魔王様とお姫様と魔族王。
「魔族王……?」
なんだそりゃ。そのままの意味なんだろうけど、魔族の王?
「その魔族の王様っていうのは強いの? その人が今回の件の首謀者って事?」
「強いかどうかは知らないわよ。でも首謀者なのは間違いないんじゃない?」
それだけ分かれば十分だ。その魔族王って奴がなんなのかどんな奴なのか分からないけど私の王国を潰そうとした報いだけは受けてもらわないといけない。
「教えてくれてありがとう。私はすぐ城にもどるけど貴女はどうする?」
「その顔で喋られると不思議な気分ね……勿論私も行くわ。だってとても楽しそうですもの」
そのにっこりと屈託なく笑う顔はとても美しかった。
……同じ顔だからある意味自分を褒めてるみたいでちょっと気持ち悪い感じもするけど、どう考えてもろくな事を考えてないその笑顔を美しいと思ってしまったのは本当の事だった。
「じゃあ一緒に行きましょう。その魔族王って奴ぶん殴るのに協力して」
「……いいわ。いったいどこのおバカさんなのか楽しみね」
もしその魔族王って奴があの神様だったとしたら……私達に勝ち目があるのかどうか分からない。
かなり分の悪い戦いになるだろう。
だけど、だとしても、私の国を攻めて無事で帰らせる訳にはいかない。
私はすたすたとロザリアの所に歩み寄り、その手を取る。
「ちょっ、ちょっと何よ?」
なんだか慌てているのが少し可愛らしい。
「一緒に行くならこの方が早いでしょ」
「……っ!?」
何か言いたそうな顔してたけどそんな事知らない。私はすぐに城の前まで転移した。
「……もういいでしょ? 離しなさい」
「あ、うんごめん」
「まったく……調子が狂うわね……。それで? その魔族王って奴はもしかしてアレの事かしら?」
ロザリアが見上げた先、そこには……。
あれ、思ったのと違うのがいた。
てっきり私はあの神様か、とにかくデカくてグロいめっちゃ強い魔族か、そのどちらかだと思ってた。
「……アレは何なのかしらね? どう見てもただの少女だけれど」
ロザリアの言う通り。
あれはただの少女だ。
こんな所にいては行けない。
こんな所敵として出会っては行けない、普通の少女であるべきだ。
「……メリー」
あの少女はメリー。
以前アシュリーが目覚めさせた人型のアーティファクトであり、ローゼリアの番人だった。
能天気で、アシュリーにお肉を食べさせてほしいとねだるような、そんな普通の少女だった。
それがどうだ。
今私の視界に映る彼女は……。
「やぁやぁ魔物の国のお姫様。そしてそちらは……あらやだ。同じ顔が二つ並んで気色悪いわ」
彼女の視線は私よりも、どちらかというとロザリアを捉えていた。
「こんな所で貴女に会えるなんて嬉しいわ。これで貴女にも地獄を見せてあげる事が出来ると思うと嬉しくてたまらないわね」
「……この女……まさか……」
何やらロザリアには思う所があるようだった。メリーは明らかにロザリアを敵視しているように見える。
「まぁいいわ。目的はこの国をぶち壊す事だったのだけれど……二人とも等しく私の前に跪かせてあげる」
メリーは人が変わってしまったように思うが、おそらくそれは正解なのだろう。
ロザリアに対する態度から察するに、明らかに何か別の物が中に入っている。
あの神様はこの為にメリーをさらっていったのか?
だとしたら、とことん悪趣味だ。
私達に敵対する何かをその身に宿す為に私達の仲間をさらっていくなんて……。
そしてあの身体はアーティファクトで出来ている。
中に宿ったのが誰なのか、どの程度の実力があるのかは分からないけれど魔族王なんて呼ばれているくらいだから相当なのだろう。
その身体の特性を完全に引き出し、使いこなすのならばかなり厄介な相手だ。
「さぁ、かかってきなさい。私の悪意が、貴女達への殺意が、この抑えきれない負の感情が早く殺せと疼くのよ……」
メリーは、もう私の知っているメリーではない。
彼女を取り戻すにはこいつを倒さなければ。
どうやってメリーの身体から追い出せばいいのか分からないけれど、とにかく脅威を排除してからじゃなきゃそれも考えられない。
「メリーとか言ったけれどアレ知り合いの身体なの? 悪いけど手加減は出来ないわよ」
ロザリアがこちらを見る事なく、メリーを見据えたままそう呟く。
「分ってる。本気でやらなきゃならない相手だと思うから……私も覚悟を決める」
「そう。それならいいわ……私もちょっと見てられないから本気で止めるわ」
それは心強い。先ほどの惨劇を見る限り、あんな戦い方をされても困るけれど実力だけは折り紙付きだ。
「じゃあ、二人で力を合わせてメリーを止めてやりましょうか」
「貴女と力を合わせてってあたりが妙に気に入らないけれど仕方ないわね。今は力を貸してあげるわ」
ロザリアってばちょっと私に当たりが強いんだよなぁ。
私が魔王で彼女がローゼリアの姫ならば、私を恨んでいる筈だからそれは仕方ない。
むしろ、こうやって協力してくれる事を喜ばなくては。
あの剥き出しの悪意を、へし折ってやらないとね!
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