魔王様と棺桶ゾンビ。


 この子達を早く楽にしてあげないと。

 その為にも……私は今まで、出来る限り避けていた戦い方をする事にした。


 私の中に眠るアーティファクトが幾つあるのか正確には把握していないが、この身体の中からこの状況に適した物を探す。


 記憶の引き出しを開いて行けば可能だ。

 検索をかけて必要な力を行使すればいい。


 私はまず、強烈な振動派を発生させる物を選び、魔族の皮膚に触れる。


 見た目では分からない程の超微細な振動による内部への攻撃で魔族の皮膚は亀裂だらけになり爆発した。

 体内の水分に振動を加えながら雷魔法を合わせる事で魔族の体内の血液や水分を霧のようにして散らした。


 身体はすぐに修復を開始するが、水分までも修復されるのだろうか?


 その答えは、完全にではないが修復される、だった。


 私のその攻撃を嫌がるようになったのである程度のダメージはあったのだろう。

 今度は魔族の身体が小さく、鋭く変質していく。

 体内に残っている水分で効率よく動ける身体に変異したのだろう。


 少し身体をくねらせると空に混ざって見えなくなってしまう程にペラペラな物体になる。

 それは物凄い速さで空を飛翔し、気が付けば私の周りを三重に取り巻いていた。


 一気に縛り上げるように締め付け、そのするどい身体で私を切り裂こうとする。


 私は敢えて自分の身体を霧に変えるアーティファクトを使用しその包囲から抜け出した所で再び実体化。


 ぎゅうぎゅうにひと塊になった刃物状の魔族には超高温の液体金属をぶつけてやった。


 こんな物普段何に使う為に持っていたのか分からないが、持っていれば役に立つものである。

 刃物状になった薄い身体は大量の液体金属に絡めとられ、次第に硬化していき、やがて動くことが出来なくなった。


 冷えて固まったのだろう。空を飛び回る事も出来なくなり地面へと落下していく。


 おそらくこのままでももうこの魔族は身動き取れないだろうが、楽にしてやると約束した以上このまま放置もできない。


 私は魔族を追いかけ地面へ降り立つと、その金属の塊の中へと手をずぶずぶとねじ込んでいく。


 私は重力操作のアーティファクトを用いて魔族の身体をどんどん薄っぺらな板状に変えていく。出来る限り薄く薄く……。


 すると、その中にキラリと輝く物が幾つか見え始めた。


 かなり小型化に成功しているらしく、この魔族の体内に取り込んでいたアーティファクトは全てビー玉程度のサイズだった。


 だからこそ一つ一つの力は大した事がなかったのかもしれない。

 故に、強度もまったくと言って大したものではなく、軽く踏み潰しただけで砕けてバラバラになる。


 それを幾度も繰り返していくうちに、再生機能を持ったアーティファクトに当たったらしく、魔族の身体がドロリと溶け出し、地面に吸い込まれるようにして消滅した。


「……苦しませてごめんね」


 さてと、これ以上ロザリアを放置していたらどんどん悲しむ命が増えていくだけだ。


 最悪の場合、アシュリーやメリーには悪いがあの身体自体を破壊しなくてはならないかもしれない。


 私は恨まれる覚悟をしなければ。

 私にとって一番大事なのは今この国を守る事だから。


 その為には、多少の犠牲は……。


 そこまで考えて、自分が分からなくなる。

 本当にそれでいいのか?

 きっと迷っているままじゃ勝つ事は出来ない。

 だから、恨まれる事も、犠牲が生まれる事も覚悟しなくてはいけない。


 なのに、やっぱり私の心はすっきりしない。

 何か方法があるんじゃないかと、そればかりを考えてしまっている。


「終わったのなら早く手伝いなさい!」


 ロザリアが私を呼んでいる。早く加勢しなくては……。


 そんな事を悩んでいるうちに、魔族王がロザリアを吹き飛ばし、彼女は私の足元へと落下してきたので慌てて受け止める。


「……礼は言わないわよ。チンタラしてる貴女が悪いんだからね」


「分ってる。だけど……なんとかしてあの子の身体から中身だけを引きずり出す方法ってないのかな?」


 ロザリアは「呆れた……」と呟いて、魔族王を睨む。


「あいつはそんな甘い考えで倒せるような奴じゃないわよ」


 アレが本当に魔王メアだったとしたら、確かに甘い考えで勝てる相手ではないのだろう。


 だけれど、今はこの私が魔王メアなのだ。

 だから、私が簡単に負けるわけには行かない。



「相談タイムは終わったかしら? 遊んであげるからかかってきなさい」


 随分余裕なんだよなぁ。

 とりあえず私は捕縛の方向で考えてみよう。


 これでも私は魔王なんだ。

 少なくとも、魔王の知識と力がある。

 だったら……まずはいろいろ試してみないとね!


「ロザリア! 私に協力して!」


「……何よ。……ふむ、まぁそれで気が済むのなら少しくらいは付き合ってあげるわ」


 彼女は呆れ顔のまましぶしぶ承諾してくれた。


「じゃあ行くわよ! どっせい!」

「はいはい」


 私達は協力して魔族王を結界に閉じ込めた。

 可能な限り協力な物を、ロザリアの力を借りて更に強力に。

 五層重ねて小さな棺桶のような結界を造り、その中に閉じ込める。


 これで大人しくなってくれれば対応は後でゆっくり考えればいい。


 ロザリアは完全に私の魔法に合わせてくれて、一瞬で棺桶を形成し魔族王を閉じ込め、地面にどすんと落下した。


 けれどバキバキメキメキ……という音と共に棺桶から手が生えた。


 すぐに手がもう一本生えて、内側から破壊されていく。


「鬱陶しいわね……まさか私をこんなもので閉じ込めようとしたわけ?」


 まぁ、そうなるよね。

 そして、どうでもいいんだけど棺桶から這い出してくるとゾンビにしか見えない。





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