をあげる。


「おいメリーの身体なんだから無理させるなよ!」


 アシュリーがこんなに誰かの事を心配するようになるとはね。

 なかなか感慨深い物がある。


『あれれ……? おかしいですね。私は体の修復機能を止めて、ちょちょいと動けなくはしましたがそれだけの筈ですよ?』


 だったらこの尋常じゃない苦しみようはなんだ?

 何か、嫌な予感がする。


『ま、まさか……これもあの人の目論見通りだとでも……』


 ファウストの言葉が終わる前に、目の前の身体が強く発光しガクガクと震えだす。


 逃げられる可能性を考慮してかロザリアが魔族王へ近付こうとした時、まさかの出来事。


 ロザリアの服が、赤いドレスが、つまり……。

 マリスがぶわっと広がって魔族王へ襲い掛かった。


「しまった! そいつの身体アーティファクトじゃねぇか! マリスに食われるぞ!!」


 完全に忘れてた。

 こうなる事を予測できなかったのは俺の責任だ。

 万が一これでメリーの身体が完全にマリスに食われちまったら……。


 だが、その心配は杞憂に終わった。

 良かったのか、悪かったのか……。


 魔族王の身体をマリスが包み込もうとした時、バシュウン!! と音を立てて魔族王の身体がどこかへ消えてしまった。


「メリー!!」


 アシュリーが叫んで追いかけようとサーチ系魔法を唱えようとするが、ファウストが止める。


『残念ですが……無駄でしょう。これはきっとアルフェリア……いえ、アルプトラウムが仕組んだ緊急脱出用の仕掛けですね。今頃亜空間でも通り抜けてどこか安全な場所にでも辿り着いていますよ。追尾は不可能だと思われます』


「クソっ!! ……次に会った時は必ず……!」


 アシュリーが怒るのも無理はない。

 メリーを取り戻すには千載一遇のチャンスだった筈だ。


 それをみすみす逃してしまったのは俺の油断でもあるし、このファウストにすら見破れなかったアルプトラウムの悪巧みのせいだ。


 アシュリーもそれは分かっているらしく、誰に当たり散らすでもなく地面にガツガツとつま先をぶつけていた。


 ちなみに、空振りしたマリスは少しだけ固まったあと、諦めて元のドレスに戻っていき、ロザリアに怒られて「ぷっきゅ」と鳴いていた。あの声を聞くのも久しぶりである。


『……少なくともあの身体では完全復活するまでに相当の時間を要するでしょう。しばらくの間はこれで安心だと思いますよ。アルプトラウム本人が来るような事さえなければ、ですが』


 その言い方されて安心できる奴がどこにいるんだよ。


「お、おい……」


 震えがまじった可愛らしい声に振り替えると、俺の服の裾をめりにゃんが掴んでいた。


「お、お主……まさか、まさか……」


 あぁ、そうだった。

 まだ皆に何も説明してなかったな。


 アシュリーは多分気付いてる。もしかしたらショコラから聞いてるのかもしれないけど。


 ロザリアは勿論事情を把握しているようだ。


『我は驚いていますよ』

 うるせぇお前の事はいいんだよ。

『酷い』

 しかしまぁ、助かった。ありがとな。

『……感無量』


 んでファウストって神様もある程度理解しているだろう。


 という事はだ。

 真っ先に状況を説明してやらなきゃならない子がここに一人居た。


 俺は少し屈んで、本来の姿を取り戻している少女と目線を合わせる。


「ただいま、めりにゃん」


「ばっ、ばかぁ……」


「泣くなよ。もう、離さないから」


 そう言って彼女の手を握ってやると、


「この馬鹿者がぁぁっ!!」


 思い切り首に抱き着かれ、彼女の細い腕が首に食い込み、危うく意識を持っていかれそうになった。


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